東国の勇者の場合10
目の前で屈強な男たちが休みなく実戦さながらの激しすぎる戦闘訓練を続けている。それは、格闘技経験ゼロの戦闘初心者である自分がこなしていい、いや参加すらしていい内容のものではなかった
「これをやるんですか。」
「ええ」
「俺たちが?」
「ええ」
「今から?」
「ええ」
「すぐに?」
「ええ」
「最優先で?」
「ええ」
「ほかの町を見ることよりも?」
「ええ」
「絶対に?」
「ええ」
「どうしても?」
「ええ」
「是が非でも?」
「ええ」
「はははぁ、大変ですね。」
「ええ」
「でも、そういうのって拒否権とかってありますよね。」
「ありません」
「ですよねー」
「ええ」
なぜだろう、ずっとこの人は淡々と笑顔だ。めちゃくちゃ怖い怖すぎる。
もうすでにもと居た世界に帰りたいと思い始めてきた。とりあえず軍の入隊だけは絶対に避けなけようと心に誓う。
今自分が一番にとるべき王道は一つで。いかに自分がサボり、命を落とさずこの訓練場から出るかが問題になってくるだろう。とりあえず頭を巡らせみた。
今この部屋で気を付けなければならないことは、この高温状態からくる脱水である。今この訓練場にいるだけで汗が滝のように流れてくる。締め切ると風通しも悪いため風が吹かないし、湿度が高いせいで完全な蒸し風呂状態へと化していた。
もともとの気温が高すぎる上に、体感温度まで爆上がりしている。地獄の業火に焼かれる悪人の気分はこんなものだろうか。いや、それよりはマシか。そんな風に考えていたらある程度は大丈夫かもと思えてきた。こういう時人間の思考は単純化するらしい。自分の場合は突拍子もないことを考えてそれよりはマシだと思い込むことだった。
この感じなら精神的にだいぶ楽になってくる。あとは体力が終わりまで持つかどうかだがそこはさすがに、初心者特権で甘く見てくれるだろう。
甘い考えであるかもしれないが、この感覚ならまず死ぬことはないのではないかそういう希望が湧いてくる。よし、これなら大丈夫だ、頑張ってみよう。
そんなことを考えていたらあることに気づいた。
「ところで、リニアさん。水分補給用の水とかもないんですか。それらしき物が見当たらないんですが。」
辺りを見回したときに飲み水のようなものがなかった。これだけの熱気と水蒸気だ訓練参加者は相当な脱水症状に悩まされていてもおかしくない。それにこれだけ激しい訓練中ならばそう言ったものは必須になって来るとは思うのだが。最悪訓練中に死者だって出しかねない。
そんな危険なことを一国の軍隊がするだろうか。
「そんなものはありません。戦場で気軽に水が飲めると思いまして。」
前言撤回。俺、今日死ぬかもしんない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます