大学紀行辞典

天久京間

第0号 はじめに


(明鏡国語辞典 第二版)より

じ-しょ【辞書】

〘名〙ことばを集めて一定の順序に配列し、発音・表記・意味・用法などを説明した本。辞典。字引。「―を引く」▷「辞典」のほか「字典」も含めていう。


   ***


言葉には主観的な面がある。

例えば、「ケーキ」という単語から何を思い浮かべるだろうか。ショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキ、ロールケーキなどが挙がってくるであろう。たった一つの言葉だけでこれほどまでのものが出てくる。興味深い点は、言葉を受け取ったときに思い浮かべるものは聞いた本人の体験に基づくことだ。最近、誕生日であった人は誕生日ケーキとして出された種類のものを思い描くことだろう。いかに言葉に主観的な面があるか、お分かりいただけたと思う。しかし、「辞書」に載っている言葉は客観的な面が強く出ている。


もちろん、辞書としての使命を考えれば至極真っ当なことだ。独りよがりな言葉の意味を載せてしまえば、それを「辞書」と呼ぶには怪しいものである。また、同じ言葉でも辞書に書かれている語釈は出版社ごとにある程度異なっている多様性が認められる。けれど、言葉の一つの面白みを大きく削ってしまい、どこかもったいなさを感じてしまう。


小生はこれを憂い、言葉の面白さの一つである主観的な面がより出ている辞書をつくりたいと思い至った。万葉集を若者言葉にし、古典の面白さに気づくキッカケになった『愛するよりも愛されたい』(著者:佐々木良)のように、辞書の言葉を独善的な愚文にし、言葉の一つの面白さに触れられるキッカケになるものをつくっていこうと思う。そのためには、あらゆることを体験する旅が必要だ。


そこで、大学生活という荒波の旅の記録に辞書の要素を付け加えた“大学紀行辞典”なるものを書き留めていきたいと思う。前述したようにそれを「辞書」と呼んでいいものか、という疑問がある。しかし、 “大学紀行辞典”はあくまでも社会の一端しか知らず、言語学者でもない、大人になりきれない、とある大学生の戯言たわごとによってつくられるものだ。どうか読者の寛大な心でご容赦いただき、面白おかしく受け取っていただけたら幸いである。


それでは、とある大学生が辞書をつくる旅を始めよう。


≪2024年10月某日 ―講義中、教授の話に聞き耳を立てながら―≫


   ***


※以下、3点の語釈を“大学紀行辞典”に採用とする。

ことば【言葉】

動物、植物、ぬいぐるみなどの他者と繋がりを持つための手段の一つ。受け取ったときに思い浮かべるものは聞いた本人の体験に基づくという主観的な面がある。 “ケーキ”の場合、執筆者は御礼品として頂いたロールケーキを思い浮かべる。冷蔵庫に入れていたことを忘れ、一口も食べれなかったケーキである。「ララはテディベアに『こんにちは』と―を掛けるが素っ気無い態度を取られた」


じしょ【辞書】

言葉の意味をまとめた書。記載されている語釈は全体的に達観しており、味気ないことが多々ある。また、同じ言葉でも書かれている語釈は出版社ごとにある程度異なっている。「―は重い」


だいがく-きこう-じてん【大学紀行辞典】

社会の一端しか知らず、言語学者でもない、大人になりきれない、とある大学生の戯言たわごとによってつくらた辞書。一般的な辞書としては、扱えない。「―を書いた奴の顔を見てみたい」


※主な参考文献

『明鏡国語辞典 第二版』大修館書店

『愛するよりも愛されたい』万葉社(著者:佐々木良)


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