第105話

健は私の言葉を完全無視して、そのまま風呂場へと消えてしまった。




なにがどうなっているのかわからない。





“もうこの件は忘れよ。御手洗さんの話は今日でおしまい”





こんなこと言われるなんて夢にも思わなかった。私が聞きたかったのはこんな台詞じゃない。










気づくと私は、車の運転席に座ってハンドルを握りしめていた。今日はもう健と話をする気力がなかったし同じ空間にいるのも苦痛だったから健がシャワーを浴びてる間に家を出てきた。




雨は止むことなく雷が鳴り響いている。車のフロントガラスから稲光が走ったのが見えた。運転するのは怖かったけど、とりあえずこの場を離れたかった。




コンビニでも行こうとエンジンをかけた瞬間、鞄の中でスマホが鳴った。健からなら電源を切るつもりだったが登録していない番号だったから電話に出た。




「もしもし……」




「御手洗です。ゴキタケ帰ってきた?」



「…………」



「健がどんなにアホな男か、これでわかったでしょ?あいつ、帰るとき俺になんて言ったか知ってる?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る