第211話

私たちはマンションの駐車場に着くまで一言も言葉を交わさなかった。御手洗のことで言いたいことは山ほどあったが敢えて何も言わなかった。




あれだけの屈辱を受けたんだ。健はもう二度と私を信じてくれないだろう。




「紫乃。さっきからスマホ鳴ってるけど誰から?」



「……美羽だよ。先に家戻ってて」



「わかった。俺は多分寝てるから別居の話は明日しよ。」



「……本当に別居すんの?」



「するよ。もう決めたから。」



「……健は私と離婚したいの?」



「勘違いすんなよ。離婚したくないから別居するんだよ。このまま一緒に住んでたらそれこそ離婚になるかもしれないよ。今はお互いのために離れた方がいいんだって。一人になってゆっくり考えようよ。てか電話、まだ鳴ってる。早く出てやれよ。」




健は「美羽によろしく」と言って車から降りていった。

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