深すぎる浅井君

解体業

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 今日もまた、素晴らしい一日が始まった。はっきり言って、俺の一日は人間の本質的な可能性を探求するためにある。早朝から図書館に足を運び、哲学的な探求に没頭する。読む本は、もちろん「唯心論」や「倫理学」といった、普遍的な真理を追求するための深遠なものばかりだ。これらを読むことこそが、我々人間が直面しかけている数々の問題を解決する一番重要な方法だからだ。俺は、表面的な流行に囚われて手のひらで踊らされている愚かな奴らとは違う。

 そして午後はジムで身体を鍛える。単なる筋トレに過ぎないと思われるかもしれないが、これもまた「身体的自己実現」への道であり、自己の限界を超えるための行為なのだ。精神と肉体との調和こそが、真の幸福をもたらすはずだ。

 夜は映画を観るが、流行のアクション映画などはてんで興味がない。俺が観るのは、監督が人間の本質を描こうとしているような作品だ。そして、精神的な教養になるような作品だ。要するに、俺の一日は何一つ無駄なことがない。すべてが「深い」行動だ。

 それなのに、周りの人間はどうしてあんなにも無駄な時間を過ごしているのだろうか?アサイーボウルなどといった流行のものに飛びついてはSNSに意味もない投稿をして、他人と他愛もないやり取りをして、結局それが一体何のためになるのだろうか?時間を無駄にして、得られるものは空虚な自己満足だけだ。それに気づかず、平然と続けるなんて、凡人というのはなんて愚かなのだろう。俺は凡人ではない。充実した日々を送っている人間がどうして凡人であろうか。



「おい、浅井、お前は今日も元気そうだな。今日は何をするんだ?」

 友人の高山に質問されると、俺は得意気に答えた。

「今日も予定がぎっしりだよ。朝は図書館で勉強して、午後はジムで筋トレ、それからカフェで読書、夜は映画を観るんだ」

 自信満々に話す俺を、高山は静かに見つめていた。

「へぇ、忙しいね。でもさ、それって本当に深いことなのか?毎日同じことの繰り返しじゃない?」

 高山の言葉に奇妙な違和感を覚えた。俺は自分が充実しているかを実感しているのに、なぜそのようなことを言うのだろう?

「いや、全然違うよ。毎日をどう生きるかを意識して俺は無駄な時間を過ごさないようにしてる。毎日成長できるようにしているから、繰り返しなんてことは絶対にない」

 高山が少し不思議そうに眉をひそめる。このように俺の行動を疑問に思う浅い人間も稀にいるが、俺はそれに動じるような人間ではない。

「でもさ、君って結局、詰め込みすぎじゃないの?朝から晩まで忙しすぎて、何をしてるのか覚えてないんじゃないか?」

「何を言ってるんだ。そんなことはないよ。俺は無駄を排除して、効率よく生きている。忙しいのはむしろ良いことなんだ」

 高山は苦笑いをした。何だよ、皮肉でも言いたいのか?

「でもさ、君、毎回そんなこと言って誤魔化してるけど、やっぱり深くやれてないんじゃないかと思うんだ。たとえば、本を読んでるって言うけど、ちゃんと内容を覚えてる?」

 え?その問いに少し驚いた。もちろん覚えているに決まっている。なぜなら俺は毎回真剣に本を読んでいるし、無駄な時間を過ごさないようにしているからだ。

「それは・・・・・・覚えてるさ。もちろん、深く理解してるし」

「本当に?」と、高山は少し冷静に言った。俺が言うことに納得できないでいるのが感じられた。

「まあ、君がどう思おうと、俺の生活が充実していることに変わりはないから問題ないさ」


 そうして高山との会話はあっさりと終わり、俺はまたいつもの充実した一日に戻った。しかし、何だか少しだけ渦を巻いている部分が心にある。高山が言ったこと、あの「忙しいと結局何をしているのか分からなくなる」という言葉。あの言葉が、少し引っかかるが気にしない。なぜなら、そのようなつまらないことを悩み考え込むのは無駄なことだからだ。俺のような人間が無駄なことに時間を割いていてはいけない。


「さあ、次は映画だな」

 そうつぶやきながら、スマホで今日観る映画を探す。深い映画を観ることも、自分を高めるための重要な行動だ。昨日観た映画がいかに素晴らしかったかを考えると、今日はどんな作品が待っているのだろうかと思う。

 映画を観終わり、深い感想を頭の中でまとめる。こうした感想こそが、俺の自己成長に繋がるのだと、心の中で自分に言う。もちろん、この感想を誰かに話すことはしない。なぜなら、俺の思索は深すぎて、他人に簡単に理解されるものではないからだ。

 翌日の予定を考えながら寝室に入ると、次の一日もまた詰め込みすぎていることに気づいた。そして俺は、満足感に浸りながらこう言った。

「忙しいってのは充実している証拠だ。俺は毎日成長し続けている」

 その夜も、深く理解した本を読みながら寝る準備をした。起きた瞬間、また次の日が始まり、そして今日もまた、無駄のない一日が始まるのだ。

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2024年11月26日 06:00

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