理想の主人公像に支配者を掲げるモブの異世界無双〜異世界で初めてオーラを発見したモブは、その力を『エナジーギフト』と命名し、その地位を確立していく〜
藤花 泉
第1話
『主人公』という言葉を聞けば、大抵の人間が『最強』とか『中心人物』という言葉を同時に連想するだろう。
それは僕もそうだ。
あらゆる才を持っていて、産まれた頃から恵まれた環境にある、そんな主人公に僕はずっとなりたかった。
でも僕はそれにはなれない。
何故かって、天性のモブだからさ。
主人公とは一言で表せば才能の塊だ。
それに対し僕は、生まれた環境は勿論、成績も運動もスクールカーストも全て普通のTheモブキャラクター。
もしこの世界がゲームだとしたら、僕は特定の文章をただ繰り返すだけのbotかそれ以下の立ち位置になるように設定されるだろう。
でもこの世界はゲームじゃない。
紛れもなく現実だ。どれだけ根がモブで、叶わないと決まっているような夢でも見る事自体は許されている。
だから僕は、今でも懲りずに『主人公』という夢を持ち、今でもなれると信じているのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――きっかけは近所に住む幼馴染の存在だった。
その幼馴染は、練習をしなくても見ただけで物事をこなせてしまうような才能を持ち、周りにはいつも人が集まっている、正しく主人公と呼べるような人間だった。
そんな人物を幼馴染に持っていたからか、僕はこれまで嫌という程比較され、その才能に嫉妬していたと同時に胸の内では憧れと尊敬の念も抱いていた。
そうして何時しか夢を持つようになっていた。
『この幼馴染みを凌駕する――アニメや漫画に出てくるような絶対的な主人公になりたい』
そこから僕の主人公へ成り上がる計画が本格的に始動した。
主人公へ成り上がる計画とは大袈裟な名前を付けたものの、やる事は特段変わった事ではない。
ただ主人公がやりそうな事を見様見真似でやっていくだけだ。
性格を変えて周りを引っ張り、クラスの委員長とか、範囲を広げて生徒会とかとか……できる限りの手を尽くしてきた。
でも結局ダメだった。
途中から薄々勘づいてはいたが、気づきたくなかったのだ、自分が惨めに見えるから。
現実は残酷だよな、とつくづく思う。
どれだけ主人公の真似をしても、それはただの真似事に過ぎない偽物、その現実が僕の心を酷く抉った。
それから暫く放心状態が続き、憮然とした日々を送っていたのだが、そんなある日テレビを付けると偶然にもアニメが放映されていた。
見ること自体が懐かしいアニメだ。
まだ小学生だった頃は、リアルタイムで見たいが為に始まる三十分前くらいからよく画面の前に張り付いていたなと、そんな思い出がふと甦っくる。
何も考えずにただひたすらボーッと眺めるのもそれはそれで悪くない、そう思った瞬間の出来事だった。
とあるアニメのワンシーン、それが僕の人生のターニングポイントとなったのだ。
その内容を端的に説明すると、ある一人の科学者が、謎のウイルス的な何かをばら撒くシーンで、何の力も持っていない一般人の身体能力を底上げさせ、闘わせていたのだ。
初めてそれを見た時、僕の霧がかっていた脳内は嘘のように晴れ、一つの結論を導き出していた。
これだ……!と思った。
それこそが中二病だ。
この中二病を大抵の人間は嘲笑や侮蔑の道具として扱っているだろう。
だが僕は違った。
この中二病を最大限に活かす事ができれば、漫画やゲームのような特別な力を得ることができると考えていた。
中二病も言うなれば一つのウイルスみたいな物だ。
特別な力を得る事ができても何らおかしくはないだろう。
そうして再び主人公への成り上がり計画は歩を進めだした。中二病という新たな力の種を得て。
僕のこの考えを大多数の人間は理解してくれないだろうが、それも覚悟の上である。
――ある人は云った。
天才は孤独であると。
また、ある人は云った。
無から有を生み出す人間は決まって批判を受けると。
何かを得る為には常識の範疇では収まりきらない、奇抜で常識外の思考を持つ必要がある。
だから僕も、凡人の領域から抜け出さないといけないのだ。
何時しかくる、この中二病の進化の日に向けて――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
中二病も第一進化を遂げ高二病となった高校二年の今日この頃、高二病の修行の一環としていた理想の主人公となる為の妄想は、現実世界だけには留まらず夢の世界にまで手を伸ばしていた。
『肉体強化をするのだ。さすれば力は得られる』
と、夢の中で促すのは他の誰でもない僕だ。
しかし不思議だな。
今まで似たような夢を見はすれど、こんな諭すような夢は初めてだった。
これはもしかすると、遂に来たのかもしれない。
待ちに待ちわびた覚醒の日だ。
という訳で肉体強化に移りました。
勿論、妄想は忘れずに。
ランニングや筋トレなどなど……取り敢えずできそうな肉体強化を施したが、一日だけでは当然効果は出ない。
また明日も頑張ろう。
そんな所で学校から帰る途中、突然それは起こった。
「キャーーーーーーーーーー!!」
女性の喚声が聞こえてきたので、その方に目を配る。
それは僕だけではなく、周辺にいた全ての人がその女性に目を遣っていた。
叫んだ女性の先には、見るからに怪しい目出し帽を被った人間、体型から見て恐らく男だろう――が、バッグを持って疾走している姿だった。
なるほどひったくりか。
僕は咄嗟に追いかけていた。
自分でも何故追いかけたのかは分からない。
けど、主人公なら迷わずこうしたはずだ。
「待てっ!!」
と叫び、追いかける僕。まだ若い。
「――――」
ハァハァと息を上げながら疾走を続けるひったくり。
歳かな?
暫くいたちごっこのような関係を続けていき、やがて僕が追いついた。
「くそォ!!何だよお前ぇぇぇぇ!!」
ひったくり犯は右手をポケットに突っ込むと、取り出したのは一本の折り畳みナイフ。
……ナイフ!?
「死ねぇぇぇぇ!!!」
「ちょっ、待てっ……グハァッ!!」
聞く耳持たず、僕の腹部には刃渡り9cm程のギリギリ法律に引っ掛かるナイフがグサリと突き刺さり、徐々に深さを増していく。
痛い?熱い?
分からない。何も感じない。いや麻痺しているのか?
どの道、意識は残っている。
まだ大丈夫。まだ死んでない。
僕はまだ、主人公という夢を叶えていないのだ。
こんな所で死ぬわけにはいかないッ!!
そう決意を固めた瞬間の出来事。
悲劇は終わらなかった。
「う、うわぁ!!来るなぁぁああ!!!!」
僕にナイフをぶっ刺したひったくり犯がそう叫んだ。
ちなみに現在は道路のど真ん中である。
あえてもう一度言おう、道路のど真ん中である!!
薄れゆく意識の中で、ひったくり犯の瞳孔が開いた。
腹部にはナイフが刺さったまま地面に仰向けになっている僕は、ひったくり犯のその瞳の先を確認すると、僕も自然と瞳孔が開いていた。
何と一台の赤い軽自動車が、頭上に向かって勢い良く迫っていたのだ。
これは本当にやばい。
刺されただけならまだ意識もあるし、助かる可能性も残されているが、このまま自動車に轢かれれば間違いなく死ぬ。
早く、早く逃げなければ……。
そう必死に藻掻くが血を流しすぎたのかミリも動けない。
ひったくり犯はもう踵を返し逃げようとしていた。
が――、
「な、何だよこれぇぇ!!おかしいだろォォッ!!!!」
足先から感じるヘッドライトの白い光に僕は慌てて下を見た。
……あ、死んだ。
案の定、下方からも黒い軽自動車が勢い良く迫っていたのだ。
僕は腹部にナイフが刺さり、頭上と足先には二台の自動車。
止まる気配は皆無な辺り、二人の運転手は居眠りか飲酒か、恐らくそのへんだろう。
正に絶体絶命だ。
「うぶへぇぁ!!」
そのまま走って逃げようとしていたひったくり犯は、足先に迫っていた黒い軽自動車に轢かれ、跳ねられた。
宙に浮かび、綺麗な三回転を描いた後、僕の右隣に着地する。
意識は既に失われているみたいだ。
死ぬ時は一緒ってか?
冗談じゃねぇよ……。
そして僕も、ナイフによる流血により意識が薄れ遠のいていく。
やがて……瞳が……閉じていき……。
意識も……何もかも……。
――ドォォォォォンッ!!!!
衝突音が鳴り響き、僕は自動車と自動車に挟まれて、無惨な死を遂げた。
――自動車同士の衝突により死者二名を出したこの大事件は、今年最も不幸な事件として歴史にその名を刻んだ。
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