第7話 「前途多難」

 一方、町外れの森にて、ウンケイとバンキが薙刀なぎなたと刀をぶつけ合う。

 「ケケケ! おいらと力比べで勝った奴はいねぇぞ」

 「そいつは奇遇だな。俺もそうさ」

 するとバンキが後ろへ下がり、物凄い速さで再び突進する。ガンッ! それをウンケイが受ける。しかし、ウンケイは少し後ろへ後退る。

 「どうしたぁ! どんどん後ろへ下がっていくじゃねぇか!」

 再びバンキが素早く後ろへ退き、再び素早く突進する。

 「うっ!」

 ウンケイが後ろへ後退る。バンキは、素早く後ろへ下がっては突進を繰り返し、徐々にウンケイが押されていく。後ろには大木があり、段々とウンケイとの距離が縮まっていく。

 「ケッケッケ! このまま潰れろぉ!」

 「くそっ! 仕方ねぇ」

 バンキの突進を、ウンケイが素早く横に避ける。するとバンキが、そのまま真っ直ぐ突っ込んでいき、大木に激突する。大木が大きな音を立てて倒れる。

 「よく避けたなぁ。だが、力比べはおいらの勝ちだ」

 「ふざけんなてめぇ。ありゃ反則だぜ」

 バンキは無傷でニヤニヤと笑っている。すると、今度はウンケイが腰を落とし薙刀を構える。その威圧感を感じたバンキが笑い止む。

 「次は俺の番だ」

 ビュッ! ウンケイがバンキに突っ込む。バンキは、大きな二対の刀を交差させ構える。

 「跳ね返してやる!」

 ガキィンッ!! 薙刀と刀がぶつかり合う。しかし、それはほんの一瞬。次の瞬間には、バンキの巨体が後方へ吹っ飛んでいる。

 「は?」

 バンキの体は、どんどんと後ろの茂みを突き抜けていき、勢いよく大木にぶつかって止まる。

 「何だ今のは!! 何が起こった!?」

 バンキがむくりと起き上がり、呆然としている。

 「力比べは俺の勝ちだな」

 遠くに見えるウンケイが、バンキに薙刀を向けている。

 「そんな訳ねぇ! あ! まさかお前、神通力じんつうりきの使い手か!?」

 顔を真っ赤にしたバンキが、ウンケイを指差して騒いでいる。

 「神通力なんて使えねぇよ」

 「嘘だ!! この野郎ぉ!!」

 すると、バンキが刀を交差させ、勢いよく突進してくる。ウンケイは薙刀を後ろに構える。ガキィン!! ガキン! ガキン! ウンケイの薙刀とバンキの二対の刀が、何度も激しくぶつかり合う。

 「今度はおいらが吹っ飛ばしてやる!」

 バンキが額に汗をかきながら、力強く刀を振る。

 「おいおい。剣の作法もあったもんじゃねぇな」

 二人がぶつかり合い、激しく火花が散る。しかし今度は、バンキの方が徐々に押されていき、少しずつ後退っていく。

 「ぐっ・・・! くそっ・・・!!」

 バンキは、ウンケイの攻撃を防ぐのが精一杯になり、汗だくになっている。一方ウンケイの方は、涼しい顔で攻撃を続けている。

 「くそぉ!!」

 すると、バンキが地面を蹴り、土埃をウンケイにかける。

 「うっ!」

 ウンケイが顔に来る土埃を腕で防ぐ。その瞬間、バンキが刀で斬りかかる。ウンケイの体から血が噴き出る。

 「ケッケッケ! やってやったぜ!! ケッケッケ!」

 バンキが刀を掲げて飛び跳ねている。ウンケイは膝を着き、斬られた箇所を手で抑える。

 「これは戦いだ。反則だなんて言うなよ? ケケケ」

 「・・・あぁ、言わねぇよ。・・・だが後悔するぜ? 今の一撃で、俺を仕留め損なったことをな」

 ウンケイがニヤリと笑う。

 「強がってんじゃねぇ! 後悔? するかそんなの! 次でお前を仕留めるからなぁ!」

 するとバンキが刀を交差させ、空高く飛び上がる。

 「必殺! “つるべ落鈍牙おとし”!!」

 バンキが、刀を前に頭から物凄い速さで、地上のウンケイ目がけて突っ込んでくる。それは地面に向かうにつれ、どんどん速くなって来る。

 「・・・わはは。前途多難ぜんとたなんだな。天下取りの道はよ」

 ウンケイが立ち上がり、上を向いて薙刀を構える。

 「潰れろぉぉ!!!」

 「なぁ、しゃらく!」

 するとウンケイも飛び上がり、空中でバンキとの距離が近づいていく。

 「“火車かしゃ”」

 ズバァッ!!! ウンケイが薙刀を振り、バンキを斬る。

 「ぐふっ・・・!!」

 ドシーン! バンキが地面に落ちる。バンキの体には大きな傷ができ、かぶとも割れて気を失っている。遅れてウンケイが着地する。

 「痛ぇな。斬られたのは久しぶりだぜ」

 ウンケイが倒れた大木に座り、着物の切れ端を破き、それを巻いて傷を止血する。

 「ところで、あの野郎は無事なんだろうな? うっかり死んでやがったら殺してやるぜ」

 今度は薙刀に布を巻きながら、ボソボソとぼやいている。

 「まぁ朝になったら探すとして、あいつの始末をどうするかだな」

 おもむろにウンケイが、バンキが倒れている方を振り返る。すると、そこにバンキの姿が無い。

 「何!? どこ行った!? 完全に気を失ってた筈だぞ」

 慌てて周囲を見渡すがバンキの姿は無く、血痕も倒れていた所にしか残っていない。

 「消えた・・・!!?」



 城下の外れの小さな長屋にて、しゃらくと小さな男の子、そしてその母親が寄り添っている。母親は意識が戻ったようで、しゃらくが傷の手当てをしている。

 「母ちゃん大丈夫?」

 「うん。大丈夫よ。あなたもごめんね」

 「謝るのはこっちだぜ。巻き込んじまって、すまねェな」

 しゃらくが、自分の着物を破いたであろう布を、傷口に巻いて結ぶ。

 「よし。これで大丈夫だ。おい坊主、水持ってきてやれ」

 「分かった!」

 少年が台所へ駆けていく。すぐに少年が戻って来て、水の入った茶碗を持っている。しかし少年は浮かない顔をしている。

 「今日の分こぼしちゃったから、この水で最後だ・・・」

 落ち込む少年とは対称に、しゃらくと母親が笑う。

 「じゃあ大事に飲まなきゃね」

 「任せとけ。たんまり持って来てやるから」

 しゃらくがニコッと笑う。

 「あれ? お侍さんは?」

 少年の言葉にしゃらくが振り返る。すると、倒れていた筈のキンバの姿が無い。咄嗟とっさにしゃらくが、少年と母親の前に身構える。

 「どこ行った!?」

 しゃらくが辺りを見渡しながら、キンバが倒れていた所へ近づく。

 「・・・匂いがしねェ」

 しゃらくがクンクンと周囲の匂いを嗅いでいる。

 「この辺りにはもういねェな。匂いも残ってねェとなると、消えたのか? ・・・もしかして、あいつお化けかァ!!?」

 しゃらくが頭を抱えて慌てふためく。

 「お兄ちゃんお化けが怖いの?」

少年がニヤニヤとしゃらくを嘲笑する。

 「バ、バカ野郎! おれに怖ェもんなんてねェ!」

 しゃらくが再び慌てふためく。

 「あら、お前も怖いだろ?」

 すると母親が、笑いながら少年をつつく。

 「か、母ちゃ〜ん!」

 慌てて母親の袖を掴む少年を、しゃらくと母親が笑う。



 「・・・なるほど。相手は手練れか」

 ビルサ城内の大広間にて、頬杖をついて横になっている大男が一人。目の前には、気を失ったキンバとバンキが横たわっている。

 「ビルサ様。恐らくあの二人、放っておけばこの城へ攻め入って来ると思われます。如何いかが致しましょう」

 倒れている二人の横で家老が膝をついている。

 「グフフ、結構。歓迎してやろう」

 ビルサがニヤリと笑う。そしてのっしりと立ち上がり、倒れた二人に近づく。すると、徐に腕を振り上げる。ズバァァ!! ビルサが腕を振ると、物凄い音と共に二人の頭上の畳が大きくえぐれる。それで目が覚め、二人が飛び起きる。

 「この俺に喧嘩を売れば、どうなるか。我が城で、そして我が神通力を持って沈めてくれるわ。グハハハ」

 ビルサのあまりの迫力に、家老と二本牙にほんきばの二人が生唾を飲み込む。ビルサが不気味な高笑いが、夜に響き渡る。


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