試し書き

ラルト

存在したかもしれない思い出

 既に日も落ちきって暗くなった田舎道、ポツポツと並ぶ外灯の光に照らされる中で真っ白い雪が次々と降り続いていた。

 自分の足が積もったばかりの雪を踏む音と水路を流れる水の音、そして時々遠くから聞こえてくる車の音すらどこか遠くに聞こえる。今夜の雪は柔らかく、地面に着地する瞬間に音を発さず、また積もった新雪は周囲の雑音を吸収するからだ。

 時折傘に積もった雪を振り落としながら家路を歩く、間もなく我が家だ。家との距離が近づくにつれて腹は鳴らずとも空腹を訴えてくる、今夜の夕食はなんだろう?家に着けば分かる。

 さらに我が家に近づくと僅かに開いた台所の窓から醤油と出汁、そして豚肉の匂いがほんの少しの熱を伴って冷気に痛む鼻に漂ってきた。今夜の夕食は肉じゃがか。とうとう腹の虫が鳴り始めた。歩調が自然と早まる。

 玄関の前で改めて傘に積もった雪を振り落とし、玄関の戸を開く。


「ただいま。」

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試し書き ラルト @laruto0503

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