第14話 俺が先にセックスしたのに…その4

 この間オシャボ君たちが仕上げたレポートは評価Sを獲得したらしい。


「よし!打ち上げしようぜ打ち上げ!」


 俺はこれを口実にララミを呼び出そうとした。だけど飲み会に来たのは俺とオシャボ君ともう一人の男子だけ。


「女子いない飲み会か。まあ野郎だけで楽しもうぜ!」


 オシャボ君は楽しそうにしていたけど、俺は内心がっくり来ていた。ララミは俺を間違いなく避けている。酷い。あんまりだ。とりあえず一件目の居酒屋で俺たちは適当に駄弁っていた。


「あの先輩。なんか元気ないんですか?」


「先輩って言わなくていいよ別に。確かに同じ高校の先輩後輩だけど。大学じゃ同期だし。ていうか俺たちよくもあのド底辺高校からよく帝都大学に来れたよね」


「ド底辺?なに?どんな高校なの?」


 オシャボ君が興味津々に効いてくる。


「県内公立で一番偏差値が低いところ。マジでやばい。ほんと終わってる」


「はは…それは流石に言い過ぎなんじゃないですかねぇ」


 芳賀は俺に敬語で話しかける。まあ注意してもすぐに治るもんでもないだろう。放っておこう。


「言いすぎなもんかよ。授業さぼって校庭の隅とかトイレとか階段の踊り場とか屋上とか部室でセックスしている馬鹿どもばかりのクズ高校よ」


「まじで?!え?やばぁ」


 オシャボ君がドン引きしてる。学校なんて無料ラブホだと勘違いしてるような連中だらけだった。俺でもさすがにそんなところではヤらなかったよ。


「え?!そんなことあったんですか?!」


「え?芳賀きづいてなかったの?」


「僕はクラスで目立たない方だったし、勉強漬けだったからかもしれません」


「ふーん。まあ知らなくて良かったんじゃない。あの学校で何回か他人のセックス見ちゃったことあったけど、なんというかエグイからね他人の絡んでるところって。あれほんと気持ち悪かった。ブス同士が豚のように呻いているのを見ると蹴り飛ばしてやりたくなったよ。ほんと」


 あれを見た後にAVとか見ると、セックスを見世物にするのってすごい技術がいるんだなってわかるようになる。それくらい他人のセックスはえぐいのだ。


「はは。しかし話題が酷いな。芳賀は誰か好きな人とかいるの?」


 オシャボ君は女子並みに恋愛トークが好きだな。


「え?あはは。その。いますけど…僕なんかが好きになっていい人じゃないんで…ほら。僕みたいな陰キャに好かれてると知られると女子同士でいじめになるじゃないですか…」


「まあ名前は出さなくてもいいよ。どんな人?」


「すごく頑張り屋さんなんです。可愛くてみんなに好かれてるんですけど、本当はすごく不器用で要領が悪くて、でも自分でちゃんと頑張ろうとするところが素敵なんです」


「頑張り屋さんか。女の子ってそう言うのを表に出さないからなぁ。でもそう言うみせてるってことは芳賀はワンチャンどころかいけるんじゃねぇの?」


「どうかなぁ?他の人よりは仲がいいとは思うけど、友達の期間が長すぎて…その恋愛みたいな空気にならないっていうか…」


「ああ。それは大変そうだな。まずは男だって意識させないと。レイジならそう言うときどうする?」


 いきなり話を振られて、ちょっと考え込んでしまった。俺には女友達なんて言う存在はいなかった。


「うーん。意識させるも何も男は男じゃないの?」


「いやいや。俺とか経験あるけど、友達としか見られないってフラれることとかよくあるぞ」


「え?それって単純に好みじゃないってことじゃないの?遠回しにナシって言ってるだけでは?」


「え…マジか…」


「女友達いないからわかんないけど、個人的にはキスできればラブホは余裕で行けるじゃん」


「同意を求められても困るんだが。俺も芳賀も経験ないんだけど」


「うーん。じゃあ言い方変えるとね。友達ってカテゴリーに入ったらアウトなんじゃない?とは思ってる。だから出会った瞬間に俺はこいつとはセックスできると判断したら、基本的にはその日のうちに必ずラブホに持っていくようにしてる。その日が駄目でも一週間以内にはヤる」


「お前本当にクズだな?!なんでそんなに女好きなの?!逆に尊敬するよ!」


「いや。女が好きっていうか。セックスが好きなだけかもしれない。やってるうちは楽しいし、いろいろイヤなことも忘れられるしね」


「お、おう。なんだろう。俺らとはセックス観がちがうってことはわかったよ」


 そこら辺が俺の駄目なところなんだとは思うし、仲間たちが心配しているところだとは思う。あいつらも女にだらしないクズだけど、女たちを良くも悪くも愛してはいると思う。俺はどうだろう。フラれて悔しいまではあるけど、愛はよくわからない。


「まあ俺はここの事情はよくわからないけど、傍にいられるならまだチャンスはあるんじゃない?でもたぶん今の状態で恋愛状態に持っていくのは芳賀の方がちょっと引っ込み思案で難しい感じがする」


「やっぱりそうですか…無理ですかねぇ…」


「それって女慣れしてないのが原因じゃん?慣れればいいだけでしょ。よっし!なんかいいこと思いついた!」


 俺は立ち上がり、店員を呼びお会計をする。


「二件目はキャバ行こうぜキャバ!」


「「きゃ、キャバクラ?!」」


「そうそう。よく仲間にキャバクラに連れててもらうけど、あれは女慣れするのにちょうどいいと思うよ。まあ安心しろ!今日は俺がおごってやる!」


 そして俺たちは街に繰り出す。キャバクラに行くならキャッチの兄さんではなく、相談所を使おう。それならぼったくられる心配はないので。


「どんなコンセプトがいいですか?」


「エロい格好だけどおさわりなしのところがいいです」


 俺は相談所の兄さんと行くキャバクラを相談する。


「レイジめっちゃ手慣れてる…?!」


「僕なんか心臓がすごくドキドキしてきたんだけど!」


 そして行く店が決まった。キャミソールで接客してくれるお店だ。一人にちゃんと一人の女の子がついてくれる店だ。


「てか奢ってくれるっていうけど、財布大丈夫か?俺これでも実家太いから金出そうか?」


 オシャボ君が俺の財布事情を心配してきてくれた。やっぱりこうナイスガイだな。オシャボ君。いい奴好きでスコ。


「大丈夫大丈夫。俺ベースを弾いてみた系の動画でけっこう稼いでるから」


「まさかのユーチューバーだった?!今度チャンネル教えてくれよ」


「いいけど覆面だから俺だってわかんないよ」


 そんな雑談をしながら目的のお店についた。そして俺は堂々と狭い階段を上っていき、二人を呼びよせる。


「紹介有りまーす。ぼったくんないでねー」


「ではどうぞ奥の方へ」


 俺たちは奥の個室へと案内された。そして座る。芳賀はビビってるのかオシャボ君の隣にぴったりくっついている。


「おまえらはなれろはなれろ!女の子はお前らの隣に入るように注文してんだよ!ほらスペース作って作って!」


「でも…」


 芳賀くんビビってるぅ!逆にオシャボ君はにやにやとしながら楽しみに待っている。これが卒業できそうな童貞と卒業できなさそうな童貞の違いか…。勉強になるなぁ。


「でももくそもない!いいか!ここで女の子の体の柔らかさに慣れるんだ!そうすれば好きな人を本気のデートに誘うときに勇気が出るようになる!」


 そして女の子たちがやってきた。キャミソールでエロ可愛いこたちばかり。奮発して五人来てくれるように頼んだ。俺に一人、オシャボ君と芳賀の両脇に一人ずつ座ってもらった。そしてとりあえずビールが並ぶ。俺は立ち上がり、乾杯の音頭を取る。


「俺たちはいまそれぞれが恋愛における重要な局面に来ております!だけど俺たちは決して負けない!勝利を希望して!かんぱーい!」


「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」


 キャバクラでの二次会が始まった。俺は隣の女の子相手にベースがいかに優れた楽器であり、ギターがくそな楽器なのかを語った。


「そうなの?でも私の前の彼氏ギタリストだったよ」


「そうなの?それは別れて正解だよ!」


 個人的なギターへの嫉妬話は楽しかった。それはまあともかく、オシャボ君たちの方を伺う。


「でさぁ服は買ったんよ。でもデートコースがさぁ。どうすればいいかなぁって?」


「あそこいいよ。横浜のタワーの上の展望台。あそこってカップルシートあるの。それ予約したらどうかな?」


「ああいいよねあそこ。私あそこで初めてのキスした!」


「まじで?!帰ったらすぐ予約する!」


 なんかオシャボ君はけっこう有益なアドバイスを受けていた。うん?キャバってそういう場所だっけ?俺のようにギターへの文句を言う場所では?まあでもなんかオシャボ君のプラスになったっぽいので。


「あの三人のところにシャンパン入れてあげて」


「ありがとうございます!」


 俺は店員さんにオシャボ君たちのところへシャンパンを入れるようにお願いした。キャバ嬢とかの報酬はドリンクのバックなので俺のささやかなお礼である。


「えー私もシャンパン飲みたーい」


「ギタリストと付き合うような女はテキーラでも飲んでろ。つーかなんでなんでみんなギターなんだよ!ギターばっかりチヤホヤしやがって!くそ!」


 個人的にライブの打ち上げでの飲み会でバンギャに、ギター上手でしたね!って褒められた時が一番腹立つ。いや俺ベースなんですけど…。ていうあの気まずい空気感。涙がでそうだ。ところで芳賀はどうなってるかな?


「あの。ぼくはその。ていうかパンツ見えてませんか?」


「キャーパンツ見えてるだけでおどおどしてる」


「なんか可愛いね逆に」


 芳賀はキャバ嬢に弄られてた。だめだよ!逆に弄り返すくらいがちょうどいいんだよ!


「芳賀。元パイセンとしては女の子を積極的に弄り倒すような積極性が欲しいんだけど」


「でもそんなの失礼じゃ」


「でも俺は楽しいからなぁ。失礼?なにそれ?どうでもよくない?」


「レイジ君おにちくー」


 俺の隣の嬢がツッコミ入れながら俺のグラスにビールを注いでくれた。


「でもいじるとか僕には無理ですよ…」


「まあいじるいじらないはともかく会話をリードするくらいの男気は欲しいよね」


「「「たしかにねー」」」


 俺の嬢と芳賀についた嬢たちが俺の発言に同調してきた。


「なんか男の子が静かだとどうしていいかわかんなくて不安かなぁ」


「うんそれわかるー相手何考えてんのかわかんなくてこわいよね」


「優しいのはいいけど静かなのはいやかなぁ」


 女子たちの忌憚のない意見が芳賀に刺さる。


「なあ芳賀。お前もしかしてずっと好きな女の子にリードされまくってる?」


「そうですね。はい。話題とかはあっちが出してくれることとかが多いです。どこかへ行くときも彼女から言ってきますね」


「「「それは絶対なしでしょ!相手の子かわいそう!」」」


 嬢たちがガチのマジなトーンでそう言ってきた。


「女の子はリードを待ってるんだよ!自分から行かなきゃだめだよ!」


「そうそう!話題なんてアレだよ。何でもいいんだって!でも男の子から話してくれるのがいいの!」


「だよね!行くところだっていちいち聞かれるよりも、ここに行くからって決めてくれる方がずっといいよ!」


 女子たちの意見が再び芳賀に刺さる。


「でもどこへ連れて行ったら喜んでくれるんでしょう?」


「それがわからないってことは普段の彼女の様子をちゃんと見てないってことじゃないの?」


 キャバ嬢がクリティカルな言葉の矢を芳賀に放った。


「うう。そう言われれば僕は彼女の積極性にずっと甘えてたんでしょうね。情けなくなってきた…」


 キャバに来てキャバ嬢に説教されて凹むとか可哀そう。助け船だそう。


「まあまあ。どこ行っていいのかわかんないならこれやるよ」


 俺は芳賀に二枚のチケットを渡す。


「俺のバンドのライブのチケット。近いうちにやるから来てくれよ。これがあれば行くとこに迷わずに相手を誘えるんじゃない?」


「先輩…!僕のためにこんなにいいものをくれるんですか?!」


「おまえたちがうまくいくことを願ってるよ!めっちゃライブ盛り上げるからさ!彼女のテンションもきっとめっちゃあがるはず!それで二人で盛り上がって恋愛モードに突入するんだよ!がんばれ!」


「はい!僕がんばります!」


 芳賀は俺の渡したチケットを大事そうに握る。頑張れ。応援している。


「よーし!景気づけにシャンパンいれちゃうぞー!すみませーん店員さーん!」


 そして俺たちは終電までキャバクラを全力で愉しんだ。芳賀も後半は慣れてきたのか自分で話題を出せるようになっていたし、連れてきて良かったと思う。相手がどんな女の子かわからないけど、変わった芳賀のことを好きになってくれたら嬉しいと思ったのだ。


---作者のひとり言---

レイジ君って地雷原で踊るのが好きなのかな?

筆者はこいつホント好きだわ。悪いことやってないのにどんどんカルマが溜まっていくのホント草


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