第15話
四日後の土曜日に宿まで迎えに行くので、家に来てくれないかとのことだった。語り部の老女は頭も口も達者だが、二年前に転倒して大腿部を骨折してから自力歩行が困難になり、外出が難しいとのことだった。向こうの条件を了承し、四日後の午後二時にという約束を
備え付けのグラスに水を注ぎ、持参した粗塩をひとつまみ入れ水そのものを
「小萩、頼むよ」
こくんと頷いた式神は、小さな両手でコップに念を送る。水面が小さく波打ち、やがて母の式神である桔梗が映し出された。何の感情もない虚ろな目をしている二体の式神だが、互いの意思疎通は出来るらしく、すぐに薫の顔が映し出された。
「母さん、一応水鏡は出来上がりました。なにぶん簡易の急拵えなので、効力は三十分といったところです」
万が一にも仲居が近付いていたとき、不審に思われないよう極力声を落として言えば、向こうもそれを了承しているらしく頷いた。馨は土曜に手掛かりとなるであろう白藤のことを聞きに行くと告げる。と、母からとんでもない情報を聞き、思わず大声を上げてしまった。
「どういうことですか、母さん」
「仕方がないでしょう? どうしても行くとおっしゃるのですから」
馨が出立してすぐに
「あなたと同じ宿を手配したから、お願いね」
「お願いねって母さん! そんな急に言われても困りますよ」
馨にしてみたら只でさえ初仕事で緊張しているのだ。依頼人に監視されながら調査を続けるなど、精神的な拷問に等しい。
だが母は涼しい顔で
「家元からも、宜しくお願いしますと言われてしまったら断れないし」
などと、しれっと言ってのける。
じゃ頑張ってねと、まるっきり他人事のように言ってのけて母は、あっさりと水鏡から桔梗の霊力を切り離してしまった。そうなると普通の水に戻ってしまい、どんなに呼びかけようが悪態を吐こうが、応える声はない。
「まったく、何て自分勝手なんだよ!」
母と茉莉に対して憤りを覚えるが、茉莉に対しては同情を禁じ得ないなと反省する。彼女からしてみれば、藁にも縋る思いで久遠家に依頼してきたのだ。名古屋で調査結果を待つ心境になれないのも当然だろう。見た目に反して行動力のある女性だなと嘆息しつつも、婚約者が失踪したら自分もああやって取り乱すのかなと己と重ね合わせてみた。だが顔合わせも済んでいない
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