物語の騎士のように
あせび
第一章 入団と初任務
第1話 なぜか入団できた
帝国軍第六騎士団団長、ジュリア=オースティン。
齢十八にして騎士団へ入団、その後わずか一年で騎士団長へ上り詰めた天才。平民の身でありながら、貴族たちは彼女の活躍に賛辞を惜しまない。女性にしては長身で、すらりと伸びる背筋が姿勢のよさを際立たせる。豪奢な金髪を後頭部に結わえ、目鼻立ちの整った顔は冷酷さを思わせるが、その無機質ぶりに似つかわしくない天然さを備えた彼女は自身の様相すら愛嬌にあふれたものへと自然に変化させる。
団員たちからの憧憬を一身に受けながらも驕ることなく淡々と任務を遂行する姿は、まさに騎士の鑑だ。帝国の一部の界隈では、彼女を偶像として崇める人間も現れていると耳にはさんだこともある。
それらの事情を鑑みれば、彼女が騎士団長に昇格した年を皮切りに入団を志願するものが爆発的に増加した、ということも驚くべきことではない。いうまでもなく清い心一筋で入団を目指す者ばかりではない。下心をもっている奴だって当然いる。かくいう俺もその一人だ。
三年前、俺が住んでいた辺境の村は魔族が引き起こした大規模な惨劇に巻き込まれた。そのとき、ことの対処に当たったのが第六騎士団で、先頭を張ったのが当時団長に成り上がったばかりのジュリア=オースティンだった。先陣を切り、襲い来る魔族を一振りで正確に切り倒していく姿は圧倒的で、率いてきた団員たちの士気を最大限に高めてみせた。それだけではなく、各部隊への指示も的確で、綿密な連携を組んで魔族を撃退、民間人の救助も迅速にこなし、瞬く間に事態を鎮圧したとも聞いている。魔族に人質として囚われていた俺は、彼女自らによって助け出された。
「君がルイス、で間違いないだろうか。安心してくれ。私が来たからには君には傷一つ負わせはしない」
そのとき、目を伏せて物悲しげに黙り込んだ姿を見て、恐怖に押しつぶされていた俺はそれとは違う感情が心のうちにもたげはじめたのを認めた。音に聞こえた彼女ではない彼女をそこに見た。
それからというもの自分の心の片隅には必ず彼女がいた。日増しにそれは大きくなり、やがて俺は騎士団への入団を決意した。
だからこそ、俺はこの事態にうれしさを感じると同時に腑に落ちないでいた。なぜ俺は、今、騎士団の入団式に参加できているのだろう。誰から見たって俺の動機は不純に違いない。表面上とりつくろうことはできても、ふとした言動に現れることだって無いとはいえない。それに感づかれていたら尚更のことだ。加えて、入団試験のとくに実技試験はまるでふるわなかった。首をひねるばかりだ。
「—―本日は貴君らの騎士としての道を歩む第一歩であり、栄光に満ちた未来への門出でもある。—―なによりもまず、騎士は、ひとえに武勇に優れるだけでは務まらないことを心に留めてほしい。――」
第一騎士団騎士団長イヴ、肩書通り第一騎士団を束ねる存在であり、かつ、帝国に仕える六つの騎士団を束ねるそれぞれの団長たちを総括する立場でもある。そんな彼女が今年の数十名の入団者を前に祝辞を述べている最中だが、俺は自分がどの騎士団に配属されるかに取りまぎれていて、気が気でなかった。
それぞれの騎士団の団長たちの実力は折り紙付きだが、彼ら彼女らの影響もあってなのか騎士団ごとに騎士たちの性質は大いに異なる。これらの話題は尽きぬ語り草であり、帝国民ならば誰もが何度も耳にする話である。
高潔に殉じる第一騎士団員たちはもれなく騎士の鑑であり、国民の信頼が厚い。が、ややお堅すぎるきらいもあって、ともすると行使する手段が強引に見られがちだ。一方で野蛮な活気にあふれる第四騎士団というのもある。やはりというべきか団長たちの中でもひときわ武力に優れるのが第四騎士団の団長であるらしい。正直を言うと、この騎士団は冒険者や傭兵を連想させるからできることなら避けたい騎士団だ。そして、俺の本命たる第六騎士団は中庸を得た騎士団で、極端な雰囲気のなかで過ごすことを拒みたい俺にとっては、ジュリア団長にも会えることから大いに望ましいところだ。まあ、ジュリア団長のもとで働けるのであれば、そこがどんなところであれついていくつもりではある。彼女の為ならば、あらゆる障害はなんのその、ってね。
「—―であるから、貴君らは日々鍛錬や礼儀を欠かすことなく過ごしてほしい。これをもって、祝辞とし、閉式とさせていただく。さて、これから君たちの後方に待機させてある案内係りの指示に従って、それぞれに割り振られた宿舎へと移動してもらう」
新入団員たちがにわかにざわめき立つ。当然だ、これは同時に自分がどの騎士団に所属するのかも分かるということだからだ。
鼓動がうるさい。俺が騎士団に入ったのはこの六分の一の賭けに勝つためだといっても言い過ぎではない。ここで負ければ、殉職する前に退団して、もとの農民暮らしに戻ることも視野に入れるつもりだ。
「案内される宿舎は、君たちが同輩と寝食をともにする場でありながら、同時に、君たちが所属する騎士団がどれであるかをも示す。どこに所属するかは入団試験の結果をもとに公正に判断されている。それぞれの気質に合うものだと私は確信している。どうか恐れず、門戸をたたいてほしい。—―それでは解散」
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