恐怖の館

@dandyitakeneko

第1話恐怖の館


シンは、目の前に広がる不気味な館を見つめていた。深い森に囲まれ、薄暗く湿気を帯びた空気が流れ込んでいる。館の重厚な扉は開かれているが、その先にはまったく見知らぬ空間が広がっている。どこかから微かな音が聞こえてきそうな気配があったが、それも風の音か、あるいは自身の耳の錯覚だろうか。


一歩踏み出したシンは、その時、不意に足元を気にした。館の中に入ってしまった以上、後戻りはできない。気を引き締めて足を進める。だが、その足取りは、どこか異常に重く、心拍数が上がっていくのを感じる。


「ここは…どこだ?」


シンは小さな呟きを口に出す。それすらも不安を隠すためのものだったのかもしれない。だが、返答があるわけもなく、館内はどこまでも静かだった。壁は古びた木材でできており、足元は時折ギシギシと音を立てる。だが、その音すらも、館の静けさの中ではまるで響かない。


その時、シンはふと、目の前にある部屋の隅に目を向けた。目の前には、何もないかのように見える部屋の一角に、引き出しがひとつ置かれている。その引き出しが、なぜか気になった。


ゆっくりとその引き出しに歩み寄る。シンはその取っ手を引き、引き出しを開けた。中には、数冊の古びた本が積み重なっていた。そのうちの一冊が、他の本と少し違う気がして、シンは手に取った。


ページをめくると、すぐに奇妙な感覚にとらわれた。まるでその本が彼を引き寄せるかのように感じる。それは、ただの本ではなかった。文字が異様に目に染み、まるで自分に何かを伝えようとしているかのように感じられる。


ページの隅には、かすかに小さな文字でこう書かれていた。


「音を立ててはいけない。音を立てる者は、最期を迎えることになる。」


その一文を見た瞬間、シンは体の奥からぞっとするような寒気を感じた。心臓が跳ね、耳がざわつく。それでも彼は本を閉じ、深く息を吸い込んだ。


「音を立ててはいけない…?」


不安が胸を締め付けるが、どうしてそのようなルールがこの館には存在するのか、シンには分からなかった。しかし、どこかでその言葉が意味を持つことを感じた。館の中で、何かが自分を見守っている気配があった。それは漠然としたものでしかないが、確かにその存在が背後に迫っているような気がしてならなかった。


シンは本をしっかりと抱え、館の中へと進む。足音が次第に響き渡るその空間の中で、彼は無意識のうちに音を立てないように意識していた。息を静め、足をすり足で歩くようにして進んでいく。


進みながらも、シンはその場にいること自体が不安でたまらない気持ちを感じていた。館内の空気が湿気を帯び、冷たく、どこかに潜む“何か”の存在がじっとその背後に迫っているような気がしてならない。それは一度振り返ってみても、何も見えなかったが、それでも確かに感じる何かがあった。


しばらく歩き続けると、館の中は異常に静かで、静寂だけが支配していた。シンは今、自分がどこに向かっているのかも分からない。ただ、今は進むしかないと感じていた。その時、再び耳元でかすかな音が聞こえた。


「…音を立ててはならない。」


その声は明らかに、シンの頭の中で響いていた。振り返るが、そこには何も見当たらない。ただ、薄暗い廊下が続いているだけだ。しかし、シンはその声に反応せずにはいられなかった。何かが近づいてきている。


シンの心臓が早鐘のように打ち始める。急に、館内の空気が重く、息苦しくなったような気がした。何かが迫っている。その予感が、シンの中でさらに強くなる。


恐る恐る、シンは歩みを止めると、耳を澄ます。だが、その時、まるでその音を確認したかのように、背後からひときわ大きな音が響き渡る。


その音は、誰かが足を踏み出すような音ではない。それは、何か異常な、得体の知れない音だった。


シンはその音を感じ取ると、足早に走り出す。音を立てずに走らなければならない。だが、無意識のうちに、その恐怖を感じながら走っていた。

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