エルフは島風に仰ぐ

@mitume14

第1話 プロローグ


 エルフ族にとって人生の長さは毒と言える。人族や獣族にとって長命は憧れであり、50〜100年を一生と捉える彼らからするとエルフの一生は不老と変わりない。


 精霊の血が混ざるエルフには、そもそも寿命という概念は存在せず肉体が朽ちる時、それを寿命としている。よって、平均寿命という概念もなく、老いによる死への忌避感が一切備わってない。


 肉体が朽ちたエルフは精霊に成り、これまた恒久的時間の中で存在し続ける。

 エルフ族にとってその時間が毒であると評したのは、エルフにとっての一年と、人間にとっての一年がなんら変わらないという点だ。当然、体感時間の差異はある。


 しかし、それは長く生きたエルフが顕著に感じる現象であって、エルフも人間も一歳児が覚える感情は同じなのだ。

 風に触れ、熱を含み、愛を嗅ぐ。

 同じ成長が同じ時間の中で起こる。そこに種族特有の違いはあれど、子どもが大人になるという過程は普遍的にあり続ける。


 未知が既知となり、未体験を体験し続ける。瑞々しい感性は少しの現象に喜びを感じ、繊細な感情は日々の生活を彩っていく。やがて大人になり、子どもの頃憧れた姿へ自らを変容させていく。挫折を味わい、苦難を乗り越え、明日を思い眠る。


 エルフも変わらない。エルフが浮かべる感情も、感傷も、感動も、人族や獣族と変わる事はない。

 けれど、エルフが大人として種族に認められる時、同じ時に産まれた人族や獣族の彼らは子を成し、人生の半分に到達している。


 同じ速度と密度の人生も、終わりまでの時間に差があるとここまで生き方に違いが生まれる。

 エルフにとって、この終わりまで途方もない時間は、感覚を狂わし、生を望まず、感情を殺していくのだ。

 まさに毒と言えよう。


 400年も生きたエルフになると、肉体の存続に必要な活動を最低限行い、あとは趣味兼時間潰しを惰性で行うのがほとんどだ。エルフがものづくりや魔術研究に長けているのはこれが理由なのだが、ほとんどのエルフは自分の世界から出る事は滅多にない。エルフが閉鎖的という印象もこれが少なからず影響している。


 ごく一部、エルフ族ではない種族の世界に根を下ろし、商会を開いたり、魔術学校を作ったり、冒険者として名を馳せていたりする。

 そのごく一部の中でも極めて特異なエルフ、名をリオンディーラ。魔術だけでなく、体術にも心得があり、19歳から70歳になるまで人類共栄圏であるオクシアスで育った。

 冒険者に憧れ、世界各地を旅する事を夢見るリオン。

 オクシアスを後にしたリオンは、世界各地を周り様々な体験をする。人々の戦争や魔族との闘い、愛する女性を見つけ長く滞在した事もあった。

 ちょうど150になったリオンは次の目的地を決めた。アルト海に浮かぶ多くの島々。アルト諸島の放浪旅が始まろうとしていた。

 

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