配信アプリ
さくら
配信アプリ
わたしは、一時期顔出し無しの配信アプリにハマっていた。
配信とは、配信者と配信を聴くリスナーで成り立っている
配信者の声や音声と、リスナーのコメントで双方のやり取りが可能だ。
誰もが気軽に配信可能なのだ。趣味の歌や音楽を披露したり、家事をしながら片手間に雑談する主婦もいたし、学生や資格を目指す社会人が勉強をサボらない為にリスナーに見張ってもらう配信とかもあった。用途は様々で実に楽しめる当たりのアプリだった。
それに顔出しがないため、いらないことを喋らなければプライバシーは守られている。配信するのも聴くのも、安心して利用が出来た。
好みの配信があれば、積極的に通うしコメントしたりリアクションをするので自然と配信者と仲良くなって他のリスナーとも交流を深まるのだ。
そうしてネットで繋がる友達の輪が広がっていった。
今回は、そうやって配信アプリで繋がった2人の友達…RちゃんとBくんについて綴ろうと思う。
Rちゃんは、飲食のお店にアルバイトで入職したが仕事があまりにも出来すぎるのでいつの間にか店長に抜擢されていた、いわゆるバリキャリ女子だ。サバサバしており、ハッキリとした喋り方のかっこいいお姉さんというイメージがあった。
そんなRちゃんはBくんと高校の同級生でお付き合いをしていた。
Bくんはサラリーマン。育てている観葉植物に自宅のマンションの部屋を占領されており、広かったはずの部屋で身をよじりながら生活しているらしかった。のんびりしながらも、知性が滲む話しをよくするしっかりした人だった。
RちゃんもBくんも、配信アプリの別々のアカウントを持っておりそれぞれ空いた時間に配信していた。いわゆるラブラブアツアツイチャイチャとかカップルのカップル配信は絶対しないタイプだ。
とある日の夜、仕事が終わり、帰宅したタイミングでRちゃんの配信通知がスマホに届いた。
わたしは通知のリンクから飛び、すぐにRちゃんの配信を聴いた。
「あ、さくらちゃんだ。こんばんは」
Rちゃんのお店の閉店時間はとっくに過ぎており、Rちゃんはお客のいない店内で締め作業をしながら配信をしていた。
【こんばんは。お疲れさま】とわたしはコメントを打つ。
「ありがとう。今日も疲れたわ〜クソ客の話しをしてい?」
【いいよ!きかせて】
わたしの他にリスナーはいない。Rちゃんとわたしはテンポよくやり取りを続けていた。
Rちゃんは仕事の愚痴を楽しそうに話している。
「ねーーー?ねぇ…」
【あれ?誰の声だろう。他のスタッフさんかな?呼ばれてるよ】
ハッキリとスマホのマイクからアプリの音声が聴こえた。Rちゃんとはまったく別の人…女性の声だ。
従業員スタッフさんが店内にいたのだな。
他の従業員スタッフ同士で話しているのではなく、なんというか、Rちゃんに向かって声を掛けているように感じた。
「……………………………………………………………」
【Rちゃん?】
「…………………………………………………………………えっ?」
短く、酷く怯えたRちゃんの声が聴こえて、わたしはブワッと鳥肌が立った。
本能的に、今のはおかしいと脳みそが判断した。
「あ、みんな、帰ったから、誰かの声がするのはおかしいよ、おかしい。聞き間違いだよ。もうこんな遅い時間なのにやめて、窓の外で風が葉っぱを揺らした音なんじゃないの?ねえやめて、やめて欲しいな、そういうこと言うの、変なこと、言わないで」
Rちゃんはかなり動揺していて、ずっと「変なこと言わないで」と繰り返し言っていた。
わたしは【Rちゃん落ちついて。ごめんね。わたしの聞き間違いだよ】と打って、コメントを送信しようとした。それにしても、動揺しすぎじゃないかと、わたしの冷静な部分が考えていた。
とにかく、安心してもらいたい。
「ねえ…ねえ…ねえ…ねえ…ねえ…ねーっ」
わたしは送信しようとしたコメントを取り消した。
【本当に聴こえないの?】
わたしにしか聴こえていない声に直面した状況に、感覚が麻痺していた。
無意識に不躾なコメントを送信していた。
わたしにはRちゃんを呼ぶ女性の声が聴こえてしまって、なにがなんだか、Rちゃんを安心させるとか思いやるとかよりも先にこの気味悪さを解消したかった。
たぶん、きっと、わたしの聞き間違いだろうけど。
仕事が忙しくてストレスかかかって、幻聴でも聴こえたのだ。
窓の外の風の音のせいかもしれない。
なんでもいい。
「そんなこといわないで!マジでこわいんだけど、そんなこといわないでよ!やめてよ、もおー!やだあ!!やだよお…」
Rちゃんはパニックになっていた。
でもわたしもこわい。全身が冷えていく。心臓が嫌なリズムで鳴っている気がした。
なぜか配信を聴くことを辞めると思い浮かばなかった。むしろもっと聴かないとと思った。なぜか背後が気になって何度も後ろを振り返った。
【ごめんね!疲れすぎて聴き間違ったんだと思う。わたし霊感とかないし。絶対風の音だよ】
そうコメントを送信した。
「絶対そう!絶対に!びっくりしたんだけど〜!!」
Rちゃんは上擦った声で
変にテンションが上がっていた。
なんというか、Rちゃんの怯え方は異常だなと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます