別冊・もう一つのビター

遠足

「ラーメンとか食いたいな」

キープで半分ほど残っていた焼酎を空にし、更に一本入れたのを半分飲んだ。

結果一本飲んだ。

まぁシラフではないけど、酔っ払ってもいない。

俺も神田もあまり酔わない。

「や、無理」

「相変わらず食細いな」

「酒飲んでなんでラーメンまで食えるんだ」

俺が払ったから神田から即座にPayPayが届く。

「多くね？」

「お時間取らせましたので」

「あ、じゃあラーメン奢る」

「え！ラーメン行ってくれるの？！」

セブンでカップの辛みそラーメン買った。

そしたまたうちに帰ってきた。

小鍋で湯を沸かしラーメンを作る。

俺は家にあった焼酎でお湯割りにした。

「美味い？」

「久々にカップラーメンとか食った」

「スズ、ラーメン好きだよな」

お手製ラーメンとか作りそうこの人。

「え、そうなの？」

「え？」

「そういえばラーメンって一緒に食べたことないかも」

「何食ってたんだよ」

「俺が作ったご飯かジョイジョイ」

「あぁね」

仕事にしても飲みにしても、こんなに神田と二人でいることがあだただろうか。

この前房総で腹割った時にも、何やってんだ二人で、と思った。

「スーたんがいなかったらこんなことなかったよな」

神田がそう言って笑う。

俺もそう思った。

「あー腹いっぱい」

「飲む？」

「氷ある？」

「作ってると思うか？」

「お湯でいい」

こなべに水を足して沸かす。

「そんな小さな鍋、どこに売ってんの？」

「ダイソー」

「俺、南部鉄器の鉄瓶欲しいんだよな」

「なにそれ」

冷たい床に座って飲むお湯割り。

ただの同僚でしかなかった男は、いつの間にか友達になっていた。

皮肉にも、好きな女の子を介して。

「勝負だな」

「だな」

「今、スタートラインは同じだろ」

「朝霧の方がリードしてんじゃん

　好きなんだから

　てか勝負する前から負けてます」

「そうでもない」

そうでもないと、本当に思う。

「朝霧明日から休むの？」

「休む」

「俺も休もう」

「とか言いながらちまちま仕事するだろうけど」

「わかる」

「パソコン丸ごと会社に置いとこうかな」

「それしかない」

「俺スズと遊ぼ」

「明日来る？」

ラーメンは無理だけど、神田が山ほど買って来たバナナを。

「なんでお湯割りで東京ばな奈食えるの？」

「あ、これスズにやったら？好きだろ」

んーーー…明日から年明けまで休み。

仕事は極力しない。

となると…

「神田、新幹線何時？」

「取ってない、適当に乗る」

「よし、行こうぜ」

「は？」

お湯割りを飲み干し、俺と神田は家を出た。

「なんでお前と遠足を」

「どっか空いてねえかな、ホテル」

時間が遅かったからか、新幹線は席を確保できた。

「てか東京来るなら俺なんでわざわざ仙台行った？」

「勝手に来たんだろ」

そして席に着いて落ち着くと、神田はパソコンを開いた。

「結局仕事するんじゃん」

「もうなんかクセだよな」

「お前のその社畜根性好きだぞ」

「朝霧に言われたくないけど

　スーたん捨てて海外に飛んだくせに」

「傷を抉るな」

そして結局俺もパソコンを開く。

「なぁこの那覇の海洋研究の結果見た？」

「あぁ見た、この数値はエグいな」

神田がパソコンの数字に指差し、なぜかクスッと笑う。

「なんかあれ思い出した

　エネ開入って初めて出張行かされたやつ」

「あぁ…広島からの那覇か」

「飛行機も新幹線も乗り慣れてなくてさ」

「広島空港で若干喧嘩したよな」

ｱﾊﾊ

「そうそう

　緊張とか不安とかで気が張ってるのに

　空港がよくわからないくてイライラして」

「ストレス半端なかったな」

「大人になったな、お互いに」

東京までこんな感じだった。

仕事に目を通しながら思い出話になったり、くだらない話をしたり。

「そんでお母さんに見つかってさ」

「うわ〜マジ嫌だ」

エロ本を見たかったどうでもいい話。

一人の女の子を取り合っているというのに、余計な友情みたいなものが強くなるって話。