SUGAR SUGAR 〜または、悪役令嬢は乙女ゲームの夢を見るか〜
くまべっち
第0話 プロローグ
はじめまして。紹介所より、従僕がお入り用と伺いまして、参上いたしました。
本日よりお世話になります。こちらが紹介状になります。ご確認ください。
ええ、ご安心ください。これまでにも、お嬢様のような年頃の女性のお世話はたくさんさせていただきました。
ご満足いただけますよう、努めてまいります。
なるほど、お腹が空いていらっしゃるということですね。少々お待ちください。
お待たせいたしました。こちら、特製のプディングになります。
いえ、見た目はただの無骨な丸いチョコレートですが、こちらの温めたミルクをかけますと……ご覧の通り、ミルクの熱でチョコレートが溶け、中からプディングが現れる仕掛けになっております。
チョコレートソースがけの特製プディング、お召し上がりください。
パンも添えておりますので、十分なお食事になりますかと。
ご満足いただけますと幸いです。
お飲み物ですが、紅茶とコーヒー、オレンジジュースにレモネード、どれがよろしいですか?
では、オレンジジュースと熱いコーヒーをご用意いたします。
申し遅れました。私、アルベルトと申します。
ありがとう存じます。ご満足いただけるよう努めてまいります。
そうですね。これまで、さまざまな主人に仕えてまいりました。
どの方も立派な方々でした。
もちろん、全ての方が、とは申しませんが。
中には、服装のセンスそのものが絶望的に合わない方もいらっしゃいました。
あれにはまいりました。気づかれないように生ゴミと一緒に、焼却炉に放り込みましたが。おそらくご本人だけは、今も、どこかクローゼットに眠っているとお思いでしょう。
幸せな夢でございます。
ご満足いただけるよう努めております。
お紅茶でよろしかったですか? 了解しました。
はて。今までに一番やっかいだった主人、でございますか?
ふむ。既に辞したとは言え、前の主人を悪く言うのははばかられます。
そうですね、例えば、馬に乗りたいが馬に触るのは嫌だと申したクソガキ……ご主人には、大変お手間をかけさせられた記憶がございます。
どうしたか、ですか? ポニーをご用意いたしました。
馬ではないからいけると言い聞かせ、無理矢理乗ったときには顔の左半分が真っ赤に腫れておりましたが、落馬してはおりません。
ポニーですから、落ポニー……?
はて、何というのでしょうね。
そうですね。執事として助かるのは、ご自身が何もできないとご承知のご主人です。
そういう方は、文句を言わずに、全てを委ねていただけますから。
私といたしましては、好き放題に……ごほん、お仕えし甲斐があるというものです。
そうでない方、ですか?
ああ、無能なのに無能だと自覚していない方ですね。
いえ、それは、何とでも言いくるめられるので、手間はかかりますが、たいしたことはありません。今現在も、たいしたことはありません。
ご満足いただけますよう、努めております。
最もやっかいなのは、よく言えば活動的な方ですね。
もちろん、今現在は、やっかいだとはこれっぽっちも感じておりません。ええ。
前の主人には、大変に手を焼かされました。
自分でものを考え、行動できる方は、なにせご自身でやるべき事をやれてしまうので、本当に手間がかかります。
本当にやっかいでした。
嬉しそうですって? 滅相もない。気のせいでしょう。
ご主人次第で、お仕えの仕方を変えることはございません。
お仕えする皆々様がご満足いただけるよう、努めております。
お聞きになりたいですか?
ですが、前のご主人のことをべらべらとしゃべる執事は、執事としてはマナー違反ですし。
あの方は、ご自身を、まさに自分こそがヒロインだとおっしゃっていました。
結局しゃべるのか、ですって? なかなかツッコミが板についていらっしゃる。
ええ、前の主人のことをしゃべるのはよくないと思います。
今、お話ししているのは、前の前の主人、二代前のご主人のことです。
そこから始めるので、まあ、大丈夫でしょう。
前の前のご主人は、立派な方でした。
あまりにも立派で、私の執事人生の中でも、トップにいると言える方です。
ところが、その次にお仕えした方は、なんというか、その対極に位置するといっても良いくらい、何一つ、私の思い通りにならなかった方でございます。
何を言っているのか分からないかと思いますが、前のご主人は、ご自身をこう表現しておられました。
「私は、ヒロインにはなれない」
「私は、悪役令嬢だ」、と。
ええ。庶民の間で使われている、隠語でございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます