第167話

目眩と喪失感が一気に襲ってきて平衡感覚を失った俺は、話の途中にも関わらず無言でその場を立ち去った。



市川紫乃に好きな人がいることは、小学生の頃から知っていた。あいつに告白した男たちが俺に教えてくれたからだ。




『うわー、振られた!!イッチー好きな人いるんだって!!めっちゃショック!!』




『僕もこの前、振られた、、、』



『俺もよ!!顔も好きだけどあの飾らない性格がめっちゃ好きだったのに!!』




学年一喧嘩が強くて人当たりが良いおばちゃんは、男からも女からも人気があり常にカースト上位にいた。




『なんかいいんだよね。あんな可愛いのにそれを鼻にかけてないというか。ネチネチもしてないし控え目で。好きな人って誰なんだろな。案外、蓮だったりして。なんかそんな気がしてしょうがないわ。』



『俺も蓮だと思うわ……』



『いや、実は僕も蓮だと思ってたの……』



『普通に考えて蓮だろ。』





俺の友達は皆そう言った。俺自身もずっとそう思っていた。何故か、おばちゃんの好きな人は間違いなく俺だという根拠のない自信があった。

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