Game of REVIVE

真希 仁司

Chapter 1入試試験編

Chapter 1-1 進路・悩み・先行き不透明

49地区洋上フロートビジネス街を歩いていた私は、目的地に向かいながら今後の進路について悩んでいた。


20年前の世界崩壊時に魔力持ちとして生まれ、ハンター協会が管理している施設――周りの人は孤児院と言っているが衣食住に困らないようになっているぐらいには良い所だった――で育ち、大学ユニバーシティまで進むことができた。


ユニバーシティーまで進んだはいいが、今後の進路について決めあぐねていた。


一般人も含め、魔力持ちでも 15歳ぐらいまでに何をしたいか決める人も居るが、今の時点で私はまだ何も決めることができていなかった。


進路としては一般人と一緒にサラリーマンをしたり、開発者側になったり、施設の職員になり恩返しをする形で働いたり、または、ハンター協会に入会して生計を立てる等、色々と仕事はあった。


しかし、私はどの仕事も私の天職になるのでは無いだろうか、という直感的な物は感じられなかった。


魔力持ちの進路としては、ほぼハンター協会に入会するらしいけど、それでいいのだろうか?他にチャレンジ出来ることはあるんじゃないだろうか?


そう思ってみたけれど、結局この年までこれという事は特になく、学校だけは行っておいた方がいいだろうと、ユニバーシティまで進んだ。


ユニバーシティの教授に相談すると、「特に希望がないなら、ハンター協会に入っておきなさい。ハンター協会での仕事は千差万別。やっていればそのうち何か見つかるかもしれないね」

と、ありきたりな回答を貰うのであった。


教授に言われたからと言う訳ではないが、ハンター協会の仕事がどういうものか私は知らない、もとい世間的には厄介な事や自分でやるのが面倒な事を依頼して対応してくれるという認識しかない。


そのことを考えながら歩いていると、試験会場に指定されたハンター協会の前に到着していた。


試験会場は世界の各地区にあるハンター協会で行われるそうだ。


私が指定されてきた49地区は、島国と島国の南洋に浮かんでいる洋上フロート5基で構成されている。


洋上フロートは、今いる所はビジネス街、他にテーマパークや高級街が1基ずつ。


残り2基は酪農・産業エリアとなっていると聞いている。


ビジネス街のビルは高くても20階程度までで、一番低くて5階となっている。


49地区の島国は4分割してみると、西側・南側は人が住んでいて、北側は人が住めるけど環境はあまり良くないらしい。


東側は20年前の世界崩壊のグラウンド・ゼロとなり、今でも進入禁止となっているそうだ。


扉の前で「でもなぁ。うぅん…。けど教授にはとりあえずって言われてたしなぁ」

と悩んでいると、扉が勝手に開いた。


空いた扉を見やると、中から人が出てきた。


痩せぎすの体にビジネススーツを着用し、髪はオールバック。

黒縁の眼鏡を掛けた男性が私の顔を一瞥すると「ようこそ、ハンター協会へ」と挨拶をされた。


挨拶をされたのだが、男性の風貌を見て、少し固まっていた。


一見するとちょっと怖いビジネスマンにしか見えないが、纏っている空気感に恐怖を覚え、気圧されて閉口してしまった。


数十秒ぐらい立った時に男性は私が何も言わないためか、仕方がなく口を開いた。


「本日、入会試験を受ける予定の、エリーゼ・ヘセルさんで合ってますよね?」

「は、はい。そうです!」


問われて我に返った私は、自分でも驚くくらいの大声で答えていた。


ビジネス街のためか、仕事をする時間のためか、周りに人が居なくて良かったと内心、安堵した。

「中へどうぞ」


無表情のまま入館を促してくる男性に従い、建物へと入った。


ハンター協会の建物は、15階建てで、1階は受付エリアと聞いている。


受付エリアは天井まで5メートルはあるが、ビルの1階としてはちょっと暗めになっているようだ。


見える範囲では、受付窓口みたいな所とパーティションに区切られているミーティングルーム、トイレ、階段、エレベーターがある。


男性に引きつられて受付窓口の前まで移動した私は、何を聞くべきか悩み、言い淀むように「えっと、あの…」と声に出していた。


そんな私を見るように振り向き、無表情のまま質問をされた。

「49地区洋上フロートに来る前に、注意事項を言われていたかと思いますが、

まさか忘れてはいないですよね?」

私がここに来る前に聞いた注意事項を思い出してみた。


・洋上フロートのビジネス街・高級街・テーマパーク街では監視カメラで人の

行動を行動を監視している。

ただし、犯罪等を行わない限り、アラート警告は出ない。


・建物から扉前を監視しているカメラでは、そのまま生体認証を行い、

出入り許可がある人に対しては開錠と開扉をする。

事前に訪問を予約や約束していない人のためにインターホンもあるそうだが、

手続の時間や確認を要するため、ほとんど使われることは無い。


・ハンター協会については、開錠のみ行い、訪問者自ら扉を開かなくては

ならない。直ぐに入らない場合はアラートが鳴るシステムとなっているらしい。

アラートシステムについては他の建物にも備わっているそうだが、訪問者のために

開扉までしているのでアラートが鳴る事は今のところないそうだ。


・試験者は開錠されるようになっている。


アラートシステムについては事前に聞いていた。

「いえ、覚えてはいました。けど…ちょっと悩んでいることがあって考え込んで

いました」

そう解答し、申し訳ありませんという体で頭を下げた。


「そうでしたか。確かにモニターで見ている限りでは、そのような表情でしたね。

次回からは気を付けてください」

男性に無表情のままそう言われた。


モニター…つまり、監視カメラだとは思うが、私が扉の前に居るために、見ていたという事なのだろう。


「そういえば、私の名前…」

男性は息を少し吐き、私の問いになっていない問いに答えてくれた。


「ハンター協会に限らず、顔認証システムでは登録している人のデータを監視モニターに出します。

それをみてオペレーターは不審人物で無いか確認し、登録されておらず、長い間扉の前に居る人には警告を出します。

これは、日中の話で夜間ですと警備ロボが出て状態を確認するように

なっています。

単に酔っ払いが居るだけなのかはたまた不審人物なのか。


ハンター協会については開錠のみとなり、先に連絡しています通り自分で開扉する必要があります。


先に連絡している通り、ヘセルさんはまだ入会しておりませんが、試験のために一時的に登録をしております。


入会用の書類と顔写真を先に頂いたのはこのためとなります」


「あ、そういうことですか。つまり、私の名前はモニターに出ていたので判った訳ですね」

男性はその通りだという事で頷いた。


「ちなみに、開錠状態のまま放置するとアラートが鳴りますが、後々面倒な事になる訳でもあります」

「面倒な事、ですか?」


「ええ、単に始末書を提出するだけですが…まぁこの話はいいでしょう」


始末書は書いたことは無いが、無表情のまま淡々と語る男性の言い淀み具合をみると、かなり、めんどくさいというのだけは伝わって来た気がする。


「次回からはお気をつけください。49地区に滞在している間は特に」

「はい、わかりました」


私の返事に頷くと、受付の横にある大きいディススプレイを見て、表示されている

時計を見ながら「さて…」と言いながら口元に手を当てながら考えるポーズを取った。


数秒後、「まだ受付までの時間はありますので、悩み事について話せるようでしたらお伺いいたしますよ。

入会に関しての心配事などもあるかもしれませんし、先に不安材料はとっておいた方がよいでしょう」


男性の思わぬ提案に「えっと…」と言いながら戸惑いつつ、どうしたものかと思考を巡らせた。


悩み―進路について―は、確かに入会についてでもあるが、初対面の相手に話をしてもいい物だろうか。


ハンター協会に居るのだから先輩?になるとは思うんだけど。


「勿論ですが、入会についての回答はそれ相応に出来ると自負しております。

過去にも入会前に悩んでいる方の相談を受けたりもしておりましたので。

しかし、それ以外になりますと、ありきたりな回答しか出来ません」


追加でそのように言われた私は物は試しというか、入会については過去の回答があるので問題ないのだろうと思い、胸の内を話してみることにした。


「えっと、あの、入会に関する事ですが、それと併せて今後の進路に悩んでまして。


今まで特にやりたいこととかなく生きていて、

ユニバーシティーでお世話になっている教授に相談したら

とりあえずハンター協会に入会して、ハンターの仕事をやりながら

見つけていくのもありじゃないかと言われたんです。


他の人は遅くともハイスクール卒業までには見つけている人もいて焦っているのもあるんですが」


一旦そこで区切り、最後まで言葉にすべきかと男性を見ると続けてというジェスチャーをしてきた。


「それで、ハンターの仕事をして、見つけていくのも有りなのかなって思いまして。本当にやりたい仕事というのが、よく…判りません」


全て言い終え男性を見ると、両手を組み、目を閉じていた。


腕組を解除し、目を開けてこちらを見据えゆっくりと話し出した。


「そういう悩みはこれまで他の入会希望者にもおりました。

しかし、私はその方々には上手く伝えれてはいませんが、毎回言う事がございます。


自分の人生であり、自分でどの様になりたいか、どの様に生きたいかは自分で

決めていくしか他有りません。

それが最後に振り返った時の自分の生きた道となりますため、と」


淡々と回答を貰った私は、「やっぱり、そうですよね」と少し腑に落ちたというか、振り出しに戻った気持ちになった。


「ちなみに、ハンターの試験は千差万別。

色々な仕事がございます。仕事は普段体験することが無いものまであるため、

何かしらの発見に繋がるかもしれません」


「あ…」


来る前に教授にも似たような事を言われた私は、教授に言われた事をきっちり理解していなかった事に気づいた。


男性の説明で教授が入会を勧めた理由がちょっとだけ判ったような気がする。


「ありがとうございます。ちょっとだけ、悩みが解消したかもしれません」

「それは良かったです」


男性は「他にあれば聞きますが」というような振る舞いをしたが、他は特に無く、今は試験に挑みたい気持ちが増していた。


「特に無いようですね。では、ここで受付を行ってください。

呼び鈴などもございますが私が居なくなったら出てくるでしょう」


受付カウンターをちらっと見た後、男性は一礼をし、階段から上に消えていった。


「お話、終わりましたか?」


受付カウンターの中から少しくすんだ金色の髪を三つ編みにした女性が笑顔で顔を出してきた。


「はい、えっと…受付の方ですか?」


受付カウンターの中から顔を覗かせているのに、受付なわけが無いだろうと


思いつつ、返事を待ったが、笑顔のまま「ふふっ、そうですよ」と

全てお見通しの様に言われた。


取り繕うのを諦めた私は話を進める事にした。


「本日、ハンター試験を受けに来ました。エリーゼ・ヘセルと申します」


「はい、伺っております。今回事前に頂いていた書類と、入会に際しての同意書をタブレットに表示していますので、ご確認いただき、問題が無いようでしたら一番下にサインしてください」


渡されたタブレットに表示されている事前に提出した書類と、同意書の内容を確認した。


同意書には、入会試験において、怪我をしたり死亡する場合もあるけど問題無いか、という内容となっていた。


入会試験なのに死亡するリスクがあるのかと疑問に思い、その旨、質問した。


「昨今の試験では死亡することは行っておりませんが、人によっては骨折等の大けがをすることもあります。ですので、最悪の場合まで記載する様にしています。

それと…」


受付の人は笑顔のまま、淡々と説明を続けた。


最後まで聞いた私は、納得した事を伝え、サインをしてタブレットを返した。


「はい、問題ありません。これで書類については終わりです。この後ですが、事前連絡済みになりますが簡単な座学と実際に1つ仕事をしてもらいます」


「わかりました」


「座学は2階で行います。あちらの階段から上に上がって、直ぐのブリーフィング

ルームになります。扉の上のプレートが点滅していますので行けば分かるわよ」


私は「分かりました」と言い頭を下げた後、2階へ向かおうとした。


「そういえば…」

「?なんでしょうか?」


「先程の男性は監視カメラの警告で始末書を出す必要があるって言ってましたけど、対応は受付スタッフが行うので、気を付けてくださいね」


笑顔のまま言っているが、少々棘があるような言い方をしている気がした。


そのため、私は「次回からはしっかりやります」と答えその場を離れた。


2階に上がり、プレートが点滅している部屋を見つけた私はそっちに向かい、扉を開けた。


「失礼します」

入り口から部屋の中を見ると、部屋はそれほど大きくはなく、長机2つと椅子が対面で並んでいる状態で置かれていた。


その向こう側の壁にホワイトボードがあり、その前に先ほどの男性が立っていた。

「お待ちしておりました。受付は無事に終わりましたね」

「はい。

同意書も丁寧に説明していただきました。

ただ最後ちょっと開扉の件で怒られました」


男性は眼鏡の両端を親指と小指でつかみ、くいっと上にずらしてから元に戻した。


「特にいう必要はない事なのですが…不快な思いをさせて申し訳ない」


そう言い、軽く頭を下げた。


「い、いえいえー。私の不注意で始末書を書かなくちゃいけない所でしたし、ちょっとぐらいの小言を言われるなら仕方が無いです、よね」


男性は少しこちらを見た後「そうですか。では次回から注意するように」と言い、着席を促してきた。


席に着いた私を確認し手元に置いていたタブレットを持ち上げ、話し始めた。


「さて、ハンター試験の座学を始めさせていただきます。

本日の試験官を務めさせて頂きます高山誠と申します。

試験終了までよろしくお願いします」


「タカヤマ…?」


普段聞きなれない言葉に私は小首を傾げた。


男性は前のホワイトボード――電子ボードでタブレットの内容が表示された――に漢字を表示させた。


「漢字になりますとこう書きます」


漢字自体、殆ど使われないせいだろう、新鮮な物に見えた。


「ハンター協会に入会後、実名か仮名どちらかで登録いただきます。

私の血筋が漢字を使っていた人種になるようでして、そちらに合わせたという具合となります。

今後はマコトと呼んでいただければ幸いです」


ファミリーネームだと呼びにくいでしょうし、ファーストネームで呼んでくださいという事らしい。


タブレットの表示を消し、ホワイトボードは元の白色に戻った。


「続けます。

座学は概ね1時間半~2時間程度になります。

途中休憩は有りませんが、気分が悪くなったりした場合は申し出てください」


「分かりましたか?」という様にこちらを見てきたので頷いた。


「本日の入会試験はエリーゼ・ヘセルさん、貴女のみとなります」


「そうなんですか?」


「はい。

入試試験は四半期毎に各地区で行い、入会希望者は毎回1名居るかどうかとなります。

地区によっては複数名居られますが、ここ49地区では年2名いるかどうかとなります」


「へぇ…。一か所で纏めて行うものと思っていたんですが、地区毎にやってるんですね」


「ええ。過去に一か所で行っておりましたが、試験内容が試験合格者を絞る様な物となってしまい、毎回受けているのに合格できず、諦めてしまう方もおられました。


そうならないようにするため、現在は各地区で行う様にしております。

しかし、現行の試験方式でも不合格となる方もおられるにはおられます」


入会自体は簡単に出来るものと思っていたけど、そうではないのだと初めて知った。


「そう、なんですね。私は…」

私は合格することができるのだろうかと口走るところだったが、そんな弱気な状態で受かる訳が無いとか言われるかもしれないと思うと、発言が途中で止まってしまった。


そんな様子を見ていた男性は咳ばらいをし、話を続けた。


「入会の試験に関しては、実際に簡単なお仕事を行っていただく運びとなっております。

それの結果次第で合否を判定いたしますが、今まで受けた方で9割以上は合格となっておりますので、気楽に行きましょう」


励ましのつもりで合格率を言ってくれたんだとは思うけど、まだ不安はあるが、とりあえず愛想笑いで返した。

「では座学を開始いたします」

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