東国の勇者の場合9

 訓練場の入り口の前に立った。扉は門構えになっており、鍵のようなものは一切かかっていないように見えた。

 外側から見た感じでは平屋の豪邸そんな感じの広さと考えてしまうほどかなりの広いように思えた。さらには、高さもかなりある。目測で王宮の塀より少し低いくらいだろうか。しかし、窓はそれほどまでに多くなく、押し入れの欄間サイズの窓が2つほど壁の高い位置についているのみであった。

 さてこの扉を開ければ中で何かしらの戦闘術の訓練が行われているに違いない。入隊が面倒だとはいえ異世界の戦闘技術というのはどういったものがあるのか気にはなる。

 新しいものに出会える期待に胸を膨らませ扉を開けた。

 その瞬間中から外へと一気に向けて、熱を帯びた風が吹いた。サウナなどで行われている熱波に近いものだろうか。思考を停止してしまうに十分すぎるほどの熱が中から外へと一気に駆け抜けたのだった。

「リニアさん、この熱気って。」

「はい、この訓練場は熱が籠りやすい造りになっているためこの出入り口の扉をしめ切ってしまうと、中は灼熱地獄と化します。」

なんなんだそれは。そういったことはできれば早く伝えてほしかったものである。だが後悔しても時すでに遅しで、この蒸し風呂の中に入らざるを得なくなった。

「やっぱり、訓練の様子は別日にってことでも大丈夫じゃないですかね。」

「ダメです。私たちには時間がないのです。さぁはやく中へ。」

心なしかリニアさんはすごくノリノリに見える。

 実際中に入って扉を閉めてみると外で感じた熱気よりも熱く感じた。その原因は一目瞭然である。空気の入れ替えのままならない部屋で数十人の筋骨隆々の男たちが激しい訓練を行っているのだ。その男たちから発せられる熱が部屋の中を覆いつくしている。

 さらに追い打ちをかけるのは、部屋の四隅から等間隔に置かれている松明である。もともと夜間の訓練の際に用いられるものなのだろうが、こんな明るい日中に炎がつけられて煌々と本来薄暗くあるべきはずの部屋の隅を照らしていた。

 窓は壁の高い位置についているので特段絶対に必要というわけでもないが、なぜかつけられていた。そんな環境下でついている理由は一つしか考えらえない。いや、一つとして考えたくなかった。

「リニアさん、なぜこんなにもこの部屋は暑いんですか?」

「それは戦士たるものいついかなる環境にも耐えうるだけの強い肉体と精神を手に入れるための物です。」

なぜだろう、リニアさんの目が輝いているように見える。

「さぁ、勇者殿。私たちもこの訓練に参加しましょう。」

この瞬間、途轍もない後悔が自分を襲った。

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