第31話 君の夢に俺はいない③~氷室和~

 ニコが泣いた日以降、学校ですれ違う小川の傍にニコはいなかった。ただ食堂でボッチ飯しているニコがオタ友達と一緒に食べる小川のことをどこか恨めし気に見ていたのが印象に残った。そんなある日。俺は自室にてベースのピック弾きを練習していた。


「辛いぃ!ギタリストみたいで辛い!でもでもぉ!うおおおおおお!!」


 ピックでベースを弾くのは俺にとっては苦痛だ。まるでギターを弾いているような気持ちになる。それが俺には耐えがたいのだ。


「アタック感!アタック感!アタック感!ドライブ!ドライブ!ドライブ!」


 ただただひたすら無心で俺はベースを弾き続ける。そんな時に玄武さんから電話がかかってきた。


「なんすかー?今俺すごく苦しいベースプレイ中なんですけどぉ?」


『楽器は楽しく弾きなよ。時々ほんと君は意味不明なことやるよね。それはまあいいけど。ちょっとお願いがあってね』


「珍しいっすね。なんですか?」


『あのライブの二次会。ステージでアイドル曲を歌ってた君の四連荘ズちゃんなんだけどさ。僕らのミュージックビデオに出てくれるように頼んでくれないかな?』


 なんか変なお願いだな。でも玄武さん本気っぽい。


「彼女は声優さんですよ。映像の仕事はなしなんじゃないかな?」


『うん。実はレイジ君に電話する前に彼女の事務所にお願いしたんだけど、ガチの映像系作品への出演はNGだって断られちゃってね。だからレイジ君に頼んでる。だから彼女に枕してMVの仕事取ってきてよ(笑)』


「はは(笑)。うちのバンドがすげぇブラック企業みたいなこと言ってるぅ」


 でもこういうときの玄武さんがちなんだよなぁ。映像クリエイターとしても一流な分、こだわりも半端ないので自分のやりたいことはとことんどんなことをしてでも通そうとするのだ。


「まあ。とりあえず頼んでみますけど、機体はしないでくださいね」


『やったぜ。じゃあ枕頑張って。大丈夫大丈夫。エッチしているときに頼み事して断る女の子は基本いないから(笑)』


「わぁーい。くずぅ(笑)」


 本当にクズ発言だと思うが、割とまちがってないのが癪である。玄武さんとの電話を切って、俺はニコに電話する。


『もし。もし』


「おれ。おれ。今会える?ていうか新宿来てよ。ホテル行こうぜ」


『くず?体。目当て?』


 たしかに我ながらクズなお誘いだと思う。もう夜も九時を過ぎているのだ。もはや体目当てのクズやろうそのものである。


『じゃあ。今から行く』


「ニコ。俺が言うのもなんだけど、こういうお誘いは断ってもいいと思うよ。わりとマジで」


『でも…。私。寂しい…』


 電話口から聞こえるニコの声は涙に滲んでいた。演技ではないと直感した。本当に彼女は悲しんで泣いている。


「今どこにいるの?」


 俺の口からそんな言葉が素直に出てきた。


『お家だけど』


「すぐ行く」


「え…でも…隣。アオト。住んでる」


「いいから。今行く」


 俺はすぐに部屋を出て、マンションの駐車場に行く。そして父親から貰った車に乗り込み、すぐにニコの家の住所をナビに打ち込んで発進した。




 立川についてニコの家の近くの駐車場に車を停めて、俺はニコの家に向かった。一応帽子を深く被っておいた。


「え?こわ?!まじでお隣に住んでんのかよ?!」


 ニコの家に着いたとき、隣の家の窓に小川の姿が見えた。虚ろな顔でヘッドホンを被りゲームをしているようにようだ。さてここからが問題だ。俺はニコに電話をかける。


「もしもし今お前んちの前にいるんだけど」


『え?ほんとに。きたの?!』


 窓の一つからニコが顔を出す。俺はそのニコに向かって手を振った。ニコはすぐに顔を引っ込めて、家の外に出てきた。手には大きめのビニール袋を持っている。


「これに靴いれて!」


 言われたとおりに履いていた靴を入れると、ニコに手を引っ張られて家の中に連れ込まれる。そして忍び足で二人で二階に登り、家族に気づかれぬようにニコの部屋に辿り着いた。


「いや。心臓すげぇバクバクした。ははは。まるで泥棒みたいだな」


「…ばか!…ばかぁ!!」


 ニコは俺の胸を叩いてくる。ボロボロと涙を流している。だから俺は彼女をそっと抱きしめる。


「あっ…」


「うんうん。泣かないで。俺は傍にいるよ。だから泣かないで」


「でもぉ!うう!うううぅええええええええええええんん!!」


 ニコは俺の胸に顔を押しつけてワンワン泣いた。俺はただただ頭と背中を撫でた。暫くしてニコは落ち着いた。俺たちは壁に背中を預けて互いに抱きしめ合いながら座る。


「いつもアオトと一緒にいるのが当たり前だった」


 訥々とニコは語りだす。どこか寂し気な声で。


「でもそれはいつか終わるってわかってた。終わらせたくないから頑張ったのに。彼は言葉にすることさえも怖がった」


 どんな関係もいつかは終わりが来る。それはよくわかる。俺もかつて絶対に終わらないはずだと思っていた関係が突然終わってしまった側の人間だ。彼女の寂しさはわかる。


「だけど。終わり方くらい、綺麗な方が良いようぅ」


 ニコはきっととても頑張っていたんだと思う。声優の夢を叶え、それに幼馴染との関係も何年も守り続けて、それがとうとう弾けてしまった。きっかけは多分、いや、俺のせいだとは思う。だけどあの時の小川の怒りは正直に言って俺には気味の悪いものに思えた。そんな時にニコのスマホがブルブル音を立てた。ニコは画面に表示される『アオト』の文字を見て、浮かない顔をした。俺のことを見て、取ってもいいかを伺っている。俺は頷いた。ニコはスピーカーで電話に出た。


『あの。ニコ?大丈夫?』


「私は大丈夫」


 そう言いながらニコは立ち上がってベットの方へと歩いていく。


『でも今泣いていたよね?僕の部屋まで聞こえてきたよ』


「そう。うるさくて。ごめん」


 ニコはベットの上で服を脱ぎ始める。部屋着の上下を脱いで、下着姿になった。


『いや!そんな!あやまらなくていいよ!僕はただ心配で!』


「いいの。別に。全部。私のせいだから」


 俺もベットの上に上がる。来ていたシャツとズボンを脱いで、俺も下着だけになる。ちなみにボクサー派です。


『そんなことないよ!あのときは僕が悪かった!あんなこと言って本当にごめん』


「もういいの。アオトは悪くない」


 ニコは俺を見詰めながら両手を広げる。俺は彼女に覆いかぶさる。ニコは両手を俺の背中に回した。


『僕たち、仲直りできるよね?』


 俺の手がニコの体を愛撫する。


「いいよ」


 ニコはどこか甘い声でそう言った。


『よかった。うれしいよ』


 ベットが軋みだす。ニコは声を上げない。だけど妖艶な笑みを浮かべている。


『あのさ。いつもみたいに顔見せてくれない?』


 そういうとニコは顔だけカーテンの下から外へと出した。


『よかった。顔色は良さそうだね。でもなんか揺れてない?』


「気のせい。じゃあまたね」


 ニコはすっと顔を戻す。そして小川との通話は切れてしまった。


「ねぇ?私。なんでもない演技。ちゃんとできてた?」


 ニコは俺の腕の中でそう言った。


「ああ。お前は怖いくらい女優だったよ」


「ふふふ。ねぇ。もっと激しくして!壊れてもいいから!」


 そしてベットの揺れはもっと大きくなっていく。何かが彼女の中で壊れた。俺はそんな気がしてならなかったのだ。







 事が終わってニコとぼーっと一緒に横になっていた時に、玄武さんのお願いを思い出した。


「あのさ。ニコ。俺たちのバンドのミュージックビデオに出てくれ」


 ニコは首を傾げていた?


「私は声優」


「いいから出ろよ。俺の演奏の中で演技するお前がすごく見たいんだ」


 俺がそう言うとニコはニコニコと笑みを浮かべて俺に跨り、キスをしてくる。


「いいよ。出てあげる。じゃあその代わり。挿入れるね」


 そして二回戦が始まった。おーいえす!にこちゃん!にこちゃん!にこにこかうがーる!おーいえい!あいむかみんぐ…!








 朝になり小川が玄関までニコを迎えに来た。ニコのお母さんがニコの部屋までやってきてそれを知らせに来た。俺はベットの下に隠れてやりすごした。ニコは風邪だと言い、小川と一緒に学校へ行くことを断った。そしてご両親とニコの姉と妹がそれぞれ出かけたあと、俺たちは一緒に風呂に入り、また部屋に戻ってセックスしまくった。昼飯はニコが裸エプロンで作ってくれた。美味しかった。そしてまたエッチしてご家族が返ってくる前に俺はニコの家を後にしたのだった。なお駐車料金がバカ高くてちょっと凹んだのはニコには内緒である。


 





---作者のひとり言---


これは一度はやってみたいBSSですよね!

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