9 関 ――県警本部捜査一課 2――




 動くのも忘れたようにまるでデスクを睨むようにして、無言でいる関を同僚達が心配そうにみる。

 課長の机に資料を置き、席に戻って心配そうにみていた山下が、隣の斉藤に何か話し掛けようとしたとき。

 突然、無言のまま関が立ち上がり、両手をデスクについて睨むようにしているのに。

「…――おい、関、…。気持ちは解るが、落ち着け、…――その、な?」

斉藤が宥めるように話し掛ける声が届いているのか。

 無言で、鬼のような形相で動かない関に。

 そっと、斉藤が声を掛ける。

「関、」

「先輩?どうしました?何か、」

「…―――」

無言のまま難しい顔をして何かを見据えるように睨んで。

 突然、それから廊下に視線を向けて。

無言で、そのまま一課を出ていく。

苦虫ををかみつぶしたような顔で大股に歩いていく関に、斉藤と山下が慌てて追い掛ける。

「おい、関!」

「先輩!」

廊下を足早に歩いていた関が突然立ち止まり、二人がぶつかりそうになる。

「おい、関、」

宥めるようにいう斉藤を振り向いて、関がいう。

 妙に感情の見えない視線に、斉藤が思わず息を呑む。

「斉藤さん、例の報告書の後頼みます」

「…頼むっておまえ、こっちの事件はまだ、…」

「もう証言もとれて、報告書を上げるだけでしょう。頼みます」

真剣に見返す関に斉藤が唸る。

「おまえな、頼むって、…」

「頼みます」

「…鷹城さん、危ないんでしたっけ、何とか中毒になってて、」

しまった、という風に関をみてくちを噤む山下に関が答える。

 完全に感情のみえない視線に、二人が揃ってくちを噤む。

「知ってる。今朝まで病院にいたんだ。斉藤さん」

「じゃ、その、…僕も行きますから」

「おまえは課長の用事があるだろ。それじゃ、後を頼みます」

「って、先輩!…斉藤さん!」

踵を返し歩き去っていく関を追い掛けようとした山下が斉藤に腕をつかまれていう。

「何で止めるんですか。先輩危ないでしょう。二人で動かないと、鷹城さんに危害を加えた奴は、まだ捕まっていないんですよ?―――それに、関さんは捜査には、」

斉藤さん、という山下に携帯を取り出しながら答える。

「わかってるよ、…けど、もう終わりがけでも現在進行中の山を二人も放り出したらまずいだろ!関だってわかってるから、今朝まで交替に警備の連中がつくまで病院にいたんだろ、一応、先生に連絡しとこう。――――――――――

…橿原さんですか?斉藤です」

「…―――」

山下がくちを結んで連絡を取る斉藤をみつめる。

「…はい、お願いします。先生の方から、はい、ええ、…はい。お願いします」

通話を切って斉藤が山下の腕を叩く。

「ほら、何してる、いくぞ。俺達も報告書を早く仕上げるんだ」

「…わかりました」

難しい顔で頷く山下に。

「関のバカが何を考えてるかは知らんが、先生に任せて、こっちをはやいとこ済ませちまおう」

 一度、関が去った方角を振り向いて。

山下が促す斉藤に頷き、反対側に向けて足早に歩き出す。






山懐に近い集落の一角で、家々の僅かに並ぶ辻の端に立ちながら、関が携帯を取り出し、睨むようにして見つめていた。その番号を押そうとしたとき、着信があり思わず見つめる。

「橿原さん?」

通話に出た関が思わず内容を繰り返す。

「鷹城が、意識を取り戻した?はい、いまからいきます」

通話を切り関が駆け出す。




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