第19話 目の前にビックランド
二手に別れた車は、バギーに装甲板を貼り付けた改造車だった。
前後乗車の二人乗りらしく、後部座席の銃架には武器が載っている。
右側のバギーには双連の機関銃が、左側のバギーにはリボルビング・ランチャーらしきものが搭載されているのが見えた。
リボルビング・ランチャーとは、六連装のグレネード・ランチャーのことだ。
ありゃあ危険だ。
六連装はヤバい。
しかも予備弾薬は沢山持って来てそうだし。
グレネード・ランチャーは射程が短いから何とか近寄らせない様にしなくちゃいけない。
この情報も無線で車内にまわした。
そして早くも右側のバギーの機関銃がチカチカ光り出し、ヒュンヒュンと弾丸が飛んで来ては、バスの車体をガンガンと叩き出した。
こちらは車体が大きい分命中しやすいからな、これだけ離れても当ててくる。
リュウが応戦を始めるが、逆にこちらからは当たらない。
リュウが撃つ機関銃は、バンローの街でバーバラ婆さんから買った代物だ。
特別性能が悪い訳では無いのだが、設計が古い上に箱型弾倉ときた。
今まで使っていたベルト給弾式に比べると、連射性能で圧倒的に劣る。
値段は安いが、それなりの性能という訳だ。
それで連射性能が劣る分、バス車内からの援護射撃は全て、リュウの銃座のフォローにしてある。
そして俺はというと、反対側のグレネード・ランチャー装備のバギーが相手だ。
時々AKタイプのアサルトライフルで応戦もしてくるが、その程度じゃバスの装甲は撃ち抜けない。
当たった場所にもよるのだがな。
数発だけランチャーを撃ってきたが、もっと近付かないと当たりゃしないよ。
しはらくお互いの攻撃が続いたが、弾の無駄と判断したのか、バギーが遠ざかって行く。
これで諦めてくれたかもと少し安心したのだが、それは大きな間違いだった。
リュウから無線連絡。
『ハコ社長っ、六時方向から武装トラック!』
バギーは単なる威力偵察に過ぎなかった。
本隊は武装トラックだったか。
俺も双眼鏡で確認したが、トラックというよりもトレーラーを改造した武装トレーラーだ。
徐々に速度を増して近付いて来る。
だが、ビッグランドまであと少し。
逃げ込めれば俺達の勝ちだ。
俺は運転手のスズに連絡する。
「後方から武装トレーラーが接近している。接敵する前に、ビックランドの防壁に逃げ込むんだ」
『マジっすか。でもハコ社長、エンジンが持つかどうか分かりませんっすよ』
「なあに、ビックランドに入っちまえば俺達の勝ちだ。それもスズの腕に掛かってるがな」
『了解、何とかやってみるっす』
とは言っているが、この速度を保てるのだろうか。
機関銃装備のバギーが再び接近して来て邪魔をする。
今度はバスの前方に入り込み、運転席を狙い始めた。
だが運転席はエンジン部分と同様に、一番防備が固くなっている箇所。
ライフル弾でも耐えられる装甲が貼ってある。
そう簡単にはやられはしない。
しかし……
『ハコ社長っ、エンジンの出力が下がってきたっす!』
と言う、運転手のスズからの悲痛な叫びが無線から聞こえた。
「何とかしろっ。ビックランドまであと少しだ!」
『む、無理っす。止まりそうっす!』
そう言ってるそばから、バスの速度がみるみる落ちてきた。
運が悪いことに今走っている場所は、丘を越えようとする上り坂。
後ろからは武装トレーラーが、図太いクラクションを鳴らして追い付いて来た。
そして登り坂の頂上、つまり丘の上へ来た所でエンジンは停止した。
同時にバスも停車した。
そこから見えた景色。
それは道横にある「ようこそビックランドへ」という朽ちかけた大きな看板と、その数百メートル先に見える廃墟と化した街だった。
「これはどういう事だ……」
誰もが固まった。
目の前にゴールはあるのだが、想像したゴールではない。
前方を走るバギーからの銃弾が、バスの装甲板を幾度なく叩く。
だが誰も応戦しない。
そんな中でリュウが無線で話を切り出す。
『どうなってんだよ!』
いや、それは俺が知りたい。
続いてスズ。
『ビックランドはどこにいったっんすか』
俺に聞かれても知らんがな。
ここはモエモエに聞くしかないだろ。
俺は車内放送を使って質問した。
「なあ、モエモエ。これって、どうなってるんだか分かるか?」
しばらくすると、モエモエが無線を使って言葉を返してきた。
『え〜、そんなの私が知ってるはずないじゃ〜ん』
そうだよな。
モエモエが知ってる訳ないよな。
そこへグレネード弾の破裂音。
続いて雷鳴。
一瞬でバスの電源が落ちる。
続いて全身が硬直。
「あばばばば!」
「ぐあっ」
「ひぐっ」
悲鳴が漏れた。
電撃系の呪符が施されたグレネード弾だったらしい。
完全に油断した。
身体中から煙が噴き出し、俺は銃座の中に倒れ込んだ。
幸いなことにこのバスには耐電装置が組み込んである。
といってもこの有り様。
安物だから完全には防げなかったみたいだ。
しかし電流による人体への被害はそこまで酷くはない。
後部銃座のリュウもなんとか生きている。
しかし身体が言うことを利かないのはヤバい。
奴らは乗り込んで来るだろうな。
バギーの音が二つ近付いて来て、バスの周囲を回りだした。
時々バギーから無駄に撃ってくるが、バスからは誰も応射はしない。
誰もが電流で身体が動かない状態だからな。
もしかして奴ら、俺達が死んだと思ってやしねえか?
有り得る。
そうなるとこの状況。
普通なら欲が出る。
バスの積荷を無傷で手に入れたいと思うだろうな。
武装トレーラーの音も近付いて来た。
その隙に俺は出来ることをしていく。
口さえ動けば魔法が使えるのがスペルキャスターだ。
俺は自分に回復魔法をかけた後、リュウにもかけておく。
とはいっても、自分にかける魔法ほどは効果が無い。
どんな魔法でも一番効果が良いのはいつも自分だ。
何故かは分からん。
だからリュウに回復魔法をかけても、直ぐには動け無いだろう。
次いで天井上と車内を結ぶ、昇降ハシゴの穴から車内へと知らせる。
「敵が乗り込んで来るはずだ。気を付けろ」
そうは言っても戦えそうな者などいないか。
他の皆は未だに床に
だが全員を回復している余裕は無いし、俺の秘密を広めるのも気が引ける。
俺はショットガンの準備をする。
そのタイミングで武装トレーラーが近くで停車し、バギー二台も止まった。
銃座からそっと
そいつらを見て驚いた。
「スカル団じゃねーか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます