#マンション#
私が幼い頃住んでいたマンションでの怪談だ。
神奈川県横浜市の某所にて、私は幼少期を過ごした。ひとりっ子の私は、両親からそれはそれは愛されて育った。料理の上手な豊満な母、優しくおっとりした父。どちらも私は大好きだった。
私の父はとても霊感の強い人だった。その話は次の話にあるのでここでは省略させてもらう。
マンションは3LDKと至って広くもない、普通のマンションだ。
その1つに和室がある。
父はそこに、よく『髪の長い女性がいる』と言うものだから、私も母も怖くなってその和室は倉庫のように使っていた。
ある日、父と母と3人仲良く眠っていた日の事だ。あれは今でも忘れられない。
私は夜中に目が覚めてしまった。トイレに行こうと思ったが、1人だと怖いので両親を起こす事にした。
母は揺らしても全く起きる気配はなく、父を揺らすとゆっくり目を開けた。
「………ん、なんだ、トイレか?」
「うん。でも怖いから着いてきて欲しいの」
「ははは、大丈夫だよ、和室のあいつはあの部屋から出れないからね。パパが見てるから、トイレ行ってきなさい」
この時はまだ、父が何故『和室のあいつはあの部屋から出れない』と確信があったのかはわからなかったが、私はソレが見える訳ではないので父の言葉を信じて小走りでトイレへ向かった。
用を足してから、すぐ近くの洗面所で手を洗っていると、黒い何かが足元で動いたのが見えた。
(気のせい…?でもなんか大きいのが動いていた気がする…)
よく見ると、ソレはまるでカツラのようなものだった。すっと足元を移動して、キッチンの方へ行ってしまった。
怖くなりながらも気になってしまい、私はキッチンへ行ったが何もなかった。
(確かに何か居たけど…気のせいなのかな…パパに聞いてみよう)
私は両親の寝ている所へ急いだ。
途中、和室が少し開いていて、ズザズザと畳に爪を立てるような音がしていたのが気になったが、見てもいい事はないと思い、寝室に入った。
父は優しく私を迎えてくれた。
私は先程見たものを父に伝えたが、父は『何もしてこないから大丈夫』と言って私を宥め、眠りについた。
私の視界にはまだソレがいた。
私の後を追って来たのか、ソレは長い髪をモップのように揺らしながら、私の足元まで来たかと思うと、旋毛がぐるりと向きを変え、入ってきた扉の方へ向かって行った。
私は怖かったのでソレを最後まで見届ける事なく、必死に目をつぶって朝を待った。
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