今日も煙草は苦いまま
小鳥遊 忠一
第1話 煙草って苦い
鉛のように重い体を一歩、一歩と進めやっと玄関につくとドアノブに手を伸ばす。
ガッ!
あれ何で開いてないんだろ、あぁそっか、
鍵何処だっけな、確か鞄の内ポケットに、あった、あった
ガチャ
いつもとあまり変わらない景色、だが確かに変わった景色だった。電気のついていない暗い玄関、廊下、部屋。外の明かりを頼りに電気をつける。
カチッ
これでいつもどうりのはずだが、何処か寂しげがある。部屋につくと、鞄を下ろし自らテレビをつける。
「なんでやねん!」
「ははははっ!」
テレビから聞こえる笑い声に少し嫌気が差す。
ご飯食べよ
雑に貼られた半額シールのついた蓋に目をやり、電子レンジに入れる。
ピッピッ、ピピピ、ポチ、ブーン
赤くなるのを少し見つめて手を洗いにいく。水はいつもより冷たかった。
あっお湯ついてないのか、お風呂も洗わなきゃ、
手を拭いてからお風呂を洗う。いつもよりなんだか長く丁寧に洗うと、泡を落とし、栓をしてお湯をつける。
四十一度で自動でお風呂を入れます。
帰ってきて最初に聞く人の声がお風呂の音なのはいつぶりだろうか。いや、最初はテレビだったか、
「はっはっ」
乾いた笑い声、なんだか惨めで情けない。ふと洗面台の鏡が目に入る。
「酷い顔、」
チンッ
電子レンジが鳴った、蓋を開け、のり弁に手を伸ばす。
「熱っ!」
しばらく置いておくことにした。
またテレビから笑い声が聞こえ、テレビの前のソファに向かう。座ろうとすると一つ、見覚えのある小さな箱が目に入る。
あいつ、煙草置いていきやがったのか、しかもいつもかたせって言ってんのに、結局直さなかった
「…」
「煙草、美味しいって言ってたっけ、どんな味なんだろう」
いつも隣で、あるいはその後ろ姿しか見ることがなかった煙草に手を伸ばす。
確かこっちを咥えて、こっちに火をつけるんだよな
ライター何処だっけな、確かこっちに置いてあったはず、あれ、じゃこっちかな、あれー、何処だっけ…まっいっか、
「ごめんなさいおじいちゃん、少しだけライター借ります。」
仏壇に置いてあるライターを拝借し、ベランダへ向かう。
涼しい、もう秋か、月も綺麗、そういえば最近は二人で月見ることも無かったな、思えばこうなる前兆他にもあったのかな
煙草を咥え火を付ける。
地味に熱いな、おっついた、これで吸えばいいのか?
スー
「っ!?ゲホッゲホッ、なんだコレ、苦っ!熱っ!それに匂いも強っ!こんなの吸ってたの!信じらんない!これは寿命縮むわ!全然美味しくない!」
何処が美味しんだこれ、何でこんなのにお金出すんだろ、これ、世の喫煙者ってバカなのか!?いや、バカと言うのは申しわけないか、それは悪いな、いや私がやり方間違ったかも、携帯、携帯、っと
スマホを開き検索する。 煙草 吸い方
「げっ!一気に吸っちゃダメなんだ、あいつすごい煙吹いてたから、思っきり吸うのかと、そりゃ不味いか、」
煙草に目をやり、小さな覚悟を決める。いざ、もう一度咥える。
そっと息を吸い、溜め込んだ煙を肺に落とすように吸う。
「ケホ、ケホ、」
「やっぱ、美味しくない、」
「煙草って苦い」
軽快な音楽とともに人の声が部屋に響く
お風呂が沸きました。四十一度で保温します。
そろそろお弁当も冷めたかな、
「ご飯たーべよ」
ん、あいつ灰皿も中身そのままじゃねーか
「はぁ」
灰皿で火を消し、部屋の中に入る
カチャ
月明かりのもと、都会のアパート一室、今日から一人の女性はまだ口に残る煙草の香りを感じながらまた明日も強く生きる。
今日も煙草は苦いまま 小鳥遊 忠一 @kaaki1116
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。今日も煙草は苦いままの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます