第6話 皇帝は誰がやるの?
私はまだ「夢の中」にいる。
***
エスペンに救出された私とゲオルグは、白い軍艦”アドミラル・パスカル号”に乗り込んだ。パスカルとは、おそらく人名。帝国軍の現在の総大将の名前だろう。
※小説内でこの軍艦は、15年後『アドミラル・マキシム』号として登場する。マキシムとは、当時の軍の総大将マキシム・キース(後の皇帝)の事。
甲板では、整列した白服の騎士たちを前に、エスペンがなにやら物騒な指示を出していた。一応エスペンは、まだ、この隊の隊長らしい。
ふと、この艦の現在の責任者。つまり軍のトップの”パスカルさん”の所在が気になったものの、聞こえてきたエスペンの言葉に、それは一瞬で吹っ飛んだ。
「これより『
侵攻!? ちょ、ちょっと待って。
「「「異論なーし!」「迷うわけねぇだろ!」「とっとと行こうぜ!」「地獄までついて行きますよーーー!」」」
全員ノリノリ。誰一人、艦から降りるものはいなかった。
「そうかお前ら……ありがとう。直ちに出港準備に取り掛かれ!」
「「「「はっ!」」」」
白服の騎士たちは、それぞれの持ち場へと散っていった。
「エスペン、待ってくれ。お前たち何をするつもりだ」
ゲオルグがエスペンを問いただした。
「何って、クーデターだよ」(エスペン)
「「は?」」(ヴィティ&ゲオルグ)
私とゲオルグは目をぱちくりさせた。
「は? じゃねーだろ」(エスペン)
いや、”クーデター”だよ。普通はそうなる。
「殿下、このまま逃亡するおつもりですか? 帝国民を苦しめる腐った輩を野放しにするのですか!?」(エスペン)
エスペンの正論に、ゲオルグは苦々しい表情で言い返した。
「王家に生まれた以上、運命には逆らえぬのは承知している。だが俺は、ノール帝国に亡命がてら留学し、音楽を学び、世界的ピアニストになりたいんだ! だから、クーデターなんてごめんだ! 俺を巻き込むなーーー!」
「「はぁ!?」」(ヴィティ&エスペン)
クーデターの次は、亡命がてら留学!? 世界的ピアニスト!?
私は唖然とするも……この2カ月間、夢中になってピアノを弾くゲオルグの姿に、なんらかの才能を感じたのも事実。(音楽のことは全くわからないが)
可能であるなら、クーデターに行くより、ゲオルグの本気の夢を応援してあげたい。ノールへ亡命したい。クーデターなんて、私もごめんだ!
まずは、どうにかしてこの軍艦から降りなければ……
「ゲオルグ兄さん!!!」(???)
兄さん?
突如現れた銀髪赤目の大柄の若い白服の騎士が、ゲオルグに駆け寄りガバッと抱擁した。
「ああっ兄さーーーんっ!!!! 久しぶりです!!!! 会いたかった―ーーー!!!!!」
ゲオルグはまるで大型犬にじゃれつかれるように、大柄の騎士に揉みくちゃにされている。
ゲオルグの「弟」? 外見は全く似ていないから異母兄弟のよう。
以前ゲオルグは、殺伐とした表情で「皇位継承権争いがなんちゃら~」とか言っていたが。あんな風に無邪気に慕ってくれる兄弟がいるんだ……と安堵し同時に少し羨ましく思った。
「ぅおっ、おい、よせ、マキシム……お前。なぜここに居る。そ、それに、いくつになった?」
マキシム!?
えええええっ!!!!!
(※何度か話に出てきた、未来のジェダイド皇帝です。)
「もう19です!」
マキシムは、至極嬉しそうに答えた。
19歳のマキシム! めっちゃ肌キレイ。それに、ちょっとかわいい!
まだ頬のあたりに幼さが残る精悍なお顔立ちのマキシムを、まじまじと見つめた。
「19か……大きく、それに立派になったな。お前はまだ若い。こんな危険な真似はやめ……」
「今しかないんです! 腐敗政治に物価の上昇。食料不足。各地で反乱も起こってる。この先、何も手を打たなければ、この国は内部から崩壊します。政治、経済、国際社会に詳しいゲオルグ兄さんが皇帝となり、この国を建て直してください! 俺はその”剣”になります。この帝国には、兄さんの力が必要なんです。お願いします!」
マキシムは大きな手で、ゲオルグの手を取りギュッと握りしめた。
ゲオルグが痛そうに顔をしかめた。
「痛……痛たたっ。とにかく俺は、皇帝になる気はない。マキシム、君のほうが皇帝っぽいよ。だから手、放して」
「放しませんよ。俺なんかゲオルグ兄さんに比べたら、知識も経験もまだまだ未熟なヒヨッコです」
「その力、ヒヨッコじゃないだろ、放せ」
「行くって約束してくれるまで放しません」
「な、なに!? エスペン、なぜこいつを連れてきた!?」
もはやゲオルグは半泣き状態だ。
「勝手について来たんだよ」
エスペンが面倒臭そうに答えると、
「エスペン隊長、何なんですかその言い草は。上層部に拘束された隊長を、わざと逃がしたのは俺ですよ。もっと感謝してください」
マキシムが悪戯な笑みを浮かべた。
「もしかして、真の首謀者はマキシム。お前なのか?」
ゲオルグが訊ねると。マキシムは深く頷き、私とゲオルグを交互に見つめた。
「そうです。このクーデターは、俺が企てました。ジェダイド帝国元女帝ヴィティ様。ゲオルグ兄さん。お願いします。この国のために力をお貸しください!」
「ではマキシム。これが成功したら、俺をしばらく【自由の身】にすると約束してくれるか?」(ゲオルグ)
「お約束します!!!」(マキシム)
「え!? じゃ、皇帝は誰がやるの?」(エスペン)
「ヴィティ様がいるじゃないですか」(マキシム)
マキシムがめっちゃ笑顔でこっちを見た。
エスペンとゲオルグが、声にはしないが「マジで!?」と口を動かし、真っ赤な瞳に不安の色を滲ませた。
***
私はまだ「夢の中」にいる。
夢であれ。
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お付き合いいただきありがとうございます。
カクヨム初投稿で、まだオロオロしております。
次回、明日更新予定。
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