モータルエデン〜天国は俺が思うよりも異世界でした〜

ほざけ三下

プロローグ

 はるか5000年の昔、世界はあかかった。

 爽やかな青が広がる空は燃え盛る戦火に染められ、生命の源であるはずの海すらも散っていった戦士の色が濃く浮かび上がっている。

 度重たびかさなる戦いの中でその魔力を使い果たした八百万やおよろずの神々は、終わりを見せぬ戦の命運をただ一柱の大神に託した。

 桃色の長髪をなびかせ、屈強な肉体と巨大な純白の翼を持つ彼は、人々のはるか上空で戦の元凶と相対していた。

 群青色の髪に星の瞳孔を宿した、こちらも屈強な男神。

 先の戦いで魔力などはとうに尽きた。

 しかし互いを殴り合う拳はどちらかが破れるまで止まることなど知らない様子で、ぶつかり合うたびに地上まで届くほどの衝撃波を起す。

 数日続く神々の決戦に戦士達は息を呑み、女子供は手を合わせて皆勝利と平和を祈った。

 何も食べず何も飲まず、ひたすら拳を振るう2人の体力はもはや限界に達している。

 だがしかし、5日目のある時、突如として決着がついた。

 勝者は翼を持つ神。

 戦いに敗れた星の瞳孔の神は、制御を失った飛行機のように真っ逆さまに落下し鈍い音をたてて墜落した。

 その瞬間、世界の終わりを見たような人々の表情は安堵あんどと喜びに変わり、世界中から大きな歓声が巻き起こる。

 邪神が打ち砕かれた、世界の平和が保たれた!!

 再び平和を手にした人々は拘束され地面に押さえつけられる星の瞳孔の神などには目もくれず、一心不乱に勝利を喜び乱舞した。

 だが翼の神だけは拳を交えた彼の元まで静かに歩み寄り、悲しげに、また憐れむような瞳で見つめていた。

 星の瞳孔の神はそれすら気づかず、焦茶色の地面をうつろな瞳で見つめ、たった一言を静かにつぶやく。

 それは敗れた怒りでも負け惜しみでもなく、ただひたすら悲しげで虚しげな呟きであった。



「また、ダメだった」

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