雪の結晶

「そろそろ雪を降らせないといけないかしら」

 冬を始めて幾日か過ぎた頃、今年取れたサツマイモのパイを食べていたウィンテルは呟きました。窓の外では、枯葉も落ちて見るからに寒々しい森の景色が広がっています。そろそろその景色を白く染めてもいいかなと思い始めました。今年はいつもより冬を早く始めたので、雪が降るのも早めても問題はないでしょう。

 そうと決まれば準備をしないといけません。パイを食べ終わると、ウィンテルは内心うきうきしながら実験室へと向かいます。雪を作るのです。雪の結晶を作るのは、ウィンテルの楽しみでもありました。

 水を張った鍋を火にかけ、温まったら蒸気をフラスコの中に集めます。充分に集まったら手早く重りのついたテグスを入れて糸を張り、栓をします。このとき、密閉してはいけません。そして、フラスコを低い低い温度で冷やしていきます。すると、糸の回りに綺麗な形の小さな氷の結晶ができます。これが雪となるのです。

 雪の結晶は壊れやすいので、集めるのは慎重な作業です。しかし、器用なウィンテルはてきぱきと作業を進めていきます。

 ウィンテルはフラスコの中の蒸気の量を変えたり、冷やす時間を変えたりしながら、色んな形の雪の結晶を作りました。針の形、扇の形、木の枝のようなものがついたものや、六角形のもの、柱となったもの……とにかくたくさんの形をたくさんの器具を使って、たくさん作っていきました。

「やれやれ、いちいち面倒なことをするよね、ご主人様は」

 実験室の窓枠から様子を見ていた白梟がぼやきます。面倒臭がりな彼は、ウィンテルの作業を眺めているだけで、手伝うことはしません。

「雪なんて、氷を削って磨り潰しちゃえば簡単なのに」

 雪は、もとをただせばただの氷。そして雪の結晶はとてもとても小さなもの。虫眼鏡でも使わなければその形を見ることはできません。だから、手を抜こうと思えば抜くことができるのですが……。

「でも、それだと面白くないでしょう?」

 ウィンテルはビノの怠けぶりにすっかり呆れ返ってしまいました。

 雪の結晶は小さくて普通の人には見えないでしょう。けれども、好奇心が旺盛な少しの人間は、その形を見てくれるのです。それに、こんな素敵な形のものが空から舞い落ちてくると考えただけでも楽しいではありませんか。

 冬だからこそできる芸術。ウィンテルが冬の魔女で良かったと思う一つの理由が、この雪の結晶を作ること。

「さあ、これからあなたのお仕事の時間よ。これを持って空を飛んで、雪を降らせて頂戴ね」

 そう言ってウィンテルは雪の結晶を詰めた袋をビノに渡します。袋を持たされた白梟はその重さにげんなりするのでした。

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