第11話 俺が先にセックスしたのに…。略してOSS!その1

 昨日は小鳥遊は俺、香坂凪の家に帰ってこなかった。帰ってきたのは次の日の夜遅くだった。


「いくらなんでも帰ってくるのが遅いんじゃないのか?心配したんだぞ」


「そう。ごめんね。色々とごたついて大変だったの」


 叱ろうとした俺の傍を小鳥遊はすっと通り過ぎていく。いつもなら俺の小言を真剣に聞いてくれていたのに、この態度にはなにか違和感を感じた。彼女はそのまま風呂場に入ってシャワーを浴びて着替えた。いつもは無頓着に下着姿で部屋を歩き回るのに、珍しく脱衣所でちゃんとパジャマに着替えてくれていた。やっと小言が通じたと思う反面突然の変化に俺は戸惑うばかりだ。


「なあなにかあったのか?パパ活で嫌なこととか…やっぱりやめた方が」


「パパ活は関係ないわ。色々とあっただけよ」


 彼女はリビングの座布団を丸めて枕代わりにしてぼーっと横になっている。


「あのさ。今日はお前がご飯の当番なんだけど」


 俺がそう言うと、どこか不機嫌そうな目を俺に向けて、彼女はしぶしぶと立ち上がりキッチンに向かう。冷蔵庫から適当に何かを取り出して、適当なチャーハンを造ってテーブルに置いた。そして本人はまた座布団の方へと戻っていった。


「え?これだけ」


「そうだけど。何か文句あるの?」


「いや、だっていつもならおかずとかみそ汁とか色々あるじゃない」


「はぁ?あたし疲れてるんだけど。嫌なら自分で作りなさいよ」


 そう言って小鳥遊は俺に背中を向ける。やっぱり様子がおかしい。


「何があったのかはっきり言ってくれないか?」


「言ってもどうしようもないわ」


 彼女はいつも家庭問題に傷ついていて、それが原因で頑なになるときがある。今回もそう言うことなのかもしれない。


「お母さんとなんかあった?」


「…そうね。あったわ。でもあなたには関係ない」


「関係なくなんてないだろ!約束しただろ!何かあったら必ず助けるって!」


「…ああ。そういえばそうだったっけ…でも別にいいわ。そういうのもういらないから」


 俺はその言葉に激しいショックを受ける。彼女は泣いて母親が怖いと言っていたのに。


「明日、ママと会うことになったわ」


「だったら俺もついていく!一人じゃ不安だろう!?」


「大丈夫よ。もう大丈夫だから。あなたはついてこなくていいわ」


 その声には恐れも怯えもなかった。まるでコンビニに行ってくるような気軽な声だ。


「あたしはもう寝るわ。おやすみなさい」


 小鳥遊はソファーベットで毛布を被ってすぐに眠りについてしまった。そして気がついた。その寝顔は今まで見たものの中で一番安らかなものだったことに。一体何があったのか。俺がいくら頑張ってもこんな顔にはさせてやれなかったのに。俺はどこか恐ろしい薄気味悪さを感じていた。










 定例のバンド練習とミーティングの後に俺たちは居酒屋にて打ち上げをやっていた。基本こういう時はバカ話しかしない。だけど俺がいつもよりもどこか暗いことに気がついたのだろう。バンドリーダー兼ギターボーカルの上瀧じょうたき玄武げんぶが俺に話題を振ってきた。


「レイジ君どうしました?なにかありました?」


 リーダーに続いてギター霧藤むとう朱雀すざくも話題に乗ってきた。


「だな。お前なんか今日演奏にも苛立ち乗りまくりだったぞ。なにがあったん?」


 そしてドラマーの覇王院はおういん鳳凰ほうおうもまた心配そうな顔で言う。


「ボクたちには何でも話してくれ。安心しろ。笑ったりはしないからさ」


 俺はいい仲間をもった。だから話したのだ。お持ち帰り四連荘の悲劇について…。


「「「ぎゃはっはははははっはっはははは!!!」」」


「だから言うの嫌だったんだよぅ!絶対に笑うじゃん!」


 リーダーはプルプルと震えながら頑張って笑えを堪えていた。


「いや。それはまあなんというか災難だったね。ぶっ…ほ!」


 朱雀は馬鹿笑いを全く止める気配がない。


「ぎゃははははは!ひー!わらいじぬぅ!お持ち帰りできたのに蛙されてんの…ばちくそまぬけやん!ひひゃはははは!」


 鳳凰はにんまりと笑いながら。


「普通お持ち帰りしたら、焦って縋ってくるのは女の方だろう。わたしたちこれで彼女だよね?付き合うんだよね?っていってくるはずなのにな!しかも処女だぞ!処女!お前処女にヤリ捨てにされたの?!うははははは!」


 駄目だこいつらクズしかいねぇ。ここ似る三人は屑界の中でもエリートのクズたちである。


リーダーの玄武さんは普段は編曲家とMVの演出なんかを担当している映像ディレクターさんだ。仕事に誇りは持っているが、プレイヤーとしても活動するためにこのバンドを結成した。


「でも何が悪いのかねぇ?レイジ君顔は綺麗だし女の子的には彼氏としてはアリだと思うんだけど?二人はどう思う?」


 なお玄武さんは風俗嬢やホス狂いの女の子を抱いて調教してまっとうな人間に戻して、『あたしの汚い過去を消したいよう』ってなく元ビッチの姿に興奮するビッチ調教師という呪われた性癖を持っている。


「そりゃあれだろ!チンポパワァが足りなかったんだよ!レイジのちんぽがよわよわだったから、セックスに幻想を抱いていた処女の心をがっかりさせてしまってフラれたんだよ!ぎゃはは!」


 この朱雀という男もクズである。元は外資系投資銀行で荒稼ぎする金融マンだったが、ある日ギターと出会い音楽に突如目覚めてFIREした。そして独学で日本でも五本の指に入るギタリストになった。なおこのクズは妻帯者(ただし法律婚ではなくあくまで内縁関係)であり、一男一女(認知済み)の父でもある。なおこの男億単位の資産を持っており不動産運用や株式投資で今もがぽがぽ金が入っているが、奥さんの稼ぎに依存しており、実質的にはヒモ生活である。その上奥さんがNTRマゾらしく女とよろしくやっては奥さんに聞かせて泣かせるプレイに勤しんでいるクズである。


「然り。よわチンポでへこへこ腰を振ってもアヘりの涅槃には至れない。修行をやりなおせ。チンたてふせ100回からだ!ふははははぁ!!」


 この鳳凰とかいうクズはスキンヘッドにタトゥーシールをベタベタ張っている見るからにドラマーな奴であり実際にドラマーだ。こんななりでも超大物政治家の長男であり、元はエリート官僚である。だがレールの敷かれた人生に疑問を抱きある日ドラムと出会って本人曰く世俗との未練は立ちきり解脱したという。その後はドラマーとして活躍して気がついたらここのバンドのメンバーになっていたそうだ。なおこいつの性癖はかなり異常で、女の子に自分のことをドラムスティックで叩かせるのが好きらしい。とくに心優しい女の子にサディスティックなプレイを自分にさせるのが好きという。S行為をSっ気のない人に強いるMってもはやSすら生ぬるいスーパーサドだと思う。倒錯しすぎていてわけわかんない。


「チンぽ弱いとかいうのやめてくれないかなぁ!?俺のチンポは弱くないから!だからほかに原因があるんだって!」


 ちんぽ弱いとか言われたら立ち直れないよ。まあ夜から昼頃までひたすらセックスしてたし、相手も満足してそうだったからそれはないと思うのだ。原因は他にある。


「なんだっけ?確か別れ際に他の男の名前を言ったんだよね?うーん。もしかしてレイジ君が抱いた子たちって誰かと付き合ってたんじゃないの?」


 リーダーがなんかまともそうな意見を出してくれた。でもそうすると俺は知らぬ間にNTRかましていたクズってことになる。いやだ。そこの二人と同じジャンルに分類されるのは嫌だ!


「いや。でもその子たちって美人さんだったんだろ。彼氏がいるなら当然ヤってるでしょ。その線は捨ててもいいんじゃね?」


「左様。付き合っていたのではなく片思いだったのでは?その心の隙をレイジのチンポがついた。だがレイジのチンポがよわよわだったから片思いは断ち切れなかった。そういうことでは?」


「そこに戻るなぁこのはげぇ!!俺のチンポはよわくないぃ!!」


 朱雀と鳳凰はゲラゲラ笑っている。だがリーダーは何か考えごとをしているようだ。


「ならこれはいい機会なんじゃないかな?レイジ君っていままでまともに彼女いたことないよね?」


「セックスしたら彼女でいいならいっぱいいるけど?」


「その答えが返ってくるのがクズいし、正直いうけどレイジ君のことは俺たち心配しててさ。昔色々あって歪んじゃったのはわかってるけど、やっぱりまともな恋愛経験はあった方が良いと思うんだよね」


 そのリーダーの言葉にクズ二人も頷く。


「そうそう。お持ち帰りっていうのは彼女がいるときにこっそりやるから健全で楽しいんだ」


「その通り。お持ち帰りしてばったりと彼女と会ってしまって修羅場になるくらいが健康的だ」


 それは健康なのか?健全なのか?だけどそういう風には聞く。


「レイジ君はその子たちともう一度関わってみればいいんじゃない?まだ若いんだしさ。失敗はいくらしてもいいと思うよ」


「でもその子たち片思いしてるんでしょ。俺なんかいらないのでは?」


「だからこそだよ!体は奪えたんだ!今度は心を奪うんだよ!そうしたらまっとうな恋愛って言える。まあNTRかも知れないけど、相手が結婚してとか婚約中とか出ない限りはそれって別に魅力ある異性の奪い合いでは当たり前のことなんだから構わないんだよ!」


 リーダーは俺のことを真剣な眼差して見詰めている。そこには慈愛というかどこか父性のようなものを感じた。


「相手も処女だったってことは、片思い相手は鈍感なんでしょ。それで横から掻っ攫われても文句言う筋合いはないよね」


「まあそりゃそうだ」


「恋愛は早い者勝ちである」


 クズ共もそこに同調した。


「おれはレイジ君に早くボーカルをやって欲しいんだ。でも素面の時ってレイジ君恥ずかしがって人前で歌わないじゃない」


「それは…確かにそうだけど…」


「今はおれが代わりにボーカルやってるけど。今後メジャー行くならやっぱり君のボーカルじゃなきゃダメだ。というかおれ自身ギターボーカルやめてDJとキーボードと編曲に集中したいんだよね」


「それは。その申し訳ないと思ってます」


「恋愛ってさ。素面でやることの中で最も馬鹿らしいことなんだよね。レイジ君って控えめで周りに気をつかってるんだけどさ。それは人と接するのが怖かったり恥ずかしがったりすることの裏返しなんだよ。だからレイジ君にはここで一つ恋愛に挑んで欲しいなっておっさんの俺たちは思うわけだよ」


 リーダーはにっこりと笑う。


「セックスは気持ちいいけど、やっぱり心が真に通い合った方がもっといいはずだよ。それがきっと君にボーカルをやる勇気をくれるとおれは信じてる」


 恋愛にそんな力があるのだろうか?散々セックスはやってきた。これからはそれに足して何か心の交流をやらないといけないらしい。だけど。


「なあレイジ君。歌うの本当は好きなんだろ?」


 俺はこくりと頷く。


「じゃあ!恋愛やってみようか!何事もチャレンジチャレンジ!安心して!」


「「失敗したら大笑いしてやるからさ!」」


 仲間たちは俺の背中を押してくれている。それに俺はフラれたときに実際に悔しかったんだ。なら逆襲してもいいんだ。俺は今そう思えた。


「わかった。やってみるよ!俺フラれたけど!彼女たちにアタックしてみる!」


 それを聞いて仲間たちは笑う。そして俺たちはグラスを掲げて。


「「「「かんぱい!!」」」」


 ここからが新しい門出だ。俺はお持ち帰りじゃなくて、恋愛に挑む。フラれたままじゃいられない。彼女たちの心を射止めてみせる!だいたいそうなのだ。俺がさきにセックスしたのだ。彼女たちは俺に惚れるべきなのだ!俺は全身全霊で彼女たちを墜としてみせる!







---作者のひとり言---


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あと感想とかも貰うと嬉しいので是非('ω')ノ


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