第2話
最近オープンした居酒屋の、少し離れた席に彼はいた。
男4人で楽しそうにビールを飲む彼は、キャップを目深にかぶっていて顔はそこまでハッキリ見えないけれどたぶん好きな顔。そして服装とか動きとか雰囲気とか、なんかもう、全部がタイプだった。
「…カッコイイ人いた」
「え、どれ?どの人?」
「あそこのテーブルの、あの黒いパーカー着てる人」
「あー確かに。リエ好きそう、ああいう人」
飲み会に誘ってくれた友達のマナは高校時代の同級生。
「え、あ、ちょっと待って。知り合いがいる」
私が一目惚れした黒いパーカーの彼と一緒に飲んでいる3人の中の1人とマナは偶然にも知り合いだった。
「ちょっと連絡してみる」
「え、」
「彼女いるか聞いてみる」
「え、ちょっと」
マナはもうメッセージを送ってしまっていた。
すぐに返事がきたみたいでメッセージのやりとりをしているマナ。
「リエ残念~!あの人彼女いるってー」
「そっかーだよねーいるよねー。カッコいいもん。あー残念」
マナからの報告は予想通り。
居酒屋での一目惚れはそこで終わった。
二次会はカラオケ。
大人数で盛り上がり騒がしい室内。
「リエちゃん歌わないのー?ねえリエちゃーん」
…あー帰りたい。
ちょっと苦手なタイプの男にしつこく口説かれていてちょっとウンザリ。
テーブルに置かれたマナのスマホの画面が光った。
「はいもしもーし」
マナはスマホを取り騒がしい部屋から出て行った。
しばらくして戻ってきたマナに手を引かれ部屋の外に出る。
「どうしたの?」
「さっきの人、リエに会いたいって!」
マナが私の腕を掴み揺らす。
「さっきの人?誰?」
「黒いパーカーのイケメンだよ!」
「えっ!?」
なんで急にそんな事になるのか理解できなかった。
でも正直、あのイケメンに『会いたい』と言われて悪い気はしない。
「待って待って。どーゆー事?」
「だーかーらぁー、あのイケメンもリエの事気になってたんだって!」
「ウソ!?」
「連絡先教えてほしいって言ってるけどどうする?」
「え!本当に!?」
って思わず興奮しちゃったけど…
「いやいや、でもあの人彼女いるって言ってたじゃん」
居酒屋で言われた事を思い出した。
「あ、言ってた」
「彼女いるなら…」
彼女いるならいいよ、と言おうとしたその時、マナのスマホが鳴った。
「もしもし?――うん、――え?今!?オッケーわかった!」
部屋に戻ろうとしたらマナに腕をギュッと掴まれた。
ビックリして振り返ると電話を切ったマナがこう言った。
「あのイケメンもうここの駐車場に来てるみたいだからちょっと会ってやってくれって!」
「は!?なにそれ!?急展開すぎない!?」
と言いつつ高鳴る私の胸。
「いいじゃ~ん行ってきなよー!」
「どーしよ…ちょっと、ちょっとだけ行ってきてもいい?」
「いいよ!いってらっしゃい」
彼女いる・いないはもうこの際関係ない。
あんなタイプの人になんてなかなか出会えないし、こんなチャンス滅多にないと思った私は、飲み会そっちのけで黒いパーカーの彼が来てるという駐車場へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます