第83話

「……御手洗さん。自分のスマホは?」



「持ってるよ。それがどうかした?」



「……なんでもない」



嫌な予感がしてならない。さっき私が言わされた言葉は御手洗のスマホに録音されているような気がした。そうじゃなければあまりにも不自然な台詞だ。



確かめたところでどうにもならない。録音されていたとしても、この男が素直に消してくれるはずがないのだから。



ポストに入っていた手紙の件もある。あの言葉を健の両親に聞かされたら、二度と信用を取り戻せない。私の母と健の父はとにかく折り合いが悪いから家族会議にでもなったら大変なことになる。



「俺を怖いって思わないでよ。ポジティブに考えたらいいんだよ。」



「ポジティブ……?」



「例えば、この家に手のひらサイズの蜘蛛が出たとする。健なら、どう?あいつは大の虫嫌いって言ってたからエッチの最中でも裸で外に逃げていきそうじゃない?そんな時、俺みたいな恐怖を感じないやつが隣人にいたらどう?スゲー役に立つと思わない?」



「…………」



「例えば、市川さんがこの家に1人でいるとき、チェーンソー持った男が突然現れて襲われそうになったとする。これ、どうするよ?俺なら、すぐに気づいて助けにいってあげられる。」




「……そんなこと」



「絶対ないって言いきれんの?」

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