第1話

人に優しく、自分は強く。


それを信じて生きてきた。


困っている人には積極的に手を差し出して、


常に笑って、誰かのそばに居ようとした。


さいとうサンのことを気にしていたのも、


最初は同情に近い感覚だったのかもしれない。


大学に入学してから、彼女の良い噂は聞いたことがない。


男を取っかえ引っ変えしてるだとか、


誘われたら、誰でもいいとか、


そんなのばっかりで、


彼女のことを、嫌悪感と一緒に見ていた。


しばらく観察していると、彼女の些細な行動が、目についた。


誰かに感謝される訳でもないのに、


彼女はまるで空気のように、


当たり前に周りに都合の良いように動いていることに気づいた。


人に優しく、自分は強く。


彼女を見ているとその言葉を思い出すようになった。


みんなが気にしないで歩いている道も、


彼女は、桜の花びらを踏まないように、ゆっくり歩いていた。


儚くて、美しい、女の子だと思った。

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