別れの予感
まりも
第1話
『さっきはごめん』
何度目だろう。彼にこのセリフを言われるのは。
仕事を終えて彼に電話をかけたら
『ごめん今仕事中。あとでかけなおす』
と、すぐに切られた。
しばらくして彼から折り返しの電話がきた時の事。
『なに?どうしたの?』
ただ声が聞きたかっただけ。
ただ会いたいと思っただけ。
「今日行ってもいい?」
『あー…』
あ、この感じ。また断られる。
『仕事遅くなるしちょっと今日は…ゴメン』
案の定。
電話の向こうの彼の声がなんだか今日も冷たくて。
最近はずっとこんなやりとりばっかり。
…もうダメかもしれない。
合コンの数合わせに無理矢理連れてこられていた彼に一目惚れ。長いお友達期間を経て私から告白して付き合う事になった。
彼はクールで無口でオシャレな人。
行動力と決断力があってなんでもひとりでできちゃう人。
それが最高にかっこよくて大好きだった。
付き合って2年の記念日当日の朝、彼からメッセージがきた。
『話したい事あるから今日の夜会おう』
『話したい事』、その文字を見た途端、頭痛と吐き気に襲われた。彼の話したい事がなんなのかが一瞬でわかってしまった。
付き合ってから今まで、大きな喧嘩は特になかったように思う。ちょっと言い合いになっても、私が機嫌悪くても、常に冷静な彼はいつも受け入れてくれた。
彼の仕事が忙しいのは理解していたつもりだったし、最近なんて月に数回くらいしか会えなくなってたけど仕方ないって我慢してた。本当はもう少し会いたかったけど。
あんまり頻繁に会ってたわけじゃないから2年も続いたのかもしれない。
でも、
会いたいと言うのは私ばっかり。キスをするのも、抱いてほしい時も私ばっかり。彼の方から私を求めてくる事は少なかったかも。
我儘ばかりの私を受け入れてくれる彼に甘えすぎてたのかもしれない。
もっと好きって言えばよかった。
もっと会いたいって言えばよかった。
もっとキスしてほしかった。
もっと抱きしめてほしかった。
もっと一緒にいたかった。
そう思っていたのは私だけだった。
彼とのそんな2年間を思い出しては胸を痛めて苦しんでいると、あっという間に約束の時間になってしまった彼のアパートの見慣れた玄関ドアの前。
この部屋に入ったら私たちは終わる。
1ヶ月ぶりに会えるのに。
会いたかったのに会いたくない。
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