第10話

常羽御厩の戦い - 将門の反撃 (続き)


筑波山の麓で、将門は良兼の軍を撃退した後、勢いに乗りその後も平家勢力を圧倒し続けた。しかし、良兼の反撃も熾烈を極め、戦況は一進一退を繰り返す。将門の軍はその巧妙な戦術と家族や弟たちの献身的な支援によって戦力を保ち続けたものの、戦いの激化とともに彼自身の心情も次第に変化していく。


戦況の変化と将門の心情


良兼の軍が退却する際、将門は思わぬ勝利を収めたが、それはあくまでも一時的なものに過ぎなかった。次第に戦は長期戦に突入し、軍の補給が厳しくなり、疲弊した兵士たちの士気も下がり始める。将門自身、戦の激化により戦略家としての冷徹さだけでなく、人間的な苦悩も深くなる。


家族や弟たちを守るために戦ってきた将門にとって、戦の真の意味が何なのか、次第に疑問を抱くようになる。彼は次第に「忠義」や「名誉」という価値観が時として破壊的な力を持つことを実感し、その矛盾に苦しむ。戦闘の合間に、将門は高望王にしばしば悩みを吐露する。


「この戦い、終わりが見えぬ。だが、止めるわけにはいかぬのか?」


高望王は静かに答える。


「将門よ、時として戦は家族を守るための手段に過ぎぬ。だが、今その手段が、どれほど多くの命を奪い、破壊をもたらしているのかを考えてみるべきだ。」


将門は一瞬黙り込み、筑波山を望みながらしばらく沈黙した。家族と共に生きることが彼の唯一の目的だったが、戦によってその目標が遠のいていくように感じていた。


良兼の反撃と平家の決意


良兼もまた、戦局の変化に冷静に対処し始める。彼の持ち前の策略家としての才能が光り、将門の動きを予測して次々と反撃を仕掛けてくる。特に、良兼は将門の家族を取り戻すため、彼の妻や子を人質として利用することを考え始める。


一方、平貞盛は戦闘の度に将門の戦術に感服し、その手腕に敬意を抱くようになっていた。彼は義理堅く、戦いにおいても常に忠義を貫こうとするが、次第に将門の強さに引かれ、その思想に共感を抱くようになる。


ある日、貞盛は良兼にこう告げる。


「将門の戦い方はただの反乱者のものではない。彼は一族を守り、家族を守るために戦っている。その姿勢に心を打たれます。私たちの敵はただの将門ではなく、彼の背後にある『正義』にあるのではないか。」


良兼はその言葉に耳を傾けつつも、冷静に返す。


「正義とは、時に勝者にしか語られぬものだ。だが、貞盛よ、戦は勝たねばならぬ。」


再び動き出す将門


将門は良兼との戦いの中で、ますます自らの信念を固めていった。彼は一族の名誉をかけて戦い抜く覚悟を決め、さらに家族を取り戻すための計画を立てる。彼はまず、京に連行された妻を救出するために、再び平家の本拠地に向けて動き出す決断を下す。


その動きに感づいた良兼は、再び将門の策略を警戒し、守備を固めるが、将門はその隙を突いて軍を分散させ、平家の防衛線を突破する。将門は、彼の得意とする奇襲戦法を駆使して、良兼の軍を混乱に陥れることに成功する。


最終決戦への序章


将門の反攻はついに京にまで及ぶ。しかし、その道のりは決して順調ではなかった。戦闘の中で何度も窮地に立たされ、家族や部下を守るために命をかけて戦わなければならなかった。


その中で、将門はついに平家との決戦に挑む決意を固める。平貞盛もまた、その覚悟を見て、ついに将門に従うことを決意する。


「私の命、将門に捧げます。」と、貞盛は静かに言った。


将門は彼を見つめ、深く頷いた。


「お前の忠義を無駄にしない。共に、最後まで戦い抜こう。」


そして、将門は家族と弟たちを取り戻すため、そして自らの信念を貫くために、最終決戦へと向かうのだった。


次回、決戦の地へ――。


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