セックス

「セックスって、どんなものだった?」

 こぼれ落ちた私の言葉に、美也子は面食らったようだった。それから子供の──絵里の方を気にして、苦笑いしながら言う。

「急にどうしたの」

「べつに。私には経験できないことだから興味があって」

 意地悪なことを言っている自覚はあった。当てつけに近い行為をしているとも。

「吐き気を堪えながら、揺すられるだけの時間だよ。あたしもできることなら経験したくなかった」

だから表情を消して吐き捨てた美也子を見て、自分の発言を心の底から後悔した。

「アセクシャルだったんだ、まだ」

胸の奥に湧き出た重く澱むような痛みを中和しようと咄嗟に口が動く。美也子は笑って、私を諭した。

「まだって何よ。あんただって、いくら時間が経とうがオトコには戻れないでしょう」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る