第7話「新たな仲間」

 晴れて冒険者となったオレたちは、ギルドでの依頼を片っ端から受けまくった。

 その中でガイアの身体についての情報を集めようとしたのだが、訊く人訊く人皆ピンときていない様子で、有力な情報は全くもって手に入らなかった。

 というか、“命の神の身体が世界中に散らばっていて、取り込むと格段に強くなれる”なんて話し自体を知っていなくて、「どこの田舎のおとぎ話だ」とバカにされてしまう始末。

 ガイアの身体のことは知る人ぞ知る的な、あまり周知でない話しなのだろうか。

 もしかしたら、神や上級の魔物に関わる冒険者の方がよく知っているのかもしれない。


 なのでオレは上級ランクの冒険者を中心に話を訊いてみることにした。

 しかしながらなかなかうまくいかず、一週間ほど過ごしてギルドの中にも密かにカーストという存在があることを知った。

 いや、別に上級の冒険者が嫌な奴だという訳ではなく、どちらかといえばその取り巻きの治安が悪くて、”Fランクのペーペーが上級冒険者に関わろうなんて言語道断”という空気をこれでもかというほどかもし出しているのだ。

 この前ルジカたちを偶然見かけて声をかけようとしたが、信者達の眼力と圧力にやられてそれ以上近付けなかった。

 だから今、オレは依頼を受けまくってコツコツと実績を積み、一刻も早くのランク昇格を目指している。

 そして今日。



「おめでとうございます、カサイケンゴ様。規定の実績数を達成されましたので、Eランクへの昇格が可能となります」



 冒険者になってはや1ヶ月半、ついにオレはFランクから脱した。

 長いような短いような、やっと大量の買い出しから解放される…!



「やったね賢吾!」


「ああ、これで討伐任務が受けられる!」



 この世界へ来て初日に手に入れたあの鉄の剣は、ゴブリンの件以来一度も使用していない。

 だが、この1ヶ月自主的な筋トレや依頼でオレの体は大分強化された。

 今度はきっと大丈夫。

 オレが期待の胸を膨らませていると、嬢が少し申し訳なさそうな顔で切り出した。



「お喜ばれのところ申し訳ないのですが、依頼の受注につきましては、一つだけ条件がございます」


「え、条件ですか?」


「はい、E〜Bランクの依頼を受注するには、冒険者様は必ず”パーティー”で受ける必要があります」


「パーティー…」



 パーティー、パーティーか。

 確かに、魔物の討伐は買い出しよりもはるかに危険を伴うしな。

 しかしパーティー…オレの人脈が皆無な以上、知らん人と組まなければいけないことになる。

 この世界の住人とはまだ深く関わったことがないので、正直不安だ。

 ガイアじゃダメなのだろうか。



「コイツじゃダメですか?」


「……難しいかと」



 ダメかぁ〜、なら仕方ない。



「パーティーメンバーを募集している人とかいないんですか?」


「申し訳ありません、ただいまEランク以下のメンバー募集をしているは方いらっしゃいません」


「そんなあ」



 いつものオレなら、こういうときは知り合いにでも声をかけて誘ったりするが、この世界にそんなのはいない。

 だが嬢に訊いてみればオレ自身が紙を張り出して募集することもできるとのことらしく、闇雲に声をかけるのもなんなのでお願いすることにした。



「では、募集する冒険者様の条件などをお聞かせください」


「条件か〜」



 色々なことを考えるうちオレの頭にフッと浮かんできたのは、魔法でオレの傷をいやすルジカの姿だった。

 そうだ魔法、そういえばまだヒーリングとかしか見たことない。

 やっぱ勇者の相棒は魔導士だよな。

 それに、敵を圧倒するような攻撃魔法とかも見てみたい。



「できれば魔術師がいいです」


「魔術師…魔導士ですね。他にございますございますか?」


「ガイア何かあるか?」


「うーん、特にないかなー」


「じゃあ、それでお願いします」


「承知いたいしました」



 嬢は用紙に条件を書き込むと、はしにハンコを押した。



「ではこちらを掲示させていただきます。希望者が出ました場合、カウンターにてご報告させていただきますので、それまでお待ちください」





 あれから2週間が経った。

 その間もオレは依頼をいくつもこなしてコツコツとお金を貯めていたが、つい先日、嬢からパーティーメンバーの希望者が出たとのことで、教えられた時間にギルドの食堂で相手を待っていた。



「これから来る子だけど、教えた方が良いかな、ガイアのこと」


「あ〜。確かに、そこだよねぇ」



 教えたとしてもそれを受け入れてくれるかが問題だ。

 ガイアは見た目のインパクトが強すぎるし、オレがその眷族で不死身だなんてこの世界でもまれなことだろうし、まず信じてくれるだろうか…。



「うーん、とりあえずだまっておくのがいいかもね」


「あの……」



 突然背後からかけられた声に振り返ると、1人の少年が立っていた。

 もしかして、この子かな。



「カサイケンゴさん…ですか?僕、メンバーの希望出して…」


「ああ、そうそう。どうぞ、ここ座って」


「お、お邪魔します…」



 なんというか、座り方一つにとても貴賓きひんを感じるな。

 ウェーブのかかった早苗色の髪にはつやがあり、毎日丁寧に手入れされていることが伺える。

 着ている服もずいぶん綺麗で、背中には布で包まれた大きな何かを背負っており、また顔にはしている大きめのゴーグルのせいで表情が見えずらい。



「…面接とか、しますか…?」


「いや、あんまりそういうのはないかな。とりあえず名前とかきいても良い?」


「…ジュリアーノと言います」



 おお、名前もそれっぽい。



「ジュリアーノは魔導士なんだよな、どんな魔術が得意とかある?」


「えっと…ヒーリングとあと氷属性と水属性の中級魔術がある程度。このつえを使えば上級も少しですが使えます。他は杖を使っても中級ができるかどうか…。あっ…でも基本的なものは使えます。魔力量はあまりないですが…」


「そのおっきいの杖だったんだ〜」



 ジュリアーノはいきなりしゃべり出したガイアに少しビビっていた。

 喋るぬいぐるみなんて怖いよな。

 中身はもっと怖いけど。


 話してみたが、悪いヤツではなさそうだ。

 少し人見知りっぽいけど気遣いができるし、何より一つ一つの所作しょさから分かる品の良さ。

 きっと良家の生まれなのだろう。




 オレたちはパーティー(仮)を組んで依頼を受けた。

 あの後少し話した結果、お互いの力量と相性の良さを見て最終的に判断しようということになったのだ。

 今回の依頼は民家の畑に住み着いたスライムを退治するだけなので、2人がかりだしそんなにかからないだろう。



「ジュリアーノは何で冒険者になろうと思ったんだ?」


「小さい頃からの夢なんです。父が聴かせてくれたおとぎ話に出てきて、それがすごくかっこよくて」


「へぇ〜、そりゃあいい思い出だねぇ」



 そうこうしていると、現場の集落に着いた。

 畑に生えている腰丈こしたけにまで成長した作物の間を、半透明な空色の丸いかたまりがぴょんぴょんと跳ねている。

 初めて見たけどあのビジュアルは間違いない、スライムだ。



「いた!」


「……6…7…8、全部で8匹ですね」



 オレが剣を抜くと同時に、ジュリアーノは背負っていた杖の布を開けた。

 彼の杖はまるであおい水晶のようで、先端に浮く透明な宝石をおおうように形づくられている。

 小並感こなみかんだけど、なんと言うか、強そう…。



「4、4で分担しよう」


「では、僕が右側を」



 会話の直後、こちらの存在に気付いたスライムたちが一斉いっせいおそいかかってきた。

 オレは先頭にいたスライム2匹を正面から横へ一刀両断。

 するとスライムはバシャッという音と共にはじけ飛んだ。

 前に剣を振った時よりも重く感じないし、手を放しそうになることもない。

 うん、やっぱり日々の筋トレの成果せいかが出てる。

 でも魔物とはいえ、ここまで可愛らしい姿を真っ二つにするのはなかなかに心苦しいもんだな。

 オレはジュリアーノの方を見る。



「凍てつく純水の晶魔よ、我が命に応えたまえ!凍砲フリーズバレット!!」



 彼が杖をかまえてそう言うと透明な宝石が水色に光り、直後杖の先端に吹雪ふぶきが起こった。

 そして吹雪を飛びかかってきたスライムたちに向けて発射。

 すると奴らは一斉に凍りつき、そのまま地面に落ちてくだった。

 すごい、一度に4匹も。

 オレも負けてらんないな。


 オレは体当たりをしてきたスライムを一度け、回れ右で1匹を斬る。

 そして襲いかかるもう1匹も、流れのままに剣を振るって真っ二つに。

 これでスライムは全滅、早くも任務完了だ。



「すごいじゃんかジュリアーノ、一気に4匹も」


「本当!ねらいもバッチシだったし!」


「ハァ…いえ、それほどでも…。ケンゴさんこそ、一月ひとつき前に剣を始めたばかりだなんてご冗談でしょう?」



 ジュリアーノの息は大分上がっている。

 ゴーグルの内の表情は見えないけれど、彼のの口角こうかくは確かに上がっていた。

 謙遜けんそんしてるけど、められて嬉しいんだな。

 


「それで…ケンゴさん。僕は…その…パーティーに加えて頂けるのでしょうか」



 ジュリアーノは息を切らしながらも、真剣な声色で言った。

 表情が見えないからこそ、それが強く伝わる。

 2週間声の上がらなかったメンバーへ、たった1人立候補りっこうほしてくれのだ。

 そんな彼に、オレはこころなしか運命を感じていた。

 礼儀が正しく気遣きづかいもできる、そして魔術の腕ももう分無ぶんない。

 そして何より、ジュリアーノがそばにいてくれるとなぜか心が安らぐのだ。

 彼の人格かはたまた醸し出す雰囲気からなのか、初めてあったとは思えない、容易く言い表せないこの感じ。

 いったいこの少年のどこに加入をことわる理由があるだろうか。



「敬語なんて使わなくていいさ」



 オレはジュリアーノへ手を差し出す。



「これからよろしくな、ジュリアーノ」


「…はい!あ…うん、よろしくね!」



 一瞬ゴーグルの反射が消え、ジュリアーノのひとみが見える。

 両手でオレの手をがっしりとつかむ彼の顔には、確かに満面の笑みがあった。

 これからはオレとガイアと彼との3人で行動することになる。

 ガイアのことは……まあ、いつか話そう。

 ジュリアーノが仲間になった。

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