僕が先に好きだったのに。第1章『氷室さんだってニコニコしたい!』
第23話 君の夢に俺はいない①~氷室和~
朝になって俺たちはホテルを出た。そしてお腹が減っていたので、自然と牛丼屋さんに入った。俺たちはカウンター席に座った。
「はい。あーん!」
「あーん!うまーい!」
「うふふ。よかったぁ!」
「じゃあ。俺もあーん」
「あーん。やだ。はずかしいわ。でも美味しい。ふふふ」
俺たちがその声の聞こえる方へ目を向けると、そこにはオシャボ君とミカさんがいた。テーブル席なのに、隣り合って座って、お互いに牛丼を食べさせ合っている。敢えて声はかけない。二人の世界を邪魔する気はない。だけどその風景に俺たちは圧倒されていた。四連荘ズは羨ましそうに見ていたし、俺だってそうだ。
「私たち。あーんも。堂々と。できないんだね」
ニコの呟きがとても痛く感じる。俺たちの人間関係はしっちゃかめっちゃくちゃだ。お外で堂々とイチャイチャなんてできない。俺たちは所詮は日陰のハーレムである。というか各々の妥協と協力でハーレムが誕生するとかほんと意味不明…。そして俺たちは牛丼を黙々と食べて、いちゃつくオシャボ君とミカさんを放ってお外に出て、それぞれ家へと帰っていったのだった。
こうして謎のハーレム生活は幕を開けた。だが外へとオープンにはできない。というかそもそもハーレムをオープンにできるわけもないのだが。
「はぁ。恋愛してみたいなぁ」
「おまえがそれを言うか。いや言うしかないよな」
俺とオシャボ君は学食で一緒に飯を食っている。オシャボ君はミカさんと順調に付き合っているらしい。フットサル、サーフィン、スノボ、スキーなどの行動的でアクティブな趣味人のオシャボ君と、イラストレーターやってる芸大生のミカさんのカップルは案外相性が良かったらしい。お互いがお互いの欠けている部分を補い合うような理想的なカップルをやっているようだ。
「やっぱり愛のあるセックスって気持ちいいの?」
「まあそりゃ気持ちいいよ。て言ってもお互い他の人知らないから何とも言えんけど、セックスに不満はないかな」
タエコ経由でミカさんにも意見は聞いているけど、向こうもセックスには不満はないそうだ。
「俺もお前らみたいになりたいよ」
「お、おう。でもお前がいなきゃ俺とミカは出会えなかったし、レイジならそのうち問題を解決してちゃんと恋愛できるよ」
「うん。そうだと信じるよ…」
「俺も協力するからさ」
オシャボ君いいやつやー。俺からオシャボ君を奪ったミカさんが許せねぇ!二人とも幸せになっちゃえばいいのに!
「あ、いたいた!お二人さん!」
ナイーブな俺と幸せ満点なオシャボ君のもとに小川がやってきた。
「なんかよう?」
「あれ?なんか機嫌悪い?」
「別にぃ…」
機嫌なら悪い。ニコを抱いてもアオトの顔がちらつくのだ。おかげで最近の俺は遅漏気味である。
「ニコのデビュー作がこの間放映されたんだ。これからみんなでその録画を見るけど来る?」
ニコはとうとう声優としてデビューしたらしい。彼女の声ってぼそぼそ声と喘ぎ声しか聞いたことないけど、演技とかちゃんとできるのかな?
「いいよ。見てみたい」
「だな。顔見知りがアニメに出てるとか面白そう」
俺はローテンションだけど、オシャボ君は純粋に楽しそうだ。いいんだ。俺はオシャボ君さえ楽しければ。それでいい。そして学食の外れのオタコーナーに俺たちは向かった。そこに置かれているモニターにDVDプレイヤーがついている。いまさらだけど大学当局はこの好き勝手やってる状態になんか文句とか言わないんだろうか?まあどうでもいいけど。
「じゃあニコのデビュー作の上映会始めまーす!皆さん拍手!」
小川が場を仕切っていた。陰キャっぽいけど仕切りはなんだかんだとうまいよな。気遣い上手というか。オタ仲間にも慕われてるみたいだし。そして小川はその場にいたニコの隣に座った。ニコはオタクたちに囲まれている。俺は壁に背を預けて後方彼氏面してみる。なお俺以外にもそう言うオタたちはいっぱいいた。ニコはみんなの人気者だなぁ(震え声)。
『わたくしは所詮ただのお嬢様。この籠の外には出られないのです』
画面の中の悪役令嬢っぽいキャラからニコの声が響く。演技には違和感は感じなかった。キャラの心情の細かな部分までもきちんと表現している。とても上手だし魅力的な声だ。
「むほぉ!この美声!かわいいでござる!」「萌えボイスに少女漫画的な凛とした伸びのある声あっぱれでおじゃる」「ちんいらするで候」「これ絶対に膜から声出てるよ…清らかさに脳がポカポカするぅ」
よくわからんが俺以外の連中もニコの演技にハマっているようだ。ところで膜って何?横隔膜?
『灰燼鏖殺!すべてはわたくしが無に帰する!すべての因果も宿縁も恩義も!もはやすべてに意義はない!!撃てぇエエエエエェエエエエェェェェ!」
どんな展開なのかわからんけどニコの演じる悪役令嬢さんが闇落ちした。それでもニコはその複雑そうな役柄を見事に演じ切ってみせた。その声は蠱惑的な響きと静かな憎しみと怒りを繊細に表現している。そしてアニメは終わった。そして拍手が響く。ニコはその中で照れ臭そうに笑っていた。
「ニコ本当にすごかったよ!これで夢を叶えたね!おめでとう!」
「ありがとう。でも。まだまだ。これからも。精進」
そう。ニコの声優になるという夢はここで叶った。だけどそれはまだ終わらない夢だ。終わっていないのだ。小川は声優になったニコに手を出せるのだろうか?手を出して来た時、ニコは一体どうするのだろうか?俺の心の中は少し乱れてぐちゃぐちゃしていた。そしてお昼休みの上映会は解散となった。そして各々の学科の授業や実習へと向かう。俺もまたその流れに乗って学食を出ていく。だけど途中で足を止める。次の授業はたしかニコと同じ一般教養科目だったはず。俺は教室の前で待っていた。そしてニコがやってきた。小川は隣にいない。ああ。運の悪いやつだ。その上もう授業直前だから廊下に人気はない。だけど俺は今自分の運に感謝する。
「ニコ。さっきの演技よかったよ」
「あ。ありがとう。嬉しい」
ニコは満面の笑みを浮かべる。だから俺はその頬を両手で抑えてキスをする。
「…だめ。こんなところは。だめ。だよ…」
駄目というニコだけど、俺の手を振り払ったりしないし、目を反らしたりもしない。俺はそのままニコの手を引っ張って空き教室へと引きづりこむ。
「あ…だめ。ん。あっ。はぁはぁ。んん!」
俺はニコを服の上から愛撫する。そしてそのまま机の上にニコを押し倒した。
「…ここじゃ。バレちゃう…。いいの?」
「バレればいいよ。バレちゃえばいいんだ」
俺はそう言いながら、ニコを抱く。バレたい。バラしたい。見つかりたい。見つかっちゃいけない。見つけて欲しい。
でもニコの夢の中に俺はいないんだ。
だからこそ誰からも祝福される。
そんな愛が。
俺は欲しいんだ。
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NEXT CHAPTER
『氷室さんだってニコニコしたい!』
乞うご期待。
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---作者のあとがき---
ニコちゃんが夢を叶えるのに、一切の貢献を行っていないレイジ君。
ニコちゃんの夢を叶えるために、必死に頑張ったアオト君。
人に歴史あり。でもそこにレイジ君はいなかった。
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