理系男子と文系女子はすれ違う~告白の勇気が足りず、月が綺麗ですねと口にしてからしばし、何時の間にか幼馴染ヤンデレ美少女と引きこもりネッ友ヤンデレ美少女との二股状態になっていた件~

リヒト

すれ違い

 綺麗な満月が輝くような、九月のある日。

 既に月の光と点在する僅かな街灯の光しかないような住宅街の道を一組の男女がゆっくりと歩いて進んでいた。


「今日も疲れたぁ……何で、僕が学級委員なんて……絶対に荷が重いよ」


 その男女のうち、男の子の方は丸眼鏡をかけた少しばかりなよっとした雰囲気を持っている。


「私が支えてあげているのよ。感謝なさい」


 それに対して、女の子の方は腰まで伸びた綺麗な黒髪を持つクールビューティーな雰囲気を持った子だった。


「うん。そうだね、ありがとう」


 己の漏らした弱音に対しての少女の言葉に対して、その少年、鴉間輝夜は素直なお礼の言葉を口にする。


「えぇ、それでいいわ」


 そんな彼の言葉を聞いた少女、三毛静音は満足げな様相で頷く。


「それにしても、学級委員の仕事として、クラス全体の宿題のチェックがあるのはおかしいんじゃないかしら?明らかに先生側の仕事だと思うのだけど。チェックした私たちだって、その宿題を提出した側なのに」


「あっ、だよね。僕もそれ、結構不満に思っていたんだよっ。明らかに、ただの高校生に任せるような内容じゃないと思うんだよね?絶対に、他のクラスの子は僕のようなこと頼まれていないよ!それに、一日で終わらせておいて!なんて鬼畜にもほどがあると思うんだよね」


「でも、結局悪いのは、頼まれたら断れない輝夜だと思うわよ?」


「うぐっ……い、いや、頼まれると弱くてぇ」


 輝夜と静音は家が近所で、幼稚園の中からの付き合いがある幼馴染だ。

 小中学校とずっと同じクラスで、もはや熟年夫婦のような雰囲気さえ醸し出している……そんな二人は高校も同じで、なおかつクラスまで同じ。

 今日も今日とて、輝夜と静音は二人で高校から家へと帰っているような最中だった。


「あ、あのさ……」


 そんな道中の中で、輝夜はピタリと足を止めて口を開いた。

 足を止めた理由は単純。

 満月の光を受けて歩く今、この時がロマンティックであると輝夜が感じたから。


「ま、前からさ……思っていたんだけどぉ」


「何?もごもごされても、わからないんだけど?」


「そ、そうだね……ごめん」


 輝夜が口をもごもごとしながら、何かの言葉を紡ごうとしながらも何も出てこなかったことに対して告げられた静音の言葉。

 それに対して、輝夜は謝罪の言葉を口にする。

 その言葉にも、まるで覇気はなかった。

 

「すぅ……」


 だけど、次に輝夜は息を深く吸う。


「静音」


 そして、先ほどまでのまごまごとした言葉なんてなかったかのように、はっきりと静音の言葉を口にする。


「何?改まって」

 

「あ、あの……あのっ」


 だが、その後には結局のところ、輝夜の口から出てくるのは判然としない言葉だった。


「……?」


 そんな輝夜の様子に対して静音が首を傾げたところで、彼の視線に入ってくるのは足を止めた理由でもあって綺麗な満月だった。


「つ、つ、月が……綺麗だね」


「……ッ!?」


 あー……僕は、何を言っているのだろうか。

 その言葉を吐いた瞬間、輝夜は反射的にそう思う。

 だけど、その言葉は既に告げられてしまった後で。


「えぇ……そうね。こんな日なら、死んでもいいわ」


 それに対する答えを静音が口にする。

 

「……確かに、こんないい日に死ねたら良いね。たくさんの孫に囲まれながら、幸せな生涯を終えたいなぁ」


 会話が始まってしまった中で、輝夜は静音の言葉に対して、自分の言葉を返す。

 

「えぇ、本当に……ふふふっ」


 その言葉を受け、静音は心からの笑みを漏らす。


「ははは」


 それに付き合うような形で、輝夜も笑みを浮かべる。

 だが、その笑みの中には、何かに絶望したかのような、そんなニュアンスも含まれていた。


「(まっ!僕は日和って肝心の告白さえ出来ない間抜けであるわけだけどねっ!孫の前に奥さんを見つけられる気がしないよっ!)」

 

 そんな彼が、輝夜が頭の中で考えていたのはそんなことだ。

 小学生の頃から静音のことが好きで、常に告白しようしようと決意して、それでも、とたん場のところで勇気の出ない少年である輝夜は今日も後悔する。

 また、告白できなかった、と。


 ……。

 

 …………。


 不幸だったのは、何だったのだろうか?

 たまたま二人が満月の夜に帰っていたことだろうか?

 肝心なところで輝夜の勇気が出来なかったことだろうか?

 輝夜と静音が自分のことでいっぱいで互いの雰囲気の齟齬に気づけなかったことだろうか?

 とにかく、多くの不幸なことが重なっていた。

 

 ただ、この場における真実はただ一つだけだ。


 読書好きな文系少女である静音は、夏目漱石が『 I Love You 』を『月が綺麗ですね』と訳したことを知っており、本を読む経験が乏しい理系男子である輝夜は、それを知らなかった。

 理系男子である輝夜の、ただ純粋に月が綺麗であるという感想は、愛の告白へと様変わり。

 その愛の告白に対する答えとして静音が告げた、二葉亭四迷のロシア語での愛情表現への返答である『ваша』を『死んでもいいわ』と訳したことに起因する言葉も当然、輝夜が知る由もない。

 今、幼少期からずっと一緒だった二人の歯車がズレ、二人は盛大にすれ違ってしまったのだった。



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理系男子と文系女子はすれ違う~告白の勇気が足りず、月が綺麗ですねと口にしてからしばし、何時の間にか幼馴染ヤンデレ美少女と引きこもりネッ友ヤンデレ美少女との二股状態になっていた件~ リヒト @ninnjyasuraimu

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