第8話

「まさか莉乃がネクタイ忘れるなんてね。」



その日の休み時間。


校門での一部始終を包み隠さず、私は親友の朝倉恵麻あさくらえまに話した。



「良いなー。五十嵐先生にネクタイチェックしてもらえるなんて、なんかエロ。」



そうだった。


恵麻は五十嵐ガールズの1人でした。



「どこもエロくないし、てかみんななんでいつもネクタイしてないのに今日に限って…」



「いや、先週のHRで担任が言ってたじゃん。」



恵麻があきれたように私にため息をつくと、



「こいつの小さな脳みそじゃ先週言われたことなんて覚えてないだろ。」



トイレで席を立った涼の席に私が座っているものだから、早くどけろとでも言いたげにこちらを見下ろす。



「失礼すぎなんだけど!」



恵麻と涼は前後の席。


休み時間は涼がいなければ、こうして私が占領しているわけだけど。


さすがに真横に立つどデカい男からの威圧感に耐えきれず、私は席を譲った。



「ネクタイ以前によくその頭で頭髪ひっかかんなかったよな。」



「は?」



涼がいつものように澄ました顔でフッと笑うと、



「はねてんじゃん。」



私の左の顔周りの毛を一度指で弾いた。



たしかにそこは私も少し気になっていたけど、



「まぁでも寝癖って言われないとわかんない程度でしょ。」



恵麻がそう言ってくれたようにそこまでひどいものじゃないのに。



また私をからかって涼は勝ち誇った気でいるんだ。

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