【転移4日目】 所持金44万6760ウェン 「こんなんチートやん…。」

4日目。


寝るのが早かった所為か早起き出来た。

就寝前に何も読まない生活は退屈だが、健康を取り戻している実感はある。

少なくとも、視力と睡眠時間は劇的に回復した。



「あら?」



部屋を出ると目が合った女将さんが驚いている。



「今日はお早いのですね。

朝ごはん食べられますか?」



『あ、じゃあお願いします。』



フロントの食堂区画まで降りると、また10時だった。

ミスったな。

早く起き過ぎたか…



「あっ、お客さんおはよー♪」



『おはようございます。』



「今日の朝ごはんはキノコと鹿の干し肉のサラダリゾットだよ。」



『鹿は生まれて初めて食べるかも知れない。』




異世界に来てから、色々な種類な肉が売られているのを見たが、まだ鹿肉は食べていなかった。

少し炙っているのか、やや香ばしい匂いがする。



「鹿が初めてなんて嘘だぁーーw」



娘が笑う。

という事は、この辺ではポピュラーな食材なのだろうか?



『この宿… 胡桃亭では他にどんな肉がメニューに出るの?』



「バラバラー。

鹿の他には猪とか蛙とか、鳥肉も多いよ。」



『へー。 俺の居た世界とあんまり変わらないんだな。

魚はないの?』



「さ、さかな?」



『ん?

いや、クレームとかじゃなくて。

俺の故郷じゃ魚介類が豊富だからさ。』



「ああ、魚ですね♪

ああいうのは綺麗な川や湖の側に住んでいる人が食べるものですよww

干し魚はぜいたく品なので、あんまり食べられないんです。」



『な、なるほど。』



この辺は内陸文化なのか?

参ったな。

俺は魚介系が好物だ。

特に刺身や魚卵に目が無い。

地球に居る頃は、いつか金持ちになって毎日ウニ丼を腹いっぱい食べるのが夢だった。


…まずは目標が出来たな。

こっちの世界の基準で金持ちになる。

そして何不自由なく遊んで暮らすんだ。


それから。

どんな手を使っても、このスキルを保有したまま地球に帰り…

俺や父さんを馬鹿にした奴らを見返してやるんだ。



=====================



さてと。

昨日と同じ手口で無利息借入をしてもいいんだが。

ああいうヤクザ連中に目を付けられるのは怖いので、程々にしておこう。



俺の所持金は43万8000ウェン。

利息が1%なので本日の手取り見込みは4300ウェンである。

勿論、働かずにカネを貰える事自体には感謝しているのだが…

女将さん曰く、「男は1万ウェン稼いで一人前」との事だからな。

今のところ、半人前にすら達していない。


理論上、100万ウェンを貯めれば毎日1万ウェンの配当収入を得れる訳だ…

ニコニコ金融で無利息融資を受け続ける手もあるが…

ヤクザに真正面から喧嘩を売るような真似はしたくない。



金融屋以外の店も調べておくか…

当然、冒険者ギルドが定番だよな。



『カネ貸しが天秤のマークを看板に掲げてるって事は…

冒険者ギルドは何のマークだろうな?』



1人でブツブツ言いながら街を徘徊する。

鎧姿のチンピラみたいなお兄さん達が入っていく建物を遠目に見掛けたので、俺も追従する。

大きいが薄汚い建物だ。

よせばいいのに酒場を併設しているから、臭く騒がしい。


無論、冒険者ギルドに入るのは人生初だが、全ての日本人がラノベで予習済みなので、利用方法は何となく理解出来る。



『すみません。

初めての利用なんですが…』



「ああ、新規登録ね。

じゃあ、この水晶球に掌を乗せてね。」



…これカネ貸しと同じシステムなのか?



「ん?

どうしたの?

登録してくれないと仕事は斡旋出来ないよ?」




…どうする。

これ絶対、依頼破棄したら全身がピカピカ光って、賞金目当ての善男善女に集団リンチされるシステムだぞ。



『…はい。』



釈然としないながら、水晶球に触れる。



「はい。

君の生体認証頂きました、と。」



受付が嫌な事を言う。

でも冒険者ギルドにマイナンバーカードみたいな機能を持たせるのは、治安維持上最適だな。



『仕事探してるんですよ。』



「あそこの求人票コーナーでチェックしてね。」



受付はそう言い捨てて、書類作業に戻る。

不愛想系の受付かぁ…

どうせなら爆乳系の受付にしてほしかったな。



=====================



思ってたんと違う!



冒険者ギルドの掲示板は、ほぼ指名手配犯への捕殺指令で占められていた。



・東方の盗賊団(毒の吹矢を多用する)の抹殺依頼

・国境沿いに潜伏しているらしい人身売買グループの逮捕依頼

・数年前に王国貴族を殺害した傭兵団の抹殺依頼



俺にこなせるとは思えない上に、賞金が5万ウェンとか7万ウェンと妙に安い。

盗賊団と戦って5万とか割に合わないにも程があるだろう。

この国は命が安いのか?



『あのお、もっと報酬の高い仕事はないんですか?』



「南の国境確定地帯に帝国が勝手に砦を築城してるんだ。

そこを落城させて、敵将を討ち取ってくれたら400万ウェン貰えるぞ?」



…相場安いなあ。

ケチ臭い国だぜ。



『受付さん!

他の人はどんな依頼を受けてるんですか!?

一般人でも出来る仕事を教えて下さいよ!』



「うーん。

王様の悪口を言ってる奴を見つけて

憲兵本部に密告したら展開次第で10万ウェン貰えるよ。

反政府集会を密告したら50万ウェン貰える。

密告対象が帝国のスパイだったら追加で30万ウェンが支給される。

オマケに愛国勲章も授与される。

そこから兵士の仕事にありつける事もある。」



『微妙に報酬高くないっスか?』



「そりゃあ、王様からしたら自分の悪口言ってる奴が一番許せないだろうからな。」



『まあ、そりゃあそうですけど。

もっと冒険者っぽい仕事がしたいんですよ!』



「密告は冒険だぞ?

密告したのがバレて報復殺人とか日常茶飯事だし。」



…マジで中世レベルだな。

微塵も文明の香りがしねえ…。



『モンスター関係のは無いですか?

ほら、スライム退治とか。』



「ああ、それなら農協だな。

向かいの建物だ、覗いてみな。」




=====================



それで向かいの農協に入ってみる。

ああ、こちらの方がラノベとかで読んだ冒険者ギルドっぽいな。

さっきのは、低民度地域の市役所や警察署みたいな雰囲気だった。



「いらっしゃーい。」



緩い雰囲気のオジサンが受付。

小太りで福相、声も明朗。



「農業ギルドにようこそ!

正式名称は《王立農業協同組合》!

長期も短期も仕事は色々ありますよー。」



なるほど。

こっちの方が積極的だな。



「初めての方ですか?

どんなお仕事をお探しで?」



オジサンが柔和な笑顔で立ち上がって話し掛けてくれる。



『えっと、あんまり体力に自信が無いんですけど

その…

ムシのいい話ですが、まとまったお金が欲しくて…』



「ああ、わかります!

私も若い頃はワリのいい商売を必死で探しましたよw」



オジサンが頭をポリポリかきながら、俺に同調してくれる。

嫌でも農協に好感を持ってしまう。



『何かいい仕事、あります?』



「危ない仕事だから若い人にあんまり薦めたくないんですけど。

ほら、今期はホーンラビットが大量発生してるじゃないですか?

王様も駆除したがってるんですけど、人手が全然足りなくて。


通常なら1匹1000ウェンの報酬なんですけど、今回の依頼は勅命なので倍額が支払われます。」



『という事は、1匹2000ウェンですか。

うーん、そんなに大金でもないですね。』



「ええ、ですので

狩りに自信がある方がごっそりまとめ捕りしているイメージですね。

最近フリーの猟師さんで1日に57匹狩った人が居て、凄く話題になってました。」



『11万4000ウェンですか!

凄いですね!』



「その人は1ヶ月で200万ウェン近く稼いでました。」



『おお!

夢が広がりますね!』



「ですが、当然そんな稼げるのはトップ層だけの話です。

稼ぐ前に怪我をされる方も少なくないですし

角が刺さって片目を失明してしまった方もおられます。」



『うーん。』



父方の実家が瀬戸内沿いの僻村で、そこでは日常的に害獣駆除が行われている。

幼少の頃は何度か遊びに行って、狩猟を見学させてもらったこともある。

それだけだ。

俺自身は殺生や農業と無縁の生活を送ってきた…



「あの…

貴方、見た所まだお若いですけれど

今、何かお仕事はされてますか?」



『いえ、恥ずかしながら…

求職中でして。』



「これは年長者として、経験を踏まえた助言なのですが

若いうちは色々な職種を経験される事をお勧めします。


自分が苦手な職種や普段意識していない職種に触れてみると。

人生の幅は大きく広がります。


勿論、十分安全に配慮する必要はありますが。」




『な、なるほど。』



…口車に乗せられてるだけかも知れんが、オジサンの言葉には妙な重みがある。

この人は若い頃苦労したタイプなのだろうか?



『もし近場で、俺にでも出来そうな仕事があればやらせて下さい。』




=====================



俺は農協で支給される棍棒と小盾を持って城門脇に広がっている田園地区に足を踏み入れた。

(この支給品を借パクすると全身が点滅発光して集団リンチの対象にされる。)

指示された一番大きな農家の前に俺と同様の棍棒男が集まっていた。

赤ん坊を背負った女性もいたから、結構ポピュラーな仕事なのかも知れない。



「おお、君も農協経由?」



『あ、はい。

農協の方から名主さんに挨拶するように言われて。』



「俺の親父が名主なんだ。

でも歳が歳だから実際は兄貴が役目を務めている。

俺は四男坊だから、この通り兄貴の使いっ走り。」



四男さん(と言っても見た目40過ぎくらいだが)から、ホーンラビットの予想出現ポイントと立ち入り禁止エリアを聞かされる。

どうやら四男さんがこの案件の現場責任者らしい。



「とりあえず巣穴を潰さなきゃ意味が無い。

草むらに巧妙に隠されているから解り難いと思うが、ホーンラビットの巣穴を見つけたら俺に教えてくれ。

一気に焼き払う。

こう見えて俺は特殊な火魔法が使えるんだぜ!」



『特殊な火魔法?』



「農作物を傷つけずに、害獣だけを焼く火魔法だ。」



『おおお!!!』



「自分で言うのも何だが、こんなに実用性のある魔法は無いと思う。

それじゃあ、頼んだぞ。」



四男さんが竹筒のような物を渡してくれる。

どうやら止血剤らしい。

なるほど、これが支給されるということは、やっぱり生傷の絶えない仕事なのだろう。



=====================



『…速過ぎだろ。』



農道を歩く俺が目撃したのは、疾走するホーンラビットの群れだった。

信号無視のバイクくらいは速い。

見た瞬間に戦意がくじかれる。


ラノベとかじゃ、転移したての主人公が難なく小動物モンスターを駆除している光景が散見されるが…

アイツら凄いな。

俺には無理だ。


ふと臭いを感じたので道の脇を見ると、子豚の死体が転がっている。

まさかホーンラビットに刺されて死んだのか?

…まあ、あんな尖った角が刺さったら、普通は死ぬよな。



『うーん、あれで一匹2000ウェンか…』



俺はカネ貸しのダグラスの顔を思い浮かべる。

昨日と同じスキームを使えば1万ウェンが労なく手に入る。

つまりホーンラビット5匹分だ。


いや、今から戻ってもスキル発動までには間に合わないな。

経験だと思って、今日は異世界っぽさを堪能する日にしよう。




=====================




俺は周囲を見渡して、上手く狩っているグループを見つけ、彼らの手法を観察する事にした。

その若者3人組は手際が良く、狩ったホーンラビットを次々にリアカーに投げ入れていく。

日焼け具合から見て近隣の若手農家だろうか?


俺達のように棍棒は使わず、長い竹竿みたいなもので、群れの足を掬って転倒したものだけを確実に捕殺しているようだ。



「街の子かー?」



俺がボーっと見ていると若者たちが寄ってくる。

怒られるのかと一瞬不安になったのだが、話相手が欲しいだけだったらしい。



「農協さんはちゃんと俺達の案件をプッシュしてくれとるの?」



『あ、はい。

俺は今日初めて農協に来たんですけど…

いきなりこの仕事を勧められて。

何でも王様直々の案件だそうで。』



「この辺は天領だからな。

王様も今年の収穫は気が気じゃないんだろう。」



『あ、この辺は王様の土地なんですね。』



「おう、俺達由緒正しき天領百姓よ。

まあ、貴族連中が労働力を引き抜いていくから、農地の維持には苦労してるんだけどな。」



3人と歩きながら雑談しているうちに、おぼろげに見えてくる。

この国のトップは勿論王様だ。

で、その藩屏である大貴族達がそれに次ぐ。

国政では王様の与党である大貴族達だが、こと農産業においては強力な競合相手となっている。

小麦・葡萄・藍・薬草類、これらの換金性の高い作物を独占栽培出来れば王室は潤うのだが、《商売敵》の大貴族達はそれを許してくれない。

王様相手でも、容赦なくダンピング攻勢や農作業者引き抜きを行なってくる。

その結果として王都お膝元のこの農園地帯ですら、このように荒れてしまっているとのこと。


特に専門教育を受けた農業技術者が軒並みヘッドハンティングされて王都を去ってしまったのが痛いらしい。

技術者が去ったから収益が落ち、収益が落ちたから技術者を繋ぎ止めるだけの報酬を支払えない。

ここ10年は特にその流れが顕著だということ。



『…地味にヤバいですね。』



「派手にヤバいぞ?

このペースだと秋まで備蓄が持たないからな。」



『ど、どうするんですか?』



『ホーンラビットでも喰らって生き延びるしかあるまい?』



『で、ですよね。』



3人に竹竿を貰って、一緒に疾走する群れの足元を狙う。

敏捷な3人と愚鈍な俺では竹竿を振るタイミングがどうしてもずれるのだが、それが逆にフェイントになったのか5頭くらいが派手に転倒する。

そのうち2匹は足を引きずりながら慌てて群れを追っていった。

残った3匹は後続に強く踏みつけられた形跡もあり、瀕死だった。



「ほら、トドメさしてみ?

何事も経験だぞ?」



『は、はい!』



「ナイフは駄目!

このスコップ貸すから、ドカっと行け!」



『はい!』



俺はスコップを振り上げると、思いっきり振り下ろす。

1発目は角の端を掠っただけだったが、2発目が首の根元に直撃し、明らかに命が失われた手応えを感じた。



「君、生き物殺すの初めてか?」



『ええ、恥ずかしながら…』



「見た所、都会育ちだろ?

別に恥ずかしくはないよ。

逆に都会の人間で俺達を軽蔑する奴は多いくらいさ。」



『両親の実家が農業をやってまして、俺はそんなに抵抗ないです。』



「ああ、親の代で都会に出た子か。

まあ、いい経験になっただろう。」



『はい、結構怖かったですけど。

いい経験に…』




ん?

経験?

俺は脳内でこっそりステータス画面を開く



=====================



【ステータス】


《LV》  1

《HP》  3

《MP》  1

《腕力》 1

《速度》 1

《器用》 1

《魔力》 1

《知性》 2

《精神》 1

《幸運》 1


《経験》 5



※次のレベルまで残り5ポイント。



=====================




む?

今ので経験値入るのか?

俺、動かない相手にスコップ振り下ろしただけだぞ?

っていうかホーンラビットの経験値って《5》なのか?



『あの、もう1匹俺にトドメささせてくれませんか!?』



「何だーw 欲が出てきたかw?」

「ホーンラビット如きを殺しても大した経験値にならんだろうww」

「俺達も干し肉生産のノルマあるからねぇ。」



『勿論、肉は皆さんのものです!

後1匹だけ殺させて下さい!』



「うーん。

まあ、肉を譲ってくれるのなら。

いいよ。」



『恩に着ます!』




転倒して起ちあがろうとしているホーンラビットにスコップを構えて飛び込む!

見た目よりダメージが低かったのかホーンラビットは身をこちらに翻して角で突撃してきた。

普段なら恐慌していた場面だが、興奮していたのか絶叫しながら体重を掛けてスコップでの圧し潰しを狙う。

敵も必死で暴れ回ったが、2発外した後に首を刺して殺した。



『っしゃあ!

やりましたよ!!』



俺は笑ってガッツポーズを取るが、3人は慌てた表情で駆け寄ってくる。



『いやあ、強敵でしたw

コイツラ見た目に寄らず結構パワーありますねw』



「馬鹿!

足だ!!

ゆっくりそこに座れ!!」



『はい?』




3人が焦ったような雰囲気で俺を囲み横たわらせる。

不思議に思った俺が何気なく足元を見ると…

あれ返り血?

いや、俺の血?

俺のズボンがザックリ斬られていて一面に血が広がっていた。



『うおっ!

足を斬られてました!』



「安心しろ!

これは静脈出血だ。

止血剤支給されてるよな!?」



『あ、この竹筒…』



「俺が使うぞ!

少し染みるが我慢しろ!」



『え? 染み…

いたたたた!!!!』



「男なら声を押し殺せ!」



『は、はひ!』



「ジョージ!

俺のボックスから包帯持ってこい!」



「もう持ってきたぜ!」



『す、すみません。』



「謝るな。

本職の猟師でも角に突かれて死ぬこともある!

君に落ち度があった訳じゃない!」



『あ、ありがとうございます。』




=====================




小一時間、介抱してもらって少し歩けるようになる。



「本当に大丈夫なのか?

無理すんなよ!」



『歩く分には大丈夫そうです。

走るのはちょっと無理そうですけど。』



「じゃあ、一旦アランさんのとこまで戻るぞ。」



『アランさん?』



「ほら、名主の家の。」



『ああ、火魔法の!』



「そう、あの人が責任者だからな。

どのみち、負傷に関しては報告義務がある。」




=====================





四男さんも、少し驚いてた。


「この子はちゃんと2匹仕留めてくれたからな!」


と3人組がフォローしてくれる。

全くの役立たずではなかった、ということにしてくれるらしい。



「君、傷を見せてもらうよ?」



そう言って四男さんは包帯を巻き直してくれる。



「この薬草、持っておきなさい。

寝る前にちゃんと摺り込むこと。

幸い傷は浅いけど、処置が悪いと膿んでしまうからね。」



『スミマセン。

来たばっかりなのに、全然活躍出来なくて。』



「馬鹿者!

若いうちからそんな事心配せんでいい!

今は養生に集中しなさい!」



四男さんに怒られる。

結構みんな真面目だな。

地に足がついた生き方を感じる。



「アランさん、この子2匹仕留めたんだ。

報酬あげてやってくれよ。

手ぶらで帰すのは心苦しい。」



「わかった。

トイチ君と言ったね?

討伐チップを2枚授与する。

これを農協に持っていけば駆除報酬が支払われる。

チップには期限があって、年を跨ぐと無効になるから気を付けるんだよ。」



『何から何までありがとうございます。』



「こちらは責任者として義務を果たしているだけだ。

恐縮の必要はない。

肉はこちらで貰ってしまって本当に構わないんだな?」



『はい、どのみち俺では解体出来ませんし

それなら皆さんに有効活用してほしいです。』



「わかった。

備蓄用に回させてもらう。」




俺は王都まで帰るつもりで居たのだが、皆から「念の為一泊するように」と言われたので素直に従う。

作業員の為の仮設宿泊所が余っていたので案内してもらう。



「本当に無料なんだって。

別に君に気を使ってそう言っている訳じゃない。

今期の害獣警報は君も農協で聞いただろ?

少しでも街の作業員を誘致したいんだよ。

別に宿くらい幾らでも提供するつもりさ!」



俺なんかに気を遣うレベルで人手が足りないらしい。

まさに猫の手だな。




四男のアランさんが長屋状の作業員宿舎に案内してくれる。



「すまんな!

君ともう少し話をしたかったが、巣穴を見つけたらしい。

今から焼きに行ってくるよ!」



アランさんは俺を部屋に案内すると、その足で飛び出して行ってしまった。




=====================




『…ふう。』



布団だけが敷かれた2畳ほどの小部屋に入ると、俺は溜息をついて座り込んでしまう。



『それにしても情けねえな、俺。』



戒めの為に、敢えて言葉に出した。

ラノベとかじゃ、それこそ冒頭1ページ目から雑魚キャラを簡単に退治する作品すらあるのだが…

この世界じゃ俺が一番の雑魚らしい。

まあ、雑魚過ぎて追放される程だしな。



『どう見ても浅い切り傷だよな…』



包帯をこっそり外してみると、傷は小さく浅い。

あの時はパニックになったが、今思えばそこまでの負傷ではなかった。

恐らく、俺がこんな頼りない雰囲気だから周囲も過度に反応してしまったのだろう。

もしも俺が筋骨隆々の大男だったら、ここまで過保護に扱われただろうか?

多分無いな。

俺が男として信頼されるタイプだったら、そのまま狩猟は続行されただろう。



『ホント情けねえな。』



惨めな気持ちで、床を叩く。

この数日、【複利】を得て有頂天になっていたが、兎一匹にやられてこの様である。

やっぱり男はパワー無いと駄目だな…




不貞腐れて寝転がっていると、不意にアナウンスが聞こえる。

ああ、もう利息の時間かぁ。




《8760ウェンの配当が支払われました。》



この怪我さえなければ、今頃ニコニコ金融で…



『ん?

何かおかしくないか?

そんな配当金額じゃなかった気がするけど。』



違和感を覚えた俺は慌ててステータス画面を開く。



『ステータス、オープン!』




=====================



【名前】


遠市厘



【職業】


自称コンサルタント



【ステータス】


《LV》  2

《HP》  (2/3)

《MP》  (1/1)


《腕力》 1

《速度》 1

《器用》 1

《魔力》 1

《知性》 2

《精神》 1

《幸運》 1


《経験》 10


※次のレベルまで残り20ポイント。



【スキル】


「複利」 


※日利2%



【所持金】


44万6760ウェン



=====================



『ま、マジかーーー!!!!』



俺は驚愕する。

日利2%!?

このスキルは固定金利じゃなかったのか!?



『あ、ヤバい…

マジでヤバい…

え? え? え?

嘘だろ?』



ああ、マジかー。

その日、俺は戦慄と興奮のあまり一睡も出来なかった。


こんなんチートやん…。

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