第9話 レベル差40

「アイテム無し、闘技場での決闘ね!」

「アイテム無し!?」

「何を驚いているの? ガチ勢はアイテム無しが基本でしょ? 大体デフォルトでアイテム無しになってるんだから、運営的にもこれで頑張りましょうってことなんじゃないのかしら? はっ!」


 ネルは勝ち誇った笑みで「はっ!」と声に出して、威圧的な笑い声をアポロに向ける。


「ちょっと待ってください! いくらなんでも、レベル差が40もあっては勝負にならないと思います!」


 レベル45であるニコが大きな声で、ネルに言った。


「確かに、あんたなら結構楽しませてくれそうだけど、今はあんたに用はないわ!」

「負けるのが怖いんですか?」

「怖くないし!」


 喧嘩が始まりそうだったので、ニコの肩を掴み、引き離す。


「落ち着いてニコちゃん、あれはきっと素直になれないだけだから」

「そうなんですか?」

「うん! あの子の顔と髪型を見てみて!」


 ネルの髪型は金髪ツインテールで、力強そうな目をしている。


「……えっと、それがどうして素直になれないことに繋がるんですか?」

「ツンデレっぽい!」

「ツ、ツン?」

「素直になれないってことだよ! じゃあ、戦って来るね!」


 アポロとネルはメニュー画面を開き、決闘モードに移行する。


決闘デュエル!」


 アポロは「決闘」をタップする時、1人でそう叫んだ。



 アポロとネロは、闘技場へと転送される。

 アポロは【人化】が解除されており、本来のフェニックスの姿である。


吸血鬼ヴァンパイアの力を見せてあげるわ!」

「吸血鬼なの?」

「そうよ! ゲームの外でのあなたがモンスターか人間かは分からないけど、もしも人間だとしたら、その血を吸ってみたいものだわ!」

「こう見えても人間だよ!」

「それは楽しみだわ! 私の世界では人間は大昔に絶滅した種族だからメルティ以外の人間をよく知らないのだけど、この世界で吸った人間の血は中々に美味だったのよね!」


 人間が絶滅……?

 そんな世界から来ている人もいるのか。


「あんたの血も吸わせてもらうわ!」

「望むところだよ!」


 決闘が開始された。


「レベル10の分際で私に勝負を挑んだこと! 後悔させてあげるわ!」


 ネルは叫びながら、アポロの首に食らいつくように飛びかかった。

 ちなみに勝負を挑んだのは、彼女の方である。


「あちっ!」


 ネルはアポロに触れると、青い炎が体に燃え移り、それを消す為に地面をゴロゴロしていた。

 少し離れた場所で彼女は立ち上がると、強気な笑みをアポロに向ける。


「対策しているだなんて、少しはできるようね!」

「え?」


 いきなりだったので、攻撃を回避できなかっただけである。


 だが、地面をゴロゴロしている隙を、アポロは見逃さなかった。


 ネルは毒の状態異常にかかっていた。


「毒状態!? どういうこと!?」

「私はネルちゃんが地面をゴロゴロしている時に、魔法【ポイズンウィンド】を発動していた!」

「弱小魔法過ぎて、攻撃を受けたことに気が付かなかったわ!? このままじゃ、いずれ毒のダメージで死んでしまうわ! ……なんてね。私は誇り高き吸血鬼であり、レベルが50もある! 当然、これくらいじゃ慌てたりしないわよ! 状態異常なんて、その辺で買えるアイテムですぐにどうにかできるわ!」


 ネルは素早くメニュー画面を操作するが……


「アイテムが使用できない!? どういうこと!?」


 信じられない何かを見たような表情のネルであったが、すぐに冷静になる。


「そうか……! あの時……! まさか、ここまで考えていたとは……!」

「アイテム無しって言ったの、ネルちゃんでしょ?」


 アポロがそう言うと、ネルは思い出したようで、表情を明るくする。


「そういえばそうだったわね! 私の誇り高き頭脳だと、どうでもいいことはすぐに忘れるのよ! テストもどうでも良すぎて、いつも一桁しか取らないわ!」


 と、謎の自慢をして来たので、こちらも対抗する。


「勝ったね! 私は10点くらいは余裕で取れるよ!」

「テストなんかで勝って威張ってるだなんて、本当あきれるわね! そうだ、私実は料理が得意なのよ!」


「料理!?」

「あら? もしかして、あなたは料理できないのかしら?」


「いや、吸血鬼だから血だけで足りるものかと思っていたから」

「血だけじゃ、健康に生きられないわ! と、そんなことよりも、話題をそらさないで頂戴! 料理できるの? できないの?」

「できるよ! 目玉焼きとかハンバーグとかカレーとか!」

「あっはっは! 子供ねぇ! それだけ? 私は焼き魚を作れるわ! 魚を焼くのよ!」


 こんな調子で、時間が経過していった。


 そして……


「こ、これはどういうこと!? HPが……!」


 長話をし過ぎて、毒による継続ダメージを受け続けていたようだ。


「誇り高きこの私が、負ける……? そんなのあり得ない! 一気に終わらせるわ!」


 ネルはメニュー画面を操作すると、彼女の手には武器が出現した。

 血の色の剣だ。


「ブラッディソード! これはレベル50以上じゃないと装備できない、誇り高き武器よ! そして、スキル発動! 【スラッシュ】!」


 ネルが剣を振うと、そこから青白い衝撃波が飛んで来た。

 そのシンプルさから、おそらくスキル自体は強くないのだろう。


 だが、そのレベル差から食らってしまうと死んでしまう。

 しかし、それでもいい。


「ファイアボール! 5連打!」


 あえて衝撃波に突っ込みながら、魔法【ファイアボール】を連続で放つ。


「HPを削り切ったのに、なんで死なないの!?」


 スキル【不死鳥】の効果により、3回までHP0を無効にして、全回復する。

 本来こういった回数制限のあるスキルは、基本的にゲーム内での日付をまたがないと、再び使用できるようにはならない。


 しかし、決闘モードであれば、決闘ごとにそういった回数制限は復活する。


「あちっ! って、こんな弱小魔法、効かないわよ!」


 そう言っているネルの体は、青い炎で燃えている。


「何これ!?」

「なんでしょう!」


 エクストラ効果。

 本来の魔法と同じ効果の他に、追加で特別な効果が付くレアな魔法も存在する。


 アポロのファイアボールにもそれはある。


 その効果とは、一定確率で継続ダメージを与えるというものだ。


「ダメージの減りが、早くなってるわ! もしかして、なんらかの状態異常を重ね掛けされてるの!? なんの状態異常か分からないけど、状態異常の重ね掛けなんて、そんなのチートよ!」


「ファイアボールのエクストラ効果は状態異常じゃない! よって、重ね掛けが可能!」


「状態異常じゃないの!?」


 後2回までは死ぬことが許されている。

 アポロは飛翔する。


「空を飛べるのはあんただけじゃないのよ!」


 ネルの背中から、黒いコウモリのような翼が生える。

 空中で、剣を振り回し、アポロに当てようとする。


「そこよ! スラッシュ!」

「くっ!」


 再びHPが削り切れたが、不死鳥の効果により、復活。


「まだ倒れないの!?」


 その後も空中で逃げ回るが、剣の攻撃がヒットし、またしてもHPが削り切られてしまう。

 またしても不死鳥の効果で復活したが、これ以上死ぬのは許されない。


 だが……


「嘘!?」


 突然、ネルの体が光の粒子となって消滅していった。


 毒と炎による継続ダメージで、HPが0となったのだ。

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