クリスマス
雪を降らせてしまえば、冬は完成したも同然。あとは春まで寒さや天気に気を使うだけ。……とはいかないのが、季節の魔女のおしごとです。実はまだまだ仕事があります。例えば、冬にある一大イベント、クリスマスのお手伝い。
魔女にはあまり関係ないように見えるこの行事。しかし、自然を管理する魔女だからこそ、求められることがありました。
それは、子どもたちにプレゼントを配るサンタ・クロースのおしごとのお手伝い。
サンタさんが配達のときに困らないよう、天候を調節してあげることが、魔女のお役目です。
さて、今日はその打ち合わせのために、ウィンテルの下にサンタさんがお目見えになりました。
「本日も好いお日柄で」
クリスマスの前に目立たぬよう、そりを引かずにトナカイの背に乗ってやってきたサンタさんは、赤い帽子を脱いでそう挨拶を述べました。雪を降らせたとはいえ冬はまだ序盤、あまり雪が深くならないように気を付けていたので、ここのところ晴れの天気が続いていました。今日もまた空は青く、雪を溶かしてしまいそうなほど温かい日差しがウィンテルの住む土地を照らしています。
「遠いところからようこそ」
秋の魔女ほどではありませんが、今日来たサンタさんもご高齢。立ち話はつらかろうと、ウィンテルは客室に案内します。
客室のテーブルには、お客様をもてなすたくさんの料理が並べられていました。湯気が出ているかぼちゃのスープ、皮がぱりぱりに焼けたチキン、クルミが混ぜられたパンに、赤や黄色や緑が鮮やかなサラダ。それから、雪のように白い生クリームがたっぷりのケーキまで用意してありました。
クリスマスディナーのようなこの食事。当日忙しいサンタさんと魔女はこの打ち合わせのときに前祝をするのです。
楽しくおしゃべりをしながら食事をとり、お腹がくちくなると温かい紅茶が出てきます。お茶請けには、これもまたクリスマスのご定番、ジンジャーブレッドマン。
「今年はどのように回るおつもりでしょう?」
ウィンテルは町の地図をテーブルに広げました。かさかさとした紙に、小さくも大きくもない町の俯瞰図が、黒の線で緻密に描かれています。
「そうですな。今年もまたこのように――」
サンタさんは町の端の建物を指さし、近い建物を辿りながら渦巻きを書くように動かしました。
「――回っていこうと思っとります」
「じゃあ、風は南西に吹かせて、北東に向かうときに弱めるほうが良いですね」
「そうですな。それが良いでしょう」
本当はサンタさんの背を押すように吹かせたいのですけれど、なにぶん自然のこと、そういうわけにもいかないのです。ウィンテルにできるのは、一方向に吹く風を強めたり弱めたりすることだけ。それでも、空の道を行くサンタさんには大助かりなのだそうです。
ところで、ウィンテルは一つ悩みを抱えていました。これを打ち明けると、忙しいサンタさんに大きな負担を掛けてしまいます。どうするか悩んだウィンテルですが、結局打ち明けることにしました。
「実は、住人たちがホワイト・クリスマスを望んでいるみたいなのです」
ホワイト・クリスマス。惑星の北側に住んでいる誰もが憧れる特別なクリスマス。雪がよく降るからこそ、住人たちは特別に期待してしまうようです。
しかしこの土地は、かれこれ十年以上ホワイト・クリスマスになったためしがありません。
それは、夜に雪が降ってしまえば、配達に回っているサンタさんたちの視界が悪くなってしまうことを、魔女が気にしていたから。魔女たちの配慮によって避けられていたホワイト・クリスマスですが、今年はどうしてかそれを望む声がいつもより大きいのです。
できれば住人たちの願いを叶えてあげたい、とウィンテルは思いました。冬は寒くて作物も育たなくて、退屈なもの。だからこそ少しでも、冬を楽しむ機会を作ってあげたい。
断られるかもしれない、とウィンテルは思っていました。でも。
「そうですな。道案内をつけてくれれば、雪道でも大丈夫かもしれないなぁ」
サンタさんは、意外にも良い返事です。ただし、道案内の条件付き。確かに、土地に慣れている者ならば、少し雪が降っても道が分かるかもしれません。
空を飛ぶそりについていける、空を飛べる道案内。ウィンテルも魔女の端くれですから、空を飛ぶことはできます。でも、ウィンテルは気候を操らなければいけないので、とても道案内まではできません。だから、別のひとが必要です。
ウィンテルは客室の帽子掛けに留まっていた白梟を見ました。このビノならうってつけです。
「私の使い魔が案内させていただきます」
勝手に決められてビノは抗議の声を上げましたが、ウィンテルは無視してしまいました。
クリスマス前の聖なる夜。
晴れた夜空の下、申し訳程度にはらはらと白い雪が舞います。なかなか見られないホワイト・クリスマスに、町の人間たちはいつも以上に心が浮き立っているようです。
その空の下を、人々に気付かれないようにサンタさんが飛んでいきます。
塔の上で風の強さや向きを調節しながら、ウィンテルはクリスマスを祝う人たちを見下ろしていました。
いつもはない面倒事に直前まで文句を言っていたビノは、黒い闇と白い雪の中でも見つけやすいように黄色い鳥に姿を変えて道案内を務めていました。
今夜もまた、素敵なクリスマスになりますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます