第3話 ニート、仲間ができる
クロスとジャンの2人は街まで帰ってきた。
「あの2人は、ジャンの友達だったのか?」
「いや…今朝、冒険者ギルドで知り合った。一層の探索なら適当なメンバーと行けば充分だろうと思ってな」
「冒険者ギルド?奈落に行く人を募集していたの?」
「は?おまえギルドも知らねえのか!?」
クロスはそのままジャンに案内されて冒険者ギルドに行く。中は酒場のようになっており、飲食をしている人も多い。
「あら?もう帰ったの?」
受付嬢がジャンに話しかける。
「依頼は達成できた?…あら、一緒に行った2人は?」
「すまねぇ、すぐに盗賊に襲われて2人は死んだ…大コウモリの牙も一つ足りねえ」
ジャンが受けた依頼は大コウモリの牙3つの納品だった。クロスは一つ足りない事を聞くとカバンから大コウモリの牙を取り出す。
「これ、使いなよ」
「おまえ…いいのか!?」
「もち」
ジャンは大コウモリの牙を受付嬢に渡すと、報酬として300G受け取る。
「3個で300Gだから…おまえに100Gやるよ」
ジャンは言葉遣いの割に義理堅い。受付嬢はクロスを見て話しかける。
「あなたは見ない顔だね…冒険者志望?ギルドに登録は済んだ?」
「冒険者志望?誰でもなれるんじゃ無いの?」
「ギルドの許可がないと奈落に行くのはダメなんだよ!今回は無事に帰れたみたいだから許してあげるけど、本当に危険なんだからね!」
こうしてクロスはギルドに冒険者登録をした。奈落の一層に行ったが未登録だったためレベルは0のままだ。2人は少し早めの昼食を取る。
「ギルド証、見せてくれよ」
ジャンはクロスのギルド証を見る。ギルド証には冒険者のLevelと名前や生年月日が書いてある。ギルド証には特殊な魔法がかかっており、Levelは奈落で自身の過去最高階層を進むと自動で更新される。
「なんだお前、俺より3つ歳上なのか」
ジャンはクロスよりも若かった。
「お前呼びはやめるか…なぁクロス、何で奈落を目指すんだ?」
「お金のためだよ、奈落のアイテムは価値があるみたいだし、働かなくても生きていけるだけの金を稼ぐんだ」
「はー!?そんな理由かよ…いや、まぁ確かに金目当ての冒険者は他にもいるか」
「ジャンはなんか目的あるのか?」
「あぁ、病気で死んじまった妹を生き返らせるためだ。妹はまだ18歳だった…奈落の深層には死者を蘇らせる奇跡の花が存在するらしい。俺の目的はそれだ」
ジャンの奈落探索の理由は重かった。クロスとジャン、どっちが主人公なのかわからない。2人は食事をすませ冒険者ギルドを出る。
「なぁ、クロス。7日後は仕事か?もし休みならまた一緒に奈落に行かねえか?」
「俺、仕事してないしいつでもいけるよ」
ジャンは驚く。
「は!?じゃあお前どうやって生きてんだよ?まさか金持ちの息子なのか?」
「いや、両親は物心着く前に亡くなったよ。遺産で今日まで生きてきた」
「…仕事紹介してやろうか?」
「いや、働きたくないからいいよ」
ジャンはため息をつくとクロスを蔑んだ目で見た。
「ま…まぁそれはさておき7日後の奈落探索、俺みたいな初心者でも一緒に行っていいのか?」
「すまんクロス、実は俺もまだ3回目の初心者なんだ、今朝は偉そうな事いって悪かった」
「そうなのか、気にしてないよ。俺も1人は心細いからよろしく頼む」
2人は握手を交わして解散した。クロスにとって初めての仲間ができた。
翌日、クロスは筋肉痛に苦しんだ。ニートのクロスの鈍った体にはキツすぎたようだ。クロスは体づくりしなくちゃだなと思った。午前中は両親の残していた奈落探索の書紀を読み漁る。書紀はまるで誰かに全てを伝えるかのように、2人が経験してきた奈落に関することが事細かに書かれていた。午後からは軽めのジョギングをする、体力の無さを補うためだ。クロスはこの日も早めの食事を摂るとしっかり休息を取った。
次の日も、また次の日も、書紀による奈落の勉強と体力作りを重ねた。次の探索は前回のようにはしない。生きるために奈落で生活費を稼ぎに行くのに、奈落で死んだら元も子もない。クロスは1週間しっかりと準備をした。
ジャンは1週間、仕事に励んでいた。奈落探索のためには強い装備や道具も必要であり、仕事をして資金を稼いでいる。もちろん、奈落に全額注ぎ込めるわけではなく、生活費も必要だ。
工業高校を卒業後、ジャンはすぐに働き始めた。最初の給料を貰うとすぐにアパートを借りて狭い実家を飛び出した。狭い実家では自分と祖父母と両親と妹の6人で暮らしていた。
アパートには仲の良かった妹がよくが遊びに来ていた。それ以降の給料は家賃などの生活費以外は飯と酒に消えた。当時のジャンはその日暮らしでも楽しければよかった。
しかし半年前に運命が変わる。妹が未知の病に侵されたのだ。医者もお手上げ状態で、とうとう2週間前に亡くなった。深い絶望の中にいたジャンは祖父の言葉に光を見る。
「わしが若ければ…この命に変えても奈落に奇跡の花を取りに行くのに…」
「じいちゃん、その奇跡の花ってなんだ?」
「死者を蘇らせるという、奇跡を起こせる花じゃ…」
ジャンの心に火が灯る。
「俺が…必ずマロンを蘇らせてやる」
こうしてジャンは奈落探索を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます