第1話 探索者461さん現る

 地球が異世界からの侵略者……魔族に支配され、ダンジョン実験場となって2年。



 引きこもりだった俺は家を出て「461ヨロイさん」という名前でダンジョン探索者になっていた。



 埼玉県稲荷山いなりやま地下墓地のダンジョン。その通路を全力で走る。



 石造りの通路上で、俺の装備がガシャガシャと音を立てる。軽量なフリューテッドアーマーの音が。柔らかい飛竜の皮で繋ぎ合わせた防御力と動きやすさを兼ね備えた一品。


 それに顔を覆い隠すフルヘルム。ずっとダークソウ◯な装備に憧れていた俺には夢のような状況。


 だけど今、1つ問題があった。悠長にダンジョン探索できない状況。今、俺が全力で走っている「理由」が雄叫びを上げた。



「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」



 それがこの鳴き声の主。背後を振り向くと、轟音を響かせてボスが迫って来る。所々から骨が露出したドラゴン。ソイツが俺を追いかけて来ていた。


 こんな通路でボスと遭遇するとはな。通路だと流石に逃げ場が無い。さっき通った広場まで戻らねぇと。


「ちっ。屍喰いのドラゴンがボスって聞いてたが……外にいた探索者ども適当な事言いやがって!」



『あれは屍喰いのドラゴンが進化した「ドラゴンゾンビ」だ』



 ヘルムの中、左耳に付けたインカムからダンジョン管理局の女性の声が聞こえる。俺の担当、声だけで美人と分かるその声を聞くと、若干冷静さを取り戻せた気がした。


「リレイラさん! アイツって今まで出現してます!?」


『いや、今回が初観測だ。強敵だぞ』


 初観測? 今まで色んなボスと戦って来たが、この威圧感は初めてだ。こんな強い敵の攻撃なんて食らえば即死するかもな、俺。



 だけど。不思議と弱気にはならなかった。



「うおおおおお!!! 燃えて来たぜええええ!!!」



 初めて出現したボス。強敵。こんなワード聞いて燃えない訳ねぇだろ!!



「今から広場に誘い込みます! そこで仕留める!」


『……言うと思った。死ぬなよ、ヨロイ君』


「はい!」


 通信が切れる。通路の先に広場が見えた。


 広場に飛び込み部屋の中央で立ち止まる。頭上は何メートルあるのかという広大な空間。ここならデカいボスともやり合える。



 腰のショートソードを引き抜いた数秒後、ドラゴンゾンビがぬっと顔を覗かせた。



「グルオオオオオオ!!!」



 俺を見つけてドスドスと迫って来るドラゴンゾンビ。さっきの通路で見たが、ヤツは図体がでかい分小回りが効かない。ギリギリでヤツの懐に向けてローリングすれば……。


「グオオオオ!!!」


 ドラゴンゾンビの突撃。その足元にローリングで飛び込み、肉が崩れそうな脚に攻撃を放つ。



「グルアアアアア!!?」




 攻撃を受けたドラゴンゾンビが苦しみの声を上げる。ヤツは背後へ飛び退いて尻尾を2度振った。



 なんだ? 何かの兆しのような……。



「グルオオオオオオ!!!」



 雄叫びと共にその巨大な尻尾が薙ぎ払われる。


 速い!? マジかよ!!



「うおああああああ!?」



 咄嗟にバックステップで回避する。俺の顔ギリギリを通り過ぎた薙ぎ払い攻撃は、ダンジョンの壁面に激突して轟音を響かせた。



「うわぁ……当たったらひとたまりもないな」


「グルルル……」



 薙ぎ払い攻撃の後、ドラゴンゾンビが若干大人しくなる。アレ? 様子がおかしくねぇか?


「グアゥ!!」


 射抜くような両眼をしながらドラゴンゾンビが威嚇してきた。足が震える。普通なら絶対飛び込んだりしようなんて思わない。だけど、ヤツの手足に弛緩しかんしたような動きが見える。



 ……行くなら、今しかねぇ!



「うおおおおおお!!!」



 思い切ってヤツの元へ駆け出し、その胴体を2度斬り付ける。



「グギャア!?」



 効いてるな。もう1発いける!



「グルァ!!」


 突然元気になったドラゴンゾンビがその強靭な脚を振りかぶる。それは俺の頭上から踏み潰そうと地面に振り下ろされた。


「うおああ!?」


 すぐそこに聞こえる轟音。振動。ローリングでなんとか回避できたが危なかった。攻撃を受けてからの反応は速い。尻尾攻撃後は2回まで斬撃は当てられねぇな。



「グルオオオオオオアアアアア!!」



 ドラゴンゾンビが翼を広げて飛び上がる。腐った肉を撒き散らしながらダンジョン内を飛び回るドラゴンゾンビ。ヤツは、両脚の爪を向けて滑空攻撃を仕掛けて来る。


「くっ!?」


 地面に飛び込み鉤爪の一撃を避ける。頭上を鉤爪が通りすぎ、暴風が巻き起こる。今はモーションを覚えることに集中するか。



 ……。



 ヤツとの戦闘に入って15分。少しずつヤツのモーションが分かって来た。尻尾薙ぎ払いは放つ前に2度、尻尾を振る挙動がある。滑空攻撃は左脚に近くに安全地帯が生まれる。


 俺は、回避しながら隙を突いて攻撃し、ヤツの体力を削っていった。



「グオオオオオオ!!!」



 4度目の滑空攻撃の時、俺は思い切ってヤツの脚左脚へ飛び込んだ。ヤツが通り過ぎる寸前に一撃を叩き込む。着地に失敗したヤツは盛大に地面へ倒れ込んだ。


 倒れてもがくドラゴンゾンビへさらに斬撃を浴びせると、突然もがくドラゴンの口から緑色の煙が漏れ出した。初めて見たモーション。色からしてアレは……。


「毒霧ブレスか!?」


 全力で走ってその場から離れる。ドラゴンゾンビはその口から毒霧を撒き散らした。



「カアアアアアアア!!!」



 ヤツの周囲を毒霧が包み込む。クソッ、あの動きから察するにもう少しで倒せそうなんだけど。



 ……そうだ。



 アイツはまだ身動きをとっていない。このタイミングの毒霧も俺を遠ざけたかったんだろう。ヤツは今弱ってる。トドメを刺すなら今しかない。



 ショートソードを見る。投擲とうてきスキル・・・は取ったばかりだが、的が動かないなら……いける!



 俺はショートソードを肩に構えて全力で投げ付けた。



「うおおおおおおお!!!」



 縦に回転しながら飛んで行くショートソード。その剣先が、ヤツの顔面に突き刺さる。



「グギアアアアアアアアアアア!!? ア、ア……っ!」



 一際大きな雄叫びを上げたドラゴンゾンビは、ヤツは崩れるように倒れ込むと動かなくなった。




◇◇◇



 ダンジョンの外に出ると、黒いスーツにタイトスカートの女性が待っていた。紫色の長い髪に羊のようなツノの生えた……俺の「担当」。ダンジョン管理局のリレイラさんが。


「初見でドラゴンゾンビを倒すとは。流石だな、ヨロイ君」


「いや、ギリギリですね。最初に遭遇した通路で戦闘になったらヤバかったかも」


 リレイラさんは、固く握っていた手をゆっくりと開いた。いつも冷たい表情のリレイラさんだけど、こうやって出迎えてくれる時は少し笑っているように見える。


「まぁいい。週末はゆっくり休んでくれ」


 彼女は、俺が顔を見ているのに気付いたのか、クルリと振り返って歩き出してしまった。


「ちょ、待って下さいよ!」


 彼女に続いて歩いて行く。その先にはダンジョンに来るために乗って来たリレイラさんの車がある。


 初めて戦う敵。しかもボス戦……緊張したな。だけど、もう意識は次のダンジョンに向いてる。今回はアイテムが少ないダンジョンだったから次は宝が多い所がいいな。



「次はどのダンジョンに行こうかなぁ……」



 考えていた事が漏れ出てしまう。リレイラさんは、車の前で立ち止まり、横目で俺を見た。


「それはもう決まっている。実は管理局から攻略要請があってな。勝手で申し訳ないが受けることにした」


「え、どこですか?」


 リレイラさんは、ニヤリと笑うとそのダンジョンの名前を言った。



「グンマダンジョンだ」




───────

あとがき


お読み頂きありがとうございます!


本作は下記作品

【461さんバズり録】〜ダンジョンオタクの俺、淡々と攻略していたら何故か美少女配信者に撮られてバズり散らしていた件〜

↓第1話リンク

https://kakuyomu.jp/works/16818093072862688424/episodes/16818093072952437040


の10年前を舞台にした「配信要素無し」の現代ダンジョンものとなっております。


 配信要素が好きな方、461さんが最強になった後の10年後が気になる方はぜひ上記作品へも足を運んで頂ければ幸いです。



 また、本作だけでも楽しめるよう上記バズり録と「世界線が分岐する」可能性がございます。ただの過去編にならないよう本作も全力で取り組みますのでぜひお付き合い下さい。



 次回、2人は群馬へと向かいます。リレイラのいうグンマダンジョンは他とは異なる特別なダンジョンで……? リレイラさんの詳しい紹介も次話で。


 次回は本日17:33投稿です。



 少しでも先が気になると思われましたら⭐︎⭐︎⭐︎評価や作品フォローをどうぞよろしくお願いします!


 ⭐︎⭐︎⭐︎は最新話下部、もしくは目次ページ下部の「星で讃える」から行って下さい。⭐︎⭐︎⭐︎だと嬉しいです〜!


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