第282話

「あの服は、高瀬さんの父親にあげたんですよ。」




「は?まじで?なんであげたの……?」




「俺の家でお父さんが料理してる時に、自分の服に味噌汁ぶちまけたんですよ。それで服貸してって言われたからDior貸しました。洗濯して返すって言われたけど、俺もう着ないからあげたんです。妻か娘にあげるみたいなこと言ってましたけど。」




「……そっか。そういうことか。変な質問してごめん。なんか俺……いま精神的にやられてるんだよね。嫁が意味わかんねえ電話とかするから」




「電話?誰にですか?」




「いや、家族とか女友達だけど。まぁ嫁が意味不明なのは今に始まったことじゃないしな……」



「高瀬さんは、いま家にいるんですか?」



「いるよ。体調悪いらしくて部屋で引きこもってるわ。」



「体調悪い?」



「あいつ、妊娠してるから。」



「はい?」



「それと、俺ら近いうちこのマンション引っ越しするかもしれないんだよね。御手洗さんにはちゃんと挨拶しときたくて。なんつーか、嫁と蓮が、いろいろ迷惑かけてごめんね。あと、刺青のことで疑ったことも本当にごめん。俺って、謝ってばっかだったでしょ?でも、俺が謝るのは今日で最後だから。これからは、もう謝らない。例え嫁が嘘ついてたとしても、嫁の言葉だけを信じることにするから。」



「…………」



「御手洗さん用事あるんだよね?長々と話して悪かった。俺らも、そろそろ出かける準備しないといけないから、今日はこのへんで。」



「俺、前に健さんに言いましたよね?」



「なにを?」



「三ヶ月後に取りに来ます。俺がこの家で欲しいモノは一つだけだからって。」



「なんの話?そんなこと言った?」



「覚えてないならいいです。でも間違いなく、それは今日になりますよ。俺も健さんも明日からどんな人生になるのか楽しみですね。」




「どういう意味?」




「気にしないでください。そろそろ帰ります。健さんたちは九時にスキ焼き店でしたよね?楽しんできてくださいね―――――」

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