#29 時間と空間
「
客室の椅子に腰掛けたジェフが、魔法について説明する。
「地属性は『砂』『土』『岩石』『鉱物』『金属』『植物』に影響を及ぼす。水属性なら『水分』や『冷気』だし、火属性なら『火炎』や『熱』で、風属性なら『音』『空気』『気流』だ」
その辺りのイメージは簡単だ。
「では光属性は?」
「『電気』『磁力』『生命力』だね。太陽神サウルを信仰する栄耀教会では、この光属性を
『生命力』は治癒や回復の魔法に関係するため、『邪神の息吹』が起こった時代に於いて、それを得意とする彼らは重用されるとダスクが言っていた。
「闇属性はどうなのでしょう? 他の属性と違ってあまりイメージが湧かないのですが……」
「『時間』『空間』『重力』『記憶』『精神』『感覚』に影響を及ぼすと言われているね」
それを聞いて得心が行った。
「……確かに、私はこれまでに何度も空間を飛び越えましたし、あの時間が跳躍したような奇妙な現象も、錯覚ではなかったということですか……」
そして先程、私の魔力がまた新たな現象を引き起こした。
「では、私の火傷が治ったり、時計や鑑定水晶が元通りに修復されたのは……」
サリーが自分の顔に触れて言う。
この部屋に来て少し後、慌てた様子で入って来た彼女を見て、真っ先にジェフとエレノアが驚いていた。
彼女が顔に巻いていた包帯の下には、治癒魔法でも治せなかった酷い火傷の痕が隠れていたそうだが、どういう訳かそれが、最初から無かったかの如く消えていたと言うのだ。
おまけに、私が修練場で木っ端微塵にして修復不能になったはずの鑑定水晶までもが、新品同然の状態に戻っていた。
「正確には治癒や修復ではなく、損傷する以前まで『時間が戻った』ということなのでしょう。とは言え、作用したのはあくまであなたの傷部分のみで、全身には及んでいないようですね」
エレノアの見立てに、ジェフも頷く。
「更に闇属性は『霊魂』にも影響するんだ。霊魂、つまり……」
ジェフの視線がダスクへ移る。
「アンデッドだ。アンデッドとは生命力を喪失し、霊魂と魔力で動く死体。高濃度の闇属性
全ての発端である『邪神の息吹』と同じ性質の力が、私にも宿っていたからこそ、冥獄墓所に眠っていたダスクがその影響を受けて復活したのだ。
しかし単なる厄災でしかない『邪神の息吹』とは違い、こちらは人間である私が器となっている分、まだ制御が利く。
「闇属性の魔力を扱える人は、どのくらい居るのでしょうか?」
「他の五属性に比べると少ないかな。でもそこまで珍しい訳じゃないし、僕だって扱える。例えば闇属性魔法『
ジェフの目の前の空間にぽっかりと黒い穴が空き、彼はそこへ鑑定水晶を放り込んだ。
「ちなみに入れた物は時間が止まって状態が固定されるから、熱々のスープだろうがアイスクリームだろうが生魚だろうが、入れた時と全く同じ状態で保存し、いつでも取り出せる」
「とても便利ですね」
某国民的アニメに登場する、四次元ポケットを彷彿とさせる。
「ただし入れられる物のサイズには限界があるし、収納量に応じた魔力を常に消費してしまうから、余計な物は出しておかないとあっと言う間に魔力が枯渇してしまう。あと生きているものを入れることもできない」
自動販売機から転がり出る缶ジュースのように、再び空間が裂けて開き、今収納した鑑定水晶がジェフの手の上に落ちてきた。
「ただし、これは君に比べて遥かに劣り、そして属性の
私の魔力が秘める可能性は、その属性の如く、未だ闇のベールに包まれている。
その日の夜はそのまま休み、翌日の夜。
「これは驚いたな……」
エレノアやジェフから事情を聞いたオズガルドも参加、修練場で魔力鑑定と、私の能力の実演と再確認を行った。
オズガルドから見ても、私の能力はこの世界の常識を大きく逸脱しているようで、国内最高峰の老魔術師が難しい顔をして唸っていた。
「できることなら君を宮廷魔術団に招待して、そこで色々と検証や実験を行いたいのだが……」
「大罪人に仕立て上げられてしまった彼女が表に出れば、栄耀教会が黙っていませんからね。ここに居る六人だけの秘密です」
ダスク、ジェフ、オズガルド、エレノア、サリー――信頼できるのは彼らだけだ。
サリーの顔の火傷が消えたことも他の者には明かさず、今まで通り包帯を巻いている。
「それにしても、カグヤ様の驚異的な魔力が、栄耀教会に知られなかったのは幸運だと思います。夜のみ解放されるという条件さえ無ければ、最初の魔力鑑定の段階で判明したでしょうから」
「同感だな。時間と空間を飛び越え、古傷や器物の破損さえ元通りにしてしまう力ともなれば、使い道はいくらでもある。あの連中の手に落ちてしまったら、テルサの力とも合わせて、奴らは無敵になっていた」
栄耀教会によって実家を滅亡に追い遣られたというサリーの、彼らに対する憎悪は非常に強い。
ダスクも三百年前に国家反逆罪を犯したことが関係しているのか、栄耀教会に対して反感を抱いているようだ。
「それはどうかな。例えカグヤの魔力が判明していたとしても、結局は彼女を殺しに掛かったと思うよ?」
「どういうことだ? 魔力が確認できず『聖女』ではないと見做されたから、機密保持のためにカグヤを狙ったんじゃないのか?」
この中で、ダスクとサリーだけは知らない。
栄耀教会が私を殺すべく聖騎士団を差し向け、今も追っているその真の理由を。
「違うよ。栄耀教会への協力の条件としてテルサが依頼したんだ。カグヤを殺してくれ、ってね」
「『聖女』であるテルサの依頼を断れば、彼女の機嫌を損ねてしまう。そうなれば『邪神の息吹』を鎮める計画に支障を来すと考え、ラモン教皇はあっさりとそれを承諾した」
忍び込ませたトカゲを通じて、ジェフとオズガルドはその一部始終を観察しており、私は数日前にオズガルドから真相を聞かされた。
栄耀教会の立場を考えれば、彼らのその決断は政治的には間違ってはいない。
そしてテルサの立場を考えても、やはりその依頼は間違ってはいない。
「妹が、実の姉を殺せと言ったのか……!?」
「どうしてその方――テルサ様は、カグヤ様の殺害依頼を……?」
当然の疑問をダスクとサリーが口にする。
「これは……僕の口から言っていいものなのかな?」
ジェフが私を見遣って確認を取る。
「それは……」
ジェフもオズガルドもエレノアも、聖騎士に取り付けたトカゲを通じて話を聞いていたため、既にその答を知っている。
「カグヤよ。私が君をこうして保護しているのは、君の魔力に興味を抱いたからというのも勿論あるが、それ以上に異世界のこと、テルサのことを知りたいと思ったからだ」
「そう、でしたね……」
最初に会った時にもそう言っていた。
「無理に聞き出すような真似はしたくないが、しかし私は知らねばならない。例えどんな話が出てこようと、私はその全てを受け入れるし、そのことで君やダスクに不利益を与えることもしないと約束しよう。ただ事実を知りたいだけなのだ」
他の皆も、オズガルドの言葉に頷く。
それぞれ事情と思惑はあれど、私のために色々と尽くしてくれているのは確か。
ならばありのままの真実を打ち明けることこそ、その恩義に対する報いであり誠意。
「……分かりました。前の世界の出来事は、お世辞にも気分の良いものではありませんが、お話しましょう――私の過去を」
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