第四章:8
目的地に着いたようで、錆だらけの小さな廃工場に車が入っていく。停車して俺たちが降りるなり親父さんは「じゃ、時間になったら迎えに来るで」とだけ言い残し、ろくな説明もしないまま消えていった。
激しく物がぶつかり合う音や、その音に負けじと張り上げられた男の声が聞こえてくる。音を頼りに建物の中まで入ってみると、抜けた先の野外にも広い作業場があるのが窓枠越しに見えた。なんともわかりにくい場所だと思い、そりゃそうかと考え直す。
作業場まで行くと、ブルーシートが敷かれた上で、二人の男が各々家電製品をノコギリやらハンマーなどで破壊していた。二人とも黒く日に焼けており、タオルを首に巻きつけ半袖を肩まで捲り上げている。男たちの顔を確認し、初回この仕事を同じくした"あの人間"ではないことに、胸を撫で下ろす。俺たちに気がつくと、一人の男が額の汗を軍手の甲で拭い、おぉ、と声をあげた。
「聞いてるよ、よろしく。――やったことは?」
クユルと俺が黙って頷くと「そこにあるの全部、とりあえず今日中に終わらせたいから」と、後ろに止まっている錆びれた軽トラを親指で指した。示し合わせたわけでもないが、クユルと共にそれへと近づく。荷台の囲い……初回同じだった人間が『あおり』と呼んでいたが、そのあおりが開いており、積まれているものが確認できた。本棚やテーブル、自転車、他にテレビや洗濯機などの家電製品もいくつかある。
街中を巡回し、拡声器越しに宣伝している粗大ゴミ回収車。あれで回収してきた不用品だ。ほとんどの回収業者は認可を取得して正規で行っているのだろうが、こと俺たちが関わる業者においては、出所が知れたものではない。回収する際も詐欺のやり口だ。最初は無料で回収しますよなんて言って、いざ積んだ後に「これとこれは手数料かかりますね。……え、払わない?でも積んじゃったんで……。払えないなら自分で降ろしてもらえますか……うーん、困りますね、書類にも書いてあって、あなた署名してるじゃない」とかなんとかかまして、金をふんだくっている。これも初回同じくした人間が、大体の内容を得意げに俺たちへ話していた。
この仕事を始めてから知ったのだが、世の中には捨てる際に金がかかるゴミがあるらしい。それがこの軽トラに乗ってるゴミたちだ。中には料金を払って然るべきところに持ち込まなければならないと、法律で決められている家電もあると聞いた。それら込みで、今から俺たちがバラバラにする。燃えそうなものは小さくしてゴミ袋に入れるだけなのだが、法律で決まっているような家電――例えばテレビなどはできるだけ小さくし、ゴミの一つでもある洗濯機の中にぶち込む。ここからは想像だが、森だか茂みだかに投げるのだろう。
客からは上乗せした手数料を取り、状態のいい品は売り、本当に使えないゴミは小さくまとめて不法投棄する。こうして金が生まれる。
昨晩の仕事よりだいぶ報酬は低いのだが”クユルのこと”を除けば、断然、今日の方が気が楽だった。この仕事の背景には脅し騙され金を奪われた何の罪もない人がいて、不法投棄により自然破壊が進んでいく。それよりも、自分の意思で身体を売る少女に加担する方が比にならないくらい頭が重く、心が鈍るのだった。
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