【転移3日目】 所持金43万8000ウェン 「早朝11時起床!」

3日目。

カネが増えて気分爽快だったので、早朝11時にパッチリと目が醒めた!


『おはよう!』


誰も居ない部屋で爽やかにスマイル!

窓を開けて高い朝日を浴びる。



いやあ、カネがあるって気分いいですねぇ~。

いやあ、カネが増える見込みあるのって最高ですねぇ~。

いやあ、カネを握り締めて迎える朝って爽快ですねぇ~。


俺の能力は【複利】ッ!

宇宙最強の男だ!



改めて手持ちのカネを数え直す。

ヤバいな、増えるのは嬉しいのだが…

やや金額が膨れてきた…

この文明には紙幣は存在しないのか?

せめてもっと高額な貨幣があれば助かるのだが…

いずれにせよ、これら全てをポケットに入れるのは危険だ。




「おはようございます。」




俺の声を聞き付けたのか、宿屋の娘がノックして入室してきた。

流石は宿屋、早起きだな。




『ああ、おはよう。』



「…。」



娘は無言で何事かを言いたそうな表情をしている。



『ん?

何?  

掃除なら部屋を出て行こうか?』



「あの…

お客さんはお仕事とかしなくていいんですか?」



『ん!?

ああ、仕事ね。

はい、うん。

するよ、するする。

今から丁度出かけてくる予定だったんだ。』



うーむ。

どうやら地球同様、大の男には勤労の義務があるらしい。

参ったなあ。

この俺が仕事とかする必要あるのか?

我、複利ぞ?



怪しまれたくないので、朝食を食べたら逃げるように宿を出る。

折角だから、街をブラブラしてみるか。



まずは定番の冒険者ギルドに顔を出すつもりだったのだが、ギルドのある街の中心部に向かう途中、奇妙な看板を多く見かけた。

天秤のマークの看板である。

剣のマークなら武器屋、盾のマークなら防具屋と理解出来るのだが、天秤のマークが何なのか見当が付かない。

法律家だろうか?



と思って何気なく店を覗き込んでみる。

瞬間。

ガラの悪い店員(明らかにカタギではない)と目が合う。



「らっしゃい。」



店員は頬杖をついたまま、こちらを睨んでくる。

カウンターには《利息》《返済》という用語が書かれたポスターが貼られてある。


あっ、ここカネ貸しだ。

それも暴力を伴う高利貸し。



「新規さん?

他の店の借り入れ状況は?」



ぶっきらぼうに店員が語りかけてくる。

肩に大きな刺青が入っていて怖い。


逃げ出したい気分だが、反面この世界の金融情報は何としても知りたい。

勇気を出して話し掛けてみる。



『こんにちはー。

ここ金融屋さんだったんですねえ。

知らずに入っちゃいました。』



店員は無言で俺を観察し続ける。



「冷やかしなら帰んな。」



『いえいえ!

明日をも知れぬ旅人の身でして。

今後の為にも借り入れ先を開拓しておこうと思っ「嘘つけ。」



俺の言葉は店員に遮られる。



「オマエ、生活にゆとりあるだろう?

喰い扶持稼ぐ手段も持ってる筈だ。

見れば分かるんだぞ。」



『ゆ、ゆとりという程ではありませんが…』



「ウチの貸出上限は100万ウェン。

月利は15%。

但し、15日以内のスピード返済には10%の利息で対応する。

5日以内の超スピード返済には5%。

翌日返済なら利息は付かない。」



『え?

無利息で貸してくれるんですか?

それって儲けにならないんじゃ…』



「御覧の通り、この街の金融業は飽和状態だ。

上客を掴む為の差別化は必要だろ?

まあ、これはウチのボスの受け売りだがな。


そういう訳でこの店は返済の早い人間を優遇する事で差別化を図ってる。

俺も翌日無利息の意味が最初は解らなかったんだけどな。

このシステムのおかげで、上客を独占出来ている。

数時間の返済なんてパターンもあるんだぜ。」



『な、なるほど。

返済の速度に自信を持ってる借り手というのは、現金収入が見込める立場の者が多い。

テナントを構えた商人や職人など…』



「理解が早いな。

まあ、概ねそんなところだ。

最初はみんな翌日無利息で返済してくるんだ。


で、いつの間にかウチからの借り入れが習慣化する。

習慣化したら、そのうち5%や10%の利息を払うことを自主的に選択してくれる。

という寸法だ。」



『かなり高度なビジネスですね。』



「俺達のボスは切れ者だからな。


…じゃあ、次はオマエの番だ。」



『お、俺の番ですか?』



「こっちばっかりペラペラ話すのは不公平だろう?」



『俺は商売人です。

大きな商いをする為に元金を増やしたいと考えておりました。』



「ああ、駆け出しさんね。

テナントは持ってない?」



『はい、宿屋暮らしです。』



「業種は?」



『コンサルタントです。』



「ああ、自由都市で流行ってるみたいだな。

要は情報屋・コーチ屋だろ?」



『ええ、まあ。』



コンサルタントというのは、さっき宿屋の娘から「働かないのか?」と尋ねられたことを切っ掛けに、スキルの隠れ蓑となる商売の必要性を感じて捻り出した肩書だ。

無職が大金を持っていたら怪しまれるが、コンサルタントという事にしておけば誤魔化しやすいし、カネの出所を追及された時でも、《顧客情報保護》を盾に出来る。



「借りてくかい?」



『いずれ、纏まったカネを。』



「幾ら必要だ?」



『数千万。』



「俺の決済枠は100万ウェンまでだ。」



『そんな事まで教えて下さっていいのですか!?』



「言っただろう。

差別化だよ。」



『なるほど。


俺はトイチリンと申します。

一昨日から郊外の宿屋で寝泊まりしてます。』



「宿名は?」



『帰って調べてみます。』



「…。

オマエは世の中の事に疎そうだから教えておいてやるが。

高利貸しからカネを借りる場合、探査の魔道具でマーキングをされる。

何の為かわかるか?」



『逃がさない為ですよね?』



「そうだ。

世界からは戦争が絶えないが、カネ貸しのネットワークは万国共通。

例えこの国から逃れたとしても、逃れた先のカネ貸しから取り立てられる。

踏み倒しは絶対に不可能だ。」



『いやあ、怖いです。』



「嘘つけ。

全然ビビってないじゃねーか。

オマエは勝算のある戦いを選んで、確実に勝ち星を積み上げていくタイプだよ。」



『…貴方のボスがそういう方なんですね?』



「ご名答。」



===================



俺は一旦宿まで帰ると、女将さんに宿の名を聞いた。

《胡桃亭》と言うらしい。

いい名前だ。

如何にも生真面目な母娘が肩を寄せ合って営んでいるような響きがする。


そのまま先程の金融屋に戻って屋号を聞く。

《ニコニコ金融》とのこと。

典型的なヤクザのシノギだな。

こんなあからさまな名前を付ける神経がまず恐ろしい。

強面のお兄さんに「ウチはニコニコ金融だよ」とか名乗られたら、逆に笑えないよな。



しばらく付近の屋台で情報収集を兼ねて時間を潰す。

勇者召喚の話題で盛り上がっているグループが居たので、聞き耳を立ててみる。

なるほど、《一ヶ月以内に何人死ぬかトトカルチョ》が開催されてるのか。

俺も一口買ってみようかな。

そうだなー、俺自身も含めて5人くらいは死ぬんじゃないかな。




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【所持金】


42万6240ウェン

  ↓

42万6040ウェン


※食事代200ウェン支払い



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17時10分前。

スキル発動のギリギリを狙う。



『100万ウェンって借りられますか?』



「さっきも言ったけど。

ちゃんと魔道具契約をしてもらうぞ?

返済を確認しない限り絶対に解除はしないからな。」




魔道具契約。

要は発光GPSだ。

借金を踏み倒した債務者は、ずーっとピカピカ紫の点滅光を発し続ける。

カネ貸しに債務者の身柄を持っていけば賞金が貰えるので、債務者は世界中から狙われる。

運が良ければ拘束時に即死出来るが、運が悪ければ拘束時に重度の障害を負わされてから炭鉱奴隷に落とされる。

極めてシンプルな金融システムだが、単純が故に恐ろしい。



「名前とか聞いても、あんまり意味が無いんだ。

ほら、カネを借りに来る奴って大抵偽名を使うからさ。

オマエぐらいのもんだぞー、いきなり本名と宿名を告げる馬鹿は。

もうちょっと真面目に世渡り考えろ。」



『ご忠告感謝します。』



「じゃあ、この水晶球の上に両手を乗せろ。

右、左の順番でな。


よーし、それじゃあ両目を開けたまま水晶球を覗き込むんだ。

光るけど我慢しろよー。


馬鹿、目を瞑るな。

やり直しだ。


はい、完了。」



『え?

こんなので手続き終わるんですか?』



「みんな最初は驚くな。

で、踏み倒して捕まった奴は2度目に驚く羽目になる。」



『怖いですね。』



「いやあ、怖いのはオマエだよ。

何で数あるカネ貸しの中からウチを選んだ?」



『この店だけが掃除が行き届いていたからです。

それも別格に掃き清められていた。』



「50点。」



『あの後、他の店も覗いてみましたが

良い事しか言わない店ばかりだったので。』



「残りの点数もくれてやるよ。

で、使い易いように金貨に崩すか?」



『金貨より上の貨幣があるのですか!?』



「ふっw

昔の俺と同じ事で驚きやがるw

金貨1枚には1万ウェンの価値がある。

そして100万ウェンの価値があるのが、この白金貨だ。」



『べ、勉強になります』



「知らなくても恥じゃないぜ。

平民には縁が無いシロモノだからな。」



『白金貨で貸して下さい。』



「ほらよ、政府の封印付だ。

失くすなよ。」



『ありがとうございます。』



「利息はさっき説明した通りだ。

月利が15%。

但し、15日以内のスピード返済をしてくれるのなら、10%の利息で構わない。

5日以内の超スピード返済なら5%の利息でいい。

翌日返済なら利息は付かない。」



『ええ、理解しました。

なるべく早く返済します。』



「どうせ今日中に返すつもりなんだろ?

夜は8時に閉めるからな。」




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【所持金】



42万6040ウェン

  ↓

142万6040ウェン



※100万ウェン借り入れ



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よーし、16時57分だ。

概ね計算通り。


このスキルの意味を知った時から、ずっと実験したかった。

《借り入れ金にも1%配当が支払われるか》を。


さあ、後はスキルの神様に祈りますか…

複利の神様って誰だろう?

アインシュタイン?

バフェット?

ロスチャイルド?

誰かな?

或いは、文明システムそのものを祝福する必要があるのか?



16時59分。

残りの時間は祈りに費やそう。



カネカネカネ、ナンマイダー。





《1万4260ウェンの配当が支払われました。》




おお!?

借入金にもスキルは有効なのか!?

これ洒落にならないチートだな。

端数切捨ては損した感じだが、計算は楽かも。




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【所持金】


142万6040ウェン

  ↓

144万0300ウェン


※1万4260ウェンの配当


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俺は近所の屋台で干し肉セット300ウェンを買ってから、ニコニコ金融に戻る。




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【所持金】


144万0300ウェン

  ↓

144万0000ウェン


※干し肉セットを300ウェンで購入


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「ズルい商売は上手く行ったのか?」



『ええ、お陰様で。』



「よし、確かに白金貨1枚100万ウェンの返済だ。

封が切られてないが、規則だから鑑定機に掛けるぞ。」



『お願いします。』



「…よし、問題ない。

返済完了だ。」




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【所持金】


144万0000ウェン

  ↓

044万0000ウェン


※100万ウェンの返済


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『スミマセン。』



「何故謝る?」



『いえ、ニコニコ金融さんに1ウェンの利益も無いので。』



「本気でそう思ってる訳じゃないんだろ?」



『広告費としては最適だと思います。』



「50点。」



『客の選別にも有効です。』



「流石だな。」



『あの、良かったらこれ皆さんで召し上がって下さい。』



「若造が妙な気を回わさんでいい。

それに規則で客から贈答を貰う事は禁止されている。」



『あ、スミマセン。

余計な気を回しちゃって…』



「明日ボスと一緒に食べるよ。」



『え?』



「規則違反で叱責される価値はあるからな。

俺の独断で受け取ってやる。」



『あ、ありがとうございます。』



「礼を言うのはこちらの方だ。

ダグラス。」



『え?』



「ダン・ダグラスだ。

宜しくな。」



『!?


…改めてはじめまして!

遠市厘です!』




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そのまま宿に帰って、連泊料金を追加で支払い。

女将さんの作ってくれたビーフシチューを貪って寝た。

きっと極度に緊張していたのだろう。

夢も見ずに泥のように熟睡した。







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【所持金】


044万0000ウェン

 ↓

043万8000ウェン


※宿代2000ウェン支払い (朝晩食事付)



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