26 関 ――スタンプされた指紋――
取調室から、一礼して関が出て行く。
「…これで、間違いはありませんか?」
「はい、全部です」
「本当に他にはありませんね?」
「ありません」
眸を閉じて頷く関に、調書を記録していた係官と、聴取担当の監察官、それに一課の課長が、無言で関をみる。
監察官が調書を閉じる。
「わかりました。追って処分を伝えるまで、自宅謹慎してください」
無言で関が頷いて席を立ち、背を向ける。
その背に向けて、課長が声を掛ける。
「関、おまえさんな、―――――…」
声が無いまま立ち止まる関に、言い掛けてつまるのを、監察官が引き取る。
「単独行動は控えて、誰かに自宅まで送ってもらってください」
「…―――」
頷き、関が部屋を出る。
地下第一資料室。
鑑識の西が、橿原を前に、大きく引き伸ばした写真を数点並べている。
橿原が、数枚の写真を淡々とみる。
「関刑事は、凶器と断定された鉄の棒を、橿原さんの見ている前で使っています。その際に付着したと思われる指紋は採取できています。それがこちらです。ですが、これがその救助の際以前に付着したのかどうかについては、―――」
「血痕の下に指紋はありませんでしたか?」
説明する西を遮り、さらりと橿原が問うのに視線を向ける。
「いやなことを聞きますね、橿原さん」
「あったんですね?」
「…あのくそ坊主の供述を課長からきいて、もう一度調べ直してみましたよ」
いいながら、もう一枚の写真を、先にみせていた写真の下から取り出す。
それを、感情の伺えない眸で橿原が見る。
「ありましたか」
「…改めて確認しました。血液の下に、僅かですが、指紋の欠片が、――――発見されました」
写真に拡大された血痕に染まる中で蛍光処理された指紋の一部。
「関刑事の指紋と一致しました。左手の親指の指紋の一部です」
橿原が拡大された鉄の棒の表面に血痕の下に浮き上がるスタンプされた指紋を見つめる。
「関さん、橿原です」
「…―――橿原さん」
部屋の壁に背を預けて、目を閉じて座っていた関が顔を上げる。足を投げ出して座る横に、放置された上着がある。
「開けてください。君に聞きたいことがあります」
「謹慎中ですよ」
「わかっています。でも僕は部外者ですからね。中に入れていただけますか?」
「…―――どうぞ」
立ち上がり、玄関へ出て扉を開けて関がいう。
「どうも、失礼しますよ」
礼をして橿原が室内に入る。
無言で見返す関を橿原が見詰める。
「君は、本当に自分が鷹城君をあのような目にあわせたと考えているのですか?」
背を向けて、中へ入るように身振りで示しながら、関がくちを結ぶ。
「わかりませんよ。…わからないんです。…本当に記憶がないんですよ。それで、…でも、鷹城が何か、…危険な目にあったような気がして、凄く焦って、…―――でもなんでそんな考えが取り付いてたのか、…――」
橿原が来る前のように、畳の部屋に壁を背にして目を閉じて頭を壁に預ける関を見る。
ぽつり、と関がくちにする。
「わかりません」
「だから、きみは鷹城君に自分が危害を加えたのではないかと?」
「辻褄はあうでしょう?自分でも何であんな焦燥感があったのか、…――――何で、あいつの居場所がわかったのか、…橿原さんもおかしいと思うでしょう!」
額を押さえて絞り出すようにいう関に橿原がいう。
「では、関さん。僕の質問に答えてもらえますか?」
目を開けて無言で関が橿原を見る。
「おれが何をしたか、それでわかりますか?」
「さあ、…。僕は唯の医者ですからね。解ることも、解らないこともあります」
ネクタイを外しているシャツの釦をひとつ緩めて、関が橿原の視線に向き合う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます