23 鷹城 ――蘇る記憶――




緑の揺れる樹々の陰が落ちる庭に、料亭の部屋から出て葉影の落ちる踏み石を歩きながら、庭の狭間に見える薄い青空を見あげて佇んでいた。

音を立てずに仲居が膳を運ぶ姿を樹陰の向こうにみながら。

「――秀一?」

薄い汗を額にかいて、眉を寄せて僅かに首を振る鷹城に、滝岡が呼び掛ける。

樹陰の先に、廊下の古い硝子が填められた戸の向こうに、―――。

白い面の美しい黒髪の女が佇む姿を見て、息を呑んでいた。

 両手をきちんと指先を揃えて膝前に置き、楚々とした風情で立つその姿の、――――――。

 うっとりとしたように微笑を浮かべる紅い唇が。

「―――……」

冷水を浴びせ掛けられたように、記憶に焼き付いたその光景が。

「…秀一!おい!、――秀一!」

「…――にいさん、…?」

呼び掛けに目が開いて、ぼんやりとそのまま答える。

「しっかりしろ、うなされてたぞ」

「…ええと、…いやな夢をみました。…まったく、――――橿原さんに繋いでもらえます?」

額に薄い汗を掻いたまま、溜息を吐いていう鷹城に滝岡が睨む。

「どうして文章がそこに繋がるんだ」

いやそうに腕組みしていう滝岡に、鷹城がにっこりと。

「だって、なんでにいさんがここにいるかなんて、橿原さんに何かいわれたからに決まってるでしょ?」

「もう帰る処だ」

忙しいんでな、と去ろうとする滝岡に、あっさりと鷹城が手を出す。

「携帯かしてください」

見あげていう鷹城に滝岡が渋い顔になる。

「病院だぞ」

「個室だからいいでしょ?それに、僕が携帯掛けられる処まで動くのは怒られちゃうでしょうし、ね?」

にっこり笑顔で見上げる鷹城を、葛藤するように滝岡がしばし睨みつける。

 無言で、数分。

「…――ほら」

「ありがとうございます」

根負けして携帯を差出す滝岡に、にっこり、と笑んで鷹城が携帯を受け取る。

 すぐに通話を始める鷹城に、滝岡が半分背を向けて睨みつける。

「あ、橿原さん?おはようございます。お陰さまで何事もなく無事です。処で、八年前に僕が遭遇した件についてお伝えしたいことがあるんですけど」

その言葉に、滝岡が眉を寄せて訝しげに鷹城をみる。









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