ニート、奈落を旅して生計を立てる

teikao

第一章 奈落初心者編

第1話 ニート、奈落を目指す

 ここはサンライズシティ。

 奈落に最も近い街であり、奈落を目指す冒険者達の集う場所である。 


 サンライズシティで暮らす25歳の青年、クロスは中学校を卒業後、高校にも進学せず一度も仕事もしていない。生粋のニートである。彼が仕事をしない理由は単純で、誰かに指示されたり叱られたりするのは嫌で、時間を拘束されることも嫌だからである。

 彼の両親は、彼がまだ幼い頃に既に他界している。冒険家だった両親はこの街の北端から3キロほど北にある奈落の探索中に亡くなったらしい。

 両親が残した家で、名のある冒険者だった両親が残した多額のお金をチマチマ使いながら過ごしてきた。しかしいよいよそのお金もいよいよ底をつく。


「アー、困ったぞ、今日の夕飯代もねぇ」


 クロスはまだどこかにお金がないか家中を調べる。両親の部屋、物置、台所、ありとあらゆるところを探す。そしてクロスは開けたこともない…というか気にしたこともない2階に続く階段の下の物置を開ける。


「うぉ!?宝箱だ!」


 そこには宝箱があった。クロスは期待して箱を開けるが、中には赤い鉱石のような何かが入っていた。


「…何だこれ?」


 何なのかよくわからないが宝箱に入っていたのだから貴重品の可能性があるだろうと思い、クロスはさっそく街の商店に売りに行く。

商店に着き、買取を希望して赤い鉱石を取りだす。すると店主は驚く。


「こりゃ紅蓮鉱石ぐれんこうせきじゃないか!こんなものどこで手に入れたんだ?」

「あぁ、なんか家にあった。買い取れる?」

「もちろんだ。2,500G(ゴールド)で買い取ろう」


 クロスは驚愕する。訳のわからない石ころが想像をはるかに超える高値で売れたからだ。ちなみに1Gで大体100円ほどの価値である。

突然、店にいた男が話かけてきた。


「君も奈落の冒険者なのか?」

「いや、違うけど…」

「やはりか、冒険者には見えなかったからな。ならば何故、紅蓮鉱石を持っていたんだ?」


 男は剣を抜く。


「お前…誰かから盗んだのか?」

「は!?違うよ、死んだ両親が残したものだって!!」

「ならば貴様の両親の名前を言え」

「じ…ジーク=ユグフォルティスとグロリア=ユグフォルティスです」


 男は名前を聞くと剣をしまった。


「あの2人の息子だったか…ならば納得だ、すまなかった」


 男はそういって去っていった。クロスは男の発言から、あの鉱石は奈落で取れると判断した。2,500Gは大金だが、いずれ無くなる。あの鉱石を何個も集めて死ぬまで食えるだけのお金を稼ごうと考えた。

 家に戻ると奈落の探検家だった両親の残した装備を探す。しかし最強装備は最後の探索につけていっていたためそこにはない。あったのは折れて使い物にならない剣と小さなカバンだけだった。2,500Gで装備や食料を揃える。


「これは先行投資だ、使った以上タダでは帰らんぞ」


 明日の奈落探索に向けて、クロスはしっかり夕飯を食べて早めに眠りについた。


翌朝

 約2,000Gで揃えた装備を身につけてさっそく奈落を目指す。しかしこれが奈落に行くにはあまりにも安く、心許ない装備だと言う事はクロスは知る由もない。


 …………

クロス Level 0

武器…青銅の剣

盾……木製の盾

頭……なし

胴……革の鎧

腕……革の手袋

脚……布のズボン

装飾…なし

パン×3

水ボトル×3

 …………


 Levelとは冒険者ギルドが定めており、奈落の最高到達層数を表す熟練度の事である。奈落は深いほど過酷なためLevel=強さと言っても間違いではない。強い人に連れて行ってもらっただけならば強さとは言えないが…

 ともあれこうしてクロスの冒険ははじまった。


 数多の冒険者が目指す奈落には何が待っているのか。

 莫大な富を得られる秘宝か?

 亡き者を蘇らせる奇跡の花か?

 どんな病もたちまち治る薬か?

 不老不死の秘薬か?

 この世の物とは思えぬほどの美食か?

 全てを支配できる最強の武器か?

 全てを破壊する悪魔の秘術か?


とある青年は妹を蘇らせるため…

「待ってろよマロン、俺が必ず蘇らせてやるから」

 冒険者ギルドで出会ったばかりの名も知らぬ仲間と奈落に挑む。



とある女性は村を救うため…

「あたすがこの村を救うんだ」

 謎の病と戦う村の皆んなのために、奈落を目指して村を出る。


とある新米騎士は誰からも認められるために…

「誰もなし得ていない王の依頼、この俺がこなしてみせる」

 国王が求める、存在するのかもわからない不老不死の秘薬を手に入れるために奈落へ挑む。


とある薬屋は材料集めに…

「タダで手に入って効き目も抜群、これからは奈落で材料集めだね」

 生計を立てるために奈落に通う。


とある狩人は珍味を求めて…

「まだ見ぬ珍味が僕を呼んでいる!」

 奈落の生物を狩りに行く。


 未だ最奥には何があるのか誰も知らない。噂が噂を呼び、夢想者達は奈落に向かう。死と隣り合わせの奈落に向かうのは夢のためなのか、奈落に魅入られたから…

 これはそんな絶望と希望の奈落に挑む者達の物語。

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